公開日: 2022/04/01
更新日: 2022/09/06
小型二輪クラスが非常に好調だ。それは、新車国内出荷台数や販売台数の数字にも表れている。2021年の小型二輪の新車国内出荷台数は5万8164台。前年比58.4%増で、5万台を突破するのは今世紀初のこと。販売台数も8万3571台(前年比24.0%増)と、2001年以降、2番目に高い結果となった。
いくつもの業界がコロナ禍で苦境にあえぐ中、二輪業界は大きな打撃を受けることなく、むしろ好調な推移を見せている。それは販売店の声としても聞かれるほか、数字にも表れている。
例えば、新車国内出荷台数(以下、出荷台数)。昨年、全体で37万8720台(二輪車新聞調べ)となり、前年比で15.3%のプラス。右肩下がりの傾向にあった出荷台数だが、2015年の水準にまで戻してきている。そして、出荷台数には特筆すべきポイントが2点ある。
一つ目は、原付二種の躍進。昨年、同クラスの出荷台数は12万5651台( 前年比23.5%プラス)。12万台を超えるのは、2008年の12万950台以来13年振りで、21世紀になってからの最高台数なのだ。
なおかつ、最大のボリュームゾーンとなっている原付一種との差が2000台ほどにまで縮まっている。もしかしたら今年、トップシェアになるのは原付二種となるかもしれない。その勢いを、このクラスから感じることができる。
もう一つが、小型二輪クラスの大幅な伸長だ。同クラスにおける昨年の出荷台数は5万8164台(同58.4%プラス)。6割近くも台数が増えたのだ。この5万8164台という数字、これも原付二種と同じく、2001年以降の最高台数で、さらに言えば21世紀になってから初めての5万台突破なのだ。
それだけではない。同クラスの昨年における販売台数は8万3571台( 同24.0%プラス/全軽自協調べ)。これも、2001年の8万5612台に次いで、21世紀で2番目に高い数字である。2021年は出荷台数、販売台数ともに、実は記録的な1年だったのだ。
原付二種は、通勤や通学など日常の足として使われることが多々ある。しかし、小型二輪を日常の足として使う人は、そう見かけない。趣味として乗る人が多いのは、説明するまでもないことだろう。それだけに、小型二輪の大幅な増加というのは、バイクのあるライフスタイルが確立されつつある証ではないかと思うのだ。
では、各メーカーにおいて、小型二輪クラスを牽引したのはどのようなモデルなのか。
ホンダの場合、400cc以下のクラスでは「GB350/S」。ニューモデルとして4月に「GB350」、7月に「GB350S」が登場。メーカー希望小売価格が税込60万円を切る求めやすい価格でありながら、チープさは全く感じない。そして、二輪車らしいトラディショナルなデザインと、ゆったりとした乗り心地を提供する車体パッケージ。誰でも気負わずに乗ることができ、様々なライフスタイルに溶け込める。これが大きな要因となったためか、購入者の年齢層で一番多かったのは20代。構成比でも30代以下は半数以上を占める。若い世代への訴求力があるモデルと言える。
400cc以上のモデルでは、「レブル1100」「CBR650R/CB650R」が堅調に推移。足つき性や取り回しやすさに優れるレブル1100は50代前後のベテラン層に支持を得た。DCTモデルもラインアップされており、それも好評なようだ。CBRとCBのミドルクラスは、1100ccクラスのような圧倒的なパワーではないが、400ccでは少し物足りないという人に最適。扱いきれそうな性能(実際にはフルに使い切るのは難しいが)が支持を得た一つの理由と考えられるだろう。
ヤマハの小型二輪クラスを牽引したのは、「SR400 Final Edition」。1978年の発売以来、43年にわたるロングセラーモデルの生産が終了になるのだから、「欲しい」「一度は乗ってみたい」と思っていた人にとって国内向けモデルの新車を手にするラストイヤー。そのこともあってか、男性、女性とも様々な年代から支持を得た。YouTubeを見ても、女性ライダーのSR400に関する動画がいくつも見つかるほどで、そのことからも男女問わない人気ぶりがうかがえる。
今年はSR400がないわけだが、それに代わって牽引しそうなモデルはというと、カテゴリーは違うが、ネットなどのインプレでは「YZF-R7」の評価が高い。SR400とは違う層にバイクの楽しさを訴求するモデルとして期待したい。
スズキの小型二輪クラスを牽引したのは「SV650/XABS」。扱いやすいミドルクラスというだけではなく、250ccからのステップアップモデルとしても、販売に貢献した。
スズキの中で忘れていけないモデルは、「Hayabusa」。13年振りのモデルチェンジが大きな話題になったほか、スズキのフラッグシップとしての存在感、ユーザーの好みに応じて外装色の組み合わせや前後ホイールのカラーを選択できる「カラーオーダープラン」の初設定。それらの要素によって、年齢層が高めの人からの購入比率は多かったものの、幅広い年齢層に訴求した。
その他、フルモデルチェンジした「GSX-S1000」は扱いやすさとスポーツ性能の高さを継承しつつ、アグレッシブで前衛的なデザインを採用。前モデルよりも若い40代のユーザーの購入が目立った。
カワサキの小型二輪クラスを牽引したのは、誰もが予想できるであろう「Z900RS/Cafe」。2017年の発売当初からの人気は今も衰えていない。購入層も、「Z1」を知るリターンライダーを含む50代が中心ながら、最近は街なかを走るZ900RSを見た若年層が直感的に「カッコイイ」と感じ買いに来る。そういったケースも増えているという。今年はZ生誕50周年ということもあり、人気に拍車がかかっている。この先もカワサキを牽引する存在になることはまず間違いない。
このほか、「Ninja400/KRTEDITION」が400ccクラスを牽引。エントリーユーザーから人気があり、20代や30代ユーザーの割合が高い。
4メーカーの売れ筋モデルと購入者の特性を見ると、このカテゴリーに人気が集中とか、どの世代が主に買ったという全体的な特徴はなかったことが分かる。スーパースポーツの「Hayabusa」、単気筒のトラディショナルモデル「SR400」「GB350」、アメリカンタイプの「レブル1100」などなど、カテゴリーに偏りなく人気となっている。過去には、レーサーレプリカブーム、アメリカンブーム、ビッグスクーターブームなどがあった。しかし、ブームはそのカテゴリーだけではなく全体の強力な推進力となる反面、ブームが終わると全体も失速してしまう。その意味からも、様々なカテゴリーが注目され、しかも若年層もベテラン層も購入しているというのは好ましい状況だと言える。
今後はどうなるのか。昨年の出荷台数は、二輪業界は物流問題がありながらもコロナ前の水準を上回った。前述したように、小型二輪クラスに限って言えば、21世紀で最も多い出荷台数だ。販売台数も同様で、21世紀になってから2001年に次ぐ2番目の数字となった。
それだけ注目が集まっている理由の一つには、コロナ禍による自粛や新しい生活様式があるのは間違いない。行動が制限される中、できることが減り、二輪の優先順位があがったという側面はあるだろう。
バイク、特に小型二輪が生活必需品という人はそう多くはないだろう。では、コロナ禍が落ち着きを見せてきたら台数も落ちていくのだろうか。何もしなければそうなる可能性はある。そうならないために必要なのは、『生活必需品ではなくても、ライフスタイルに欠かせないアイテム』というポジションを確固たるものにする、『バイクが、その人のライフスタイルをどう豊かにしていくか』という提案。そこに注力するタイミングが、今なのだ。
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