コラム

オンライン化政策の要、はんこレス社会は現実のものとなるのか?

公開日: 2020/11/20

更新日: 2022/09/06

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言などを経て、多くの人がテレワークを経験してきた。そのなかで浮き彫りになった問題がある。はんこの必要性だ。テレワークが効率よく機能し定着しつつあるにもかかわらず、書類にはんこを押す、貰うためだけに出勤しなければならないという非効率的な行為である。この問題がクローズアップされることで、見直しの気運が醸成されていった。

 口火を切ったのは、河野行政改革相。9月24日、全ての中央省庁に対して押印の徹底的な見直しと、引き続きはんこが必要な場合の理由を月内に回答するよう要請。これに対しては、2021 年の設立を目指すデジタル庁の平井卓也大臣や環境省の小泉進次郎大臣など、多くの大臣から賛同が集まっている。河野大臣は防衛相の頃より「テレワークが推奨されているのに、はんこが必要なのか。稟議を電子化する方法もある。業務の効率化が必要」と“脱はんこ”を提唱してきた

 はんこレス化を行うことで事務作業の効率化が図れるだけでなく、印刷代や郵送費などのコスト削減やデータのバックアップと管理を容易にすることができる。けれどもその一方で、はんこには自分の意思を証明し、他人による不正を防止する役割があるため、押印を省いてもいいのかという声が上がっているのも事実。これに対し政府関係者や専門家は、現代は3D プリンターなどではんこの偽造が可能であり、電子メールの受信記録が内容証明になると説明。また、海外では電子署名が普及していることから、はんこ以外の手段について検討する必要があると述べている。実際に、欧米諸国や日本にはんこ文化を伝えた中国ではサインが主流となっており、日本からはんこ文化を導入した韓国は、すでに印鑑証明制度を廃止している。

 ここに、行政のオンライン化に関する興味深いデータがある。国連の経済社会局(UNDESA) が7月10日に発表した、国連加盟193 カ国が対象の「世界電子政府ランキング」における日本は14位。対するお隣の韓国は2位となっており、「住民票の取得」「出産や引っ越しの手続き」「納税証明書の発行」などの行政手続きをインターネット上で行うことができる。ランキングは14位までが世界最高ランクの分類ではあるが、日本はその中で最下位ということもあり、行政サービスのさらなるオンライン化が必要な状況だ。

 行政手続きを中心にはんこレス化に向けた気運が高まりつつあるが、はんこを商材とする業界はどのような反応を示しているのか。河野行革相は9月28日、全日本印章業協会の德井孝生会長らと会談を行い、はんこを廃止することに理解を求めた。これを受け業界団体は次のように語る。

「行政手続きでの押印廃止は、印鑑証明制度(法人・個人)の廃止を意味するものではないということを明確に表明して欲しい」

 はんこレス社会の実現は行政などのデジタル化を目指す上で欠かせない取り組みであるため、利便性の向上と改ざんを防ぐことの両立という課題と向き合いながら早急に進めていく必要がある。今後押印の機会は減ることになるが、決してはんこの機能や価値がなくなるわけではない。ただ、はんこはデジタル認証など、時代にあった進化が欠かせないのかもしれない。

 行政のオンライン化を目指す改革はスタートしたばかり。日本に根付いているはんこ文化に、変化の兆しが見え始めている。

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