異業種特集ビジネス

すでに市民権を得た感のあるサブスクリプション型サービス。その範囲は「衣食住」の分野にまで拡大

公開日: 2020/10/20

更新日: 2022/09/06

衣食住に基づくサブスクリプション型サービスを展開する企業に注目

 CMの影響からか、「サブスク」という言葉がいたるところに氾濫している。いまさら説明するまでもないが、サブスクリプションとは、料金を支払うことで一定期間、製品やサービスを利用できる「定額制サービス」だ。

 サービスが一般化し始めた頃は、「amazonプライム」「hulu」「Apple Music」など、デジタル領域における動画・音楽配信サービスが主体だった。その後、車両代金や諸費用、自動車税、任意保険料などが定額となるトヨタの「KINTO」がCM攻勢を掛け、その存在が広く一般に知れ渡るようになった。そして最近では食材(食事)や衣料、時計、そして住宅といった「モノ」を提供する非デジタル領域のサブスクも徐々に一般化し始めた。つまり、趣味や娯楽に加え、「衣食住」の分野にも拡大していったのである。

 そこで今回は、いま、徐々に浸透し始めている、衣食住に基づくサブスクリプション型サービスを展開する企業にスポットを当てた。

法人向けプチ食堂サービスを行うオフィスOKAN

<center>従業員宅に直接、惣菜を届ける「仕送り便」は在宅ワークに最適</center>
従業員宅に直接、惣菜を届ける「仕送り便」は在宅ワークに最適

 まずは「食」。最近はフレンチレストランのランチや人気ラーメン店のラーメンが1か月に何度でも食べられる、といったサービスが増えているが、今回、取材したのは、株式会社OKANが展開する「オフィスOKAN」という「法人向けプチ食堂サービス」だ。

 オフィスおかんとは、事務所の一角に冷蔵庫・専用ボックスを設置。そこにパッキングされた一つ100円の惣菜を入れ、従業員に食事として提供する「置くだけ社食サービス」。惣菜はすべて配送員が契約企業に定期的に届ける。メニューは、
豚の角煮、サバの味噌煮、切り干し大根、ロールキャベツ、ハンバーグなど、かなりの種類。現在の対応地域は1都3県だが、それ以外の地域でも「おかん便」という地方向けサービスがあり、惣菜商品を宅配業者が定期的に届けている。

 導入に際しては、初期費用は不要だが、商品開発費用やサービス運用費として5万4600円(税別)の月額利用料が掛かる。このなかには冷蔵庫のレンタル代や食器類の費用も含まれている。電子レンジを用意する必要はあるが、それ以外のものは一切不要。惣菜の納品・在庫管理などは、すべてOKAN側で行う。

 同社のサービスは、すでに2000社以上(2020年8月現在)の企業が導入している。同社の創業は2 012年12月であるため、実質、7 年半ほどで2000社と契約を交わしたことになる。契約企業については、十数名の規模のところもあれば、数万人規模の企業もある。ユニ・チャーム、東急不動産、オートバックスもサービス利用企業だ。

「どのような環境下にあっても、社員食堂が実現できるサービスを提供しています」というのは、代表取締役 CEOの沢木恵太社長。同氏は東証一部上場企業で新規事業開拓を経験。その後、ゲームプロデューサーを経た後、27歳という若さでOKANを創業した。

「契約企業の目的は、従業員の満足度向上や定着、働き方改革などです。オフィスにいながらたったの1品100円で健康的な食事が摂れる。つまり、従業員のための食の福利厚生サービスなのです」 

 サブスクリプション型サービスは、一般的にはBtoCが主流だが、オフィスおかんはBtoB。企業と契約し、そのサービス内容を従業員が享受する、というものだ。

「現在の契約社数は2000社を超えました。この背景には、従業員定着のための投資として考える経営者が増えている、という事実があります。日本の人口は減少傾向にありますが、これが意味するのは採用難。有効求人倍率もどんどん上昇を続けています。結果、人材定着に向けた体制作りの優先度が高まっている。こうしたことから、我々のサービスが注目される機会が増えているものと思います」

従業員の“本音”を聞き出すサービス「ハイジ」の利用者増加中

<center>沢木恵太 代表取締役CEO</center>
沢木恵太 代表取締役CEO

 では、沢木社長が惣菜に着目し、商材として扱うようになった理由は何か。1つは同氏自身、食生活が最も重要であると考えているため。この背景には過去の経験に基づく人材定着支援という考えがあった。サラリーマン時代に勤務していた会社は仕事内容、やりがいともに十分なものであったという。だが仕事があまりにも激務で、月の労働時間は400〜500時間にも及んだ。これが原因で体を壊してしまったのだ。食生活の乱れも大きな要因の一つと感じた同氏は、その改善を通じて健康を支援し、人材定着に結び付けることを考えた。

「健康問題は離職要因の一つ。健康状態の改善は、生活習慣の改善でもあります。生活習慣は食事、睡眠、運動がその大きな要素ですが、この中で企業が支援できることは限定的です。睡眠や運動については一部の企業を除き、難しいでしょう。でも食事をとらない人はいません。だから参入しやすいのです。これが惣菜を選んだ理由です」 

 この考えは、昨年から始めた「ハイジ」というサービスにも反映されている。これは従業員の「本音」をリサーチするため、アンケート調査を行い、その企業の離職の原因を分析するための、いわゆるサーベイツールなのだ。

「ここ数年、退職者が増えている企業があったとします。でも原因が不明。そんな時、ハイジを使えばどんな対策を打てばいいのか、どこに投資をすればいいのか、について判断しやすくなる。つまり、ハイジとは組織課題を見える化し、働き続けられる組織作りをサポートするためのツールなのです。導入企業は徐々に増えています」 

 アンケートは10分程度で回答できるもので、すべてスマホで行う。ポイントは「働き続けられるか」という点。個々の価値観で「重要さ」と「現状」のギャップを埋めていくというものだ。

「衛生要因(仕事の不満にかかわるデータ)」を12項目に分け、企業が注力すべき課題を浮き彫りにし、優先度について提案します。ハイジのスタッフとは定期的なWEBミーティングを実施し、アドバイスを行っいます」

 ハイジは自動で定期的にアンケートを行うため、改善点を確認しにくい組織課題なども、中長期的な取組みが継続できる。つまり、「人材定着」は、オフィスおかんとハイジの共通のビジネスコンセプトなのだ。

収益を上げるためには、月額利用料の設定は不可欠

<center>とても100円の惣菜とは思えないクォリティだ</center>
とても100円の惣菜とは思えないクォリティだ

 話をオフィスおかんに戻そう。そもそもサブスクリプション型サービスの適用を考えた理由は何か。これには3つの要素があるという。1つは利便性。どれだけ忙しい人でも、すぐに手に取れるような便利さが必要。コンビニよりも近くなければならない。そうなると、もうオフィスの中での提供しかないのである。もう1つは経済性。すぐに手が届く範囲にあっても、値段が高ければ敬遠されるだろう。最後の一つは健康安全性。どれだけ便利で安くても、食の安全が確保されてないとダメなのだ。

 だが、ここには矛盾がある。美味しくて健康的でリーズナブルなもの、これを実現するのはほぼ不可能なのだ。良いものを作ると、どうしてもコストアップにつながり、100円以内に収めることはできない。

「従業員の方に買って頂く惣菜で収益を上げるのではなく、契約企業から安定的に利用料を頂ける仕組みにしない限り、この価値は提供できない、そう思ったのです。一方で、企業側にも人材定着のために投資したいという意欲がある。それを実現する一つのカタチとしては、企業からのサブスクリプションが最適、と考えたわけです。小売業界には、在庫の的確なコントロールや、次月の需要予測といった、難易度の高い問題がある。それを27歳の若輩者がやろうとしても、そう簡単にはできないわけです。でも、サブスクリプションであれば、在庫管理などの問題はすべてクリアになる。契約企業の数が決まっていて毎月、安定的にお客様の数も予測できるので、不要な在庫を抱える必要性はない。その分、良いものを作ることにしっかり集中することができる。これがサブスクを選択した理由です」 

 健康安全性という言葉があるが、言葉の根拠は製造手法にある。メニューは毎月、更新しており新しい惣菜を提供している。その数は月20〜25品に及ぶ。食材は基本的には国産。特定の国の食材は使わない。製造は全て国内の複数の提携工場で行っている。メニュー開発は全て管理栄養士が担当する。健康安全性が最も重要な要素の一つであるため、栄養のバランスが取れるようにしているという。

 ここでOKANのサービスを利用している企業とその従業員の反応について聞いた。
「食事というものは、従業員の方に伝わりやすいサービスであることが見えてきました。満足の声のフィードバックが得られやすいのです」 

 想定以上の反響が得られているようだ。次に、従業員の声について聞いた。
「先ほどの利便性、経済性、健康安全性がポイントとなっているようです。『今まではコンビニ弁当ばかりだったけど、今は食に対する意識が変わった』『今まで肉ばかり食べていたのが、魚とか副菜を意識して食べるようになった』といった声を頂いています」 

 こうした様々な工夫を行った結果、導入企業の従業員満足度96%、企業のサービス継続率99%(同社調べ)という結果をもたらした。

サブスクリプションは、ビジョン達成のための足がかり

<center>OKAN社内に設置されたイートスペース</center>
OKAN社内に設置されたイートスペース

 サブスクリプション型サービスの場合、企業の継続率が大きなポイントとなる。なぜなら、長期的に利用者から得る収益を期待し投資を行い回収するので、継続率が低いと“恩恵”が失われるからだ。では、継続率を高めるためにはどうすればいいのか。

「弊社の場合、企業と契約し、サービスは従業員が利用しています。サービスの導入目的の一つに従業員の満足度向上があるので、従業員が使って(満足して)いる以上、継続停止はマイナスなのです。こうしたネジレの構造が、継続率を押し上げているのです」 

 企業との契約であるところがプラスに作用しているわけだ。大きく業績を伸ばしているオフィスおかんだが、気になるのは大手の参入。実際、これまでもコンビニがオフィス向けにサービス展開しており、現在も継続しているところもある様子。だが、ハードルは高いのが実情だ。なぜ難しいのか。一つは食品サプライチェーンの確立。どこでもできるわけではなく、開拓には地道な努力が求められるからだ。もう一つは、企業からの月額料の徴収。実はこれが大きなポイント。なぜなら、これがないと収益は限定的となり、単なる小売りとなるからだ。これについて沢木社長は次のように語る。

「月額料を得るためには、人材業界の側面を持たなければならない。人材領域の支援をしている会社というブランディングが必要なのです。『食品を提供しますよ』と営業をかけても、月額料金を頂くことがなければ、ただオフィスで販売するだけの業態になる。これでは従来の置き菓子サービスなどと同じ小売りになってしまう。配送コストを考慮すると、全く採算が合わないんですよ。こうした問題があるので、コンビニは参入撤退を繰り返しているのです。企業に価値を感じて頂き収益性を担保するには、人材定着支援のための体制を整えなければならない。食品会社が人事総務コンサルティング活動をできるかというと、おそらく無理でしょう。でも、ウチはできます。ここが強みなのです」 

 この先、OKANについては、いくつかのメニューを考えているというが、沢木社長はオフィスおかん1本でいくつもりは全くない、と明言する。

「先ほどもお話ししたように、人材定着の支援が我々の主目的の一つです。そのため『食』だけではなく、人材定着につながるようなサービスを増やしていこうと思います。さらには『食』以外の生活習慣の分野、例えば先ほどお話しした『睡眠』や『運動』ですね。あとは家事の負担軽減です。育児との両立は、離職に大きく影響する問題です、家事の支援、育児の支援、教育の支援、介護の支援、こうした分野で企業様の福利厚生として実現させたいと考えています。ハイジの結果と実際に提供できるソリューションを連動させて、診断結果に合わせたご提案をしていくことも検討しています」 

 ベースは人材定着面における課題の特定と施策の支援。これらをソリューションツールとして総合的に提供するのが沢木社長のビジョン。サービスは「自社開発なのか、他社との協業なのか、あるいは買収なのかは分からない」(沢木社長)。つまり同社にとってのサブスクリプションは、ビジョン達成の足掛かりの一つだったのだ。



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