トップインタビューホンダ注目

ホンダモーターサイクルジャパン 室岡 克博 社長【ザ・トップインタビュー】

公開日: 2020/11/16

更新日: 2021/08/06

――― 室岡社長はさまざまなキャリアをお持ちであると聞いています。入社から現在に至るまでの経歴を教えて下さい。
室岡
 話すと長い話になりますが、よろしいでしょうか(笑)。

――― ぜひ、お願いします。でもあまり長いようでしたら、ポイントだけでも構いません(笑)。
室岡
 1987年に本田技研工業に入社しました。当時から海外で仕事をしたいと思っていたので、希望配属先として海外汎用機部門を選びました。これには理由がありました。ホンダに入社する新入社員の多くは希望配属先に四輪部門を選びます。それに次ぐのが二輪です。そのため、自分の希望が叶う可能性は低いだろう、と考えました。そこで、希望者の比較的少ない汎用機部門(現ライフクリエーション事業)であれば、海外で仕事をする近道だと思い、希望しました。その時の面接官には「君みたいな人は珍しいよ」と言われたほどです(笑)。でも、最初の配属は熊本製作所の総務。予想もしなかった部署で将来も見えず働いていたところ、工場管理部に異動となりました。入社時の希望はさらに遠のいてしまいましたが、捨てる神あれば拾う神ありで、私を海外事業課に引き抜いてくれた方がいたのです。そして1994年、あるプロジェクトの中国担当に任命されました。その時、初めて海外出張を経験しました。そんな私の様子を見てくれていた別の先輩がいて、29歳の時、その方に本田技術研究所朝霞研究所に引っ張って頂いたのです。そして2年後の1996年、ついに転機が訪れました。ホンダR&Dサウスイーストエイジア・シンガポール事務所への赴任が決まったのです。

――― 入社から9年目にして、念願が叶ったわけですね。
室岡
 嬉しかったですね。ただ、驚いたこともたくさんありました。シンガポールには非常に優秀なスタッフがアジア各国から集まっており、全員がホンダに対するロイヤリティが高く、懸命に働いていたのです。その姿を見た時、「ホンダは日本人だけの会社ではない。彼らにもっとホンダで働く喜びを感じてもらいたい」と思うようになり、それがその後の私のモチベーションとなりました。これは日本に戻った今でもそうです。1999年にはタイに移り、ホンダの現地研究所を現地法人化するというミッションを遂行し、本社をシンガポールからタイに移転しました。ひと言で言うと、組織づくりと人材育成です。タイには都合4年間駐在しました。そして朝霞研究所に一旦戻り2003年、今度はインドに赴任しました。ミッションはタイの時と同様、現地研究所の組織、体制づくりでした。そこで3年間、インド国内の開発に携わりました。そして2008年に帰国し、青山の二輪事業本部二輪事業企画室というセクションに異動となりました。経営の中枢です。ここで経験を積み2010年、今度はホンダモーターサイクルジャパンに経営企画室長として出向し約3年間、営業を学びました。一旦、二輪事業本部二輪営業部に戻った後、今度は2015年にアフリカ・中東統括部・二輪企画課に異動。そして2016年にアフリカのホンダナイジェリア法人である「ホンダ・マニュファクチュアリング・ナイジェリア・リミテッド」に社長として赴任しました。その後4年間、この生産・販売の一体会社を経営しました。そして今年帰国しこの6月、HMJの代表取締役社長に赴任しました。ざっとこんな感じです。

ナイジェリアでバイクタクシーのリヤシートにまたがる室岡社長(2016年)

――― 驚きのキャリアですね。海外の最後の赴任地は、ナイジェリアだったわけですね。どんなミッション?
室岡
 世界におけるホンダの二輪販売シェアはナンバー1です。地域ではアジアが最大で、国別ではインドが最も大きなマーケットです。ただ、徐々にサチュレート(飽和)に近づいてきているのが現状。では、次はどこかというと、アフリカなのです。人口も拡大し続けており、ネクストポテンシャル市場と言われている。そうした理由から4年間、ナイジェリアで市場開拓を行ったというわけです。

――― 今後の開拓が期待されるアフリカと競争が激しいインド。両極端ですね。
室岡
 インドはバジャージや、かつては生産・販売の合弁パートナーだったヒーローなどの地元企業が強いのです。けれどもいま、ホンダは互角に戦っています。シェアはヒーローに次ぐ2位です。多くの人口を擁しながら、そのほとんどが低所得者なので、彼らの生活を支える移動手段としていかにバイクを安く提供できるかが勝負となります。その際たるものがアフリカ。実は40年前、すでにホンダはナイジェリアに進出していたのです。当時のアフリカは、今よりも住みやすい国でした。ところがクーデターが発生し政治が混乱したことで市場が崩壊してしまったのです。でも、ホンダはそんな状況にありながらも撤退しなかった。徐々に景気が回復に向かうと、バジャージやコピーバイクなど低価格車両が流入し、市場を席巻しました。こうした状況を看過することはできないため、赴任しシェア奪還に動き始めたのです。

――― 結果は。
室岡
 販売網を倍に増やし、ナイジェリア向けに開発した廉価モデルを投入、10 万台近くまで販売することができました。シェア奪還も見えてきたところだったのですが、コロナでやむなく帰国しました。

――― 凄い経歴ですね。海外にいると、日本を客観視できるのでは。
室岡
 その通りです。日本にはアフリカとは正反対の課題があります。アフリカは人口が増加していて年齢も若い。つまり市場はどんどん大きくなります。一方、日本は人口が減りマーケットは縮小している。ある意味、日本市場再開拓ですよね。

ホンダドリームの来店客の46%が30代以下

ご子息(次男)と富士山ツーリングに行った時の写真(2013年5月)

――― 話は変わりますが、今年度9月までの対前年販売実績はどうでしょう。コロナの影響等も含め、教えてください。
室岡
 社内で危機感を持ち始めたのは5月です。緊急事態宣言が出て、最初は販売もガクッと落ち込みました。その頃は、どこまでこの状況が続くか分からなかったので、計画を下方修正しました。期初の販売計画は17万台でしたが、それを15万3000台まで落としたのです。ところが月が変わると状況は一変。6、7、8月は好転し、上期は過達となりました。前年同期比では約95%です。去年は消費税の駆け込みがあったので、それを差引くとほぼ例年並みに戻っているという感じですね。心配した原一スクーターのタクトも戻ってきた。参考までに、4~9月の原付一種は3万2247台で前年同期比84・4%、二種は3万3397台で91・1%、軽二輪は1万9240台で131・2%、普通二輪が2610台で100・3%、そして大型二輪が4165台の109・1%となりました。

――― 結果的には軽二輪以上において、すべて前年実績を上回ったことになるわけですね。
室岡
 特別定額給付金を原付一種、二種の購入費用や免許の取得費用に充てたお客様が多かったため、リカバリーに結び付いたのだと思います。また、今期はCT125・ハンターカブとレブル、この2台が好調販売の原動力となり毎月、受注ペースが上がっていきました。閉塞感のある日常の鬱憤をバイクで晴らしたい人が多いのでしょうね。二輪が好調なのは、日本だけではなくアメリカやヨーロッパなど先進国も同様です。それを受け、今度は計画を17万5000台に上方修正しました。今後は生産を伸ばし、この計画を守り切りたいと考えています。

――― 先ほどCT125・ハンターカブとレブルが特に好調という話がありましたが、他の機種は。
室岡
 総じて好調です。ホンダドリームの販売比率は現在、原付二種と軽二輪が全体の60%強となっており、中でもレブルが好調です。今期後半には大型Funモデルの販売比率を高め、新たな大型Funモデルを提案していく計画です。

――― ホンダドリーム、ホンダコミューターの現在の店舗数は。
室岡
 ホンダコミューターは約4500拠点、ホンダドリームは、認定ベースで164拠点(10月2日現在)です。先頃、富山と石川にオープンしたので、残る空白地域は秋田と福井のみとなりました。ドリームは2020年度末までに200拠点を計画していましたが、コロナの影響を機に投資効率について精査し始めました。今後も、この2つのチャネルの販売店様とともに、お客様のニーズに合わせた対応力やコミュニケーション能力を高めることで、二輪市場の「健全で持続的な発展」に繋げていきたいと思います。

――― やはりコロナの感染拡大は、出店計画にも影響を及ぼしているわけですね。ではコミューター領域、Fun領域の展開については如何でしょうか。
室岡
 ホンダは昨年12月に、二輪の世界生産累計4億台を達成しました。これは1949年のドリームD型の生産開始から70年目での快挙です。現在は世界21カ国35拠点で50㏄のコミューターから1800㏄の大型モデルまでを生産しています。このうち原付二種は、受注が1・3万台(9月16日現在)に迫るCT125・ハンターカブやPCXが好調で、軽二輪ではレブル250やADV150が全体をけん引しています。また、CBR250RRやCB250Rも若年層に支持されています。400㏄クラスでも定番モデルのCB400SF/SBやCBR400Rが好調です。

――― 大型クラスはどうですか。
室岡
 昨年モデルチェンジしたCRF1100LアフリカツインやCBR1000RR-Rファイアーブレードなど各カテゴリーのトップエンドモデルは、ニューモデル効果もあって好調です。また、車両のダウンサイジングを求めるベテランライダーや、400㏄クラスからのステップアップを考えているお客様から人気なのが、CB/CBR650Rです。これからも原付二種、軽二輪の好調販売を拡大していきます。昨年、AT限定大型免許で運転できる排気量が、従来の650㏄から無制限となり、ホンダではAT限定で乗れるゴールドウイング、アフリカツインに加え、X-ADV、NC750Xなどラインアップを拡充しました。今後はDCT搭載機種の追加などを行う計画です。

越後湯沢まで奥様とタンデムツーリング(2010年)

――― ユーザーの年齢層は年々、上がってますが、ホンダユーザーの場合はどうでしょう。
室岡
 自工会のデータによると、新車購入者の30代以下の比率は12%です。そこで、ホンダドリームの30代以下のお客様の比率について調べてみました。てっきりおじさんばかり(笑)だと思っていたら、実に46%が30代以下であることが判明しました。これには我々も驚きました。いまの若い人たちは、新しい店、大きい店に行く傾向があるようです。これはある意味、チャンスです。ホンダドリームで20代のお客様にレブルを買って頂けるわけですからね。問題は、そこからどうやってステップアップして頂くかということ。ただ、おそらくCBRに乗るお客様と違い、レブルユーザーは大型に移行しようとは思っていない方が大多数だと思います。レブルで十分に満足されているのです。免許も普通二輪ですからね。大型免許を取得し、いかにゆとりのある大型バイクに移行して頂くのか。これについていま、考えているところです。

――― Honda GO BIKE RENTALが好調なようですね。
室岡
 先ほど年齢についてお話ししましたが、Funモデルのユーザー年齢について調べたところ、50代の男性が中心で、20~30年前に乗ってた人が継続して頂いているだけの状況であることが分かりました。このまま歳を重ね70代になると、徐々に降りてしまう方もいらっしゃるでしょう。つまり比較的堅調なFunモデルであっても、若者の新規需要を増やしていく必要は当然あるわけです。そのために稼働したのが「Honda GO BIKERENTAL」なのです。現在、レンタルを行っている店数は全国257件(10月2日現在)となりました。車両は新車のみなので、新型のバイクに乗れるのが魅力です。会員数も2万人を超えました。調べたら、嬉しいことに30代以下の若い層が30%を占めていたのです。しかも、サービス利用者に購入して頂くケースもあります。意外だったのが、買うつもりはない、という人も一定数いることです。理由は「買っても置き場所がない」ため。これらのお客様には定期的に借りて頂いてます。そのためサブスクリプションも検討したいと考えているところです。

女子社員を情報発信のリーダーに抜擢

国内市場の開拓はHMJが取り組むべきものと語気を強める。

――― 最近、「ホンダフリートマネジメント」というサービスを開始したと聞きました。
室岡
 10月1日から始めました。これは、ビジネス車両に通信機(端末)を載せることで、車両がどういう走り方をしているのか、といったリアルタイムな位置情報や、稼働状況を把握できるというものです。狙いは業務効率の向上と安全運転の啓蒙にあります。弊社ではハードとソフトを提供します。あと、いま進めているのはカスタマーリレーションマネジメントです。例えば「Honda GO BIKE RENTAL」の情報は、ホンダドリームではなく弊社が持っているわけです。一方、店のイベントに来場したお客様の個人情報は、店での集計・管理です。それをすべて一括で管理しようというものなのです。

――― 一元管理ということ。
室岡
 そうです。一部のメーカーもそうだと思いますが、ユーザーへの情報提供は、本社から発信するように変えていこうと思います。また今後、さらに力を入れていかなければならないのは、お店のスタッフとお客様とのコミュニケーション時間の拡充です。その観点でもカスタマーリレーションマネジメントを導入し、少しでも店の負担を減らす方向で動ければ、と思っています。Funモデルのお客様は、お店とのコミュニケーションを楽しみにしているので、それを大切にしようと思います。

――― SNSを活用した情報発信にも積極的に取り組んでいるようですね。
室岡
 はい。実は6月に社長になって初めて取り組んだのが、それなのです。ツイッターやフェイスブックは、弊社社員だけではなく本田技研の社員も見ていますが、さまざまな意見・指摘を受けています。最も多いのは、単なる情報発信にとどめるべきではない、というもの。面白くするには、やはり若い人たちの感性やアイデアが必要ではないか、との結論に至りました。その時、ある女子社員にインスタグラムをやっているか聞いたところ、はい、と。見せて貰ったのですが、センスがいいんです。そこで、彼女をリーダーに抜擢し、プロジェクトを組んでツイッターを発信するよう指示を出しました。結果的には大成功で、雰囲気もガラッと変わりフォロワー数も一気に増えました。

――― リーダーの女子社員にとっても、大きな自信につながるのでは。
室岡
 それはあります。いま直面している問題として、国内二輪市場の開拓があります。ホンダには、本田技研工業がありHMJがありますが、本田技研は世界を見ています。つまり国内市場開拓はHMJが取り組むべきもの。こうした考えのもと、国内開拓は弊社で担って行きたいと考えています。弊社の若い社員を中心に、若年層の開拓を行っていきます。SNSはその第一歩ですね。プロジェクトを担うリーダーを中心とした社員のモチベーションを大切にしたいと考えています。来年の東京・大阪・名古屋モーターサイクルショーの中止が決定しましたが、その代わりにバーチャルで行います。若者層開拓の一環ですね。今年の2月にも実施しましたが、あれを上回る規模で、単にニューモデルを紹介するだけではなく、バイクに興味のない人にも「面白い」と感じて貰えるような、さまざまな企画を考えています。

――― 次世代モビリティについては、どのようにお考えでしょうか。
室岡
 排出ガス規制への対応をはじめ、ガソリンなど化石燃料の代替エネルギーとして、ハイブリッドを含めた電動化への取組みを加速させていきます。一昨年、PCXハイブリッドとPCXエレクトリックを投入し、昨年12月には、ビジネス用電動二輪車「BENLY e:」シリーズを発表しました。また、今年1月には日本郵便様に、郵便配達業務で使用する電動二輪車として、「BENLY e:」を納入させて頂きました。このように、電動二輪車がスーパーカブのようにより多くのお客様の身近な存在となるよう、取り組んでいきます。課題としては、バッテリーの充電時間や航続時間、バッテリーチャージャーの設置問題などがありますが、それ以前の問題として、道路環境などインフラ面での問題が大きいと思います。私個人の話ですが、一時期、コロナ対策としてバイク通勤にしたことがありました。国道17号を使っているのですが、あそこは二輪専用レーンがあるのはごく一部。すり抜けは危険だし、ドライバーには疎まれる。走っていても快適ではありません。海外はどうかと言うと、ヨーロッパには専用レーンがあり、すり抜けようとすると、クルマが避けてくれる。二輪専用の駐車場もありますしね。次世代モビリティ社会を創り上げるためには、こうした環境整備を進める必要もあると思うのです。

――― 確かにそうですね。日本におけるバイクの地位は低いと思います。では、この先、国内二輪市場はどう動いていくと思いますか。
室岡
 このままだと国内需要は減退する一方です。だから、トップメーカーとして我々が需要を作り出さなければならない。この需要減にどのように歯止めをかけるのか。これが我々の仕事だと思っています。今日も全社朝礼で檄を飛ばしたのですが、需要開拓は誰がやるんだ、と。日本の未来の二輪市場を作るのは、ホンダモーターサイクルジャパンだ、と。こんな思いで今後、取り組んでいきたいと思います。

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