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原付一種の新たな枠組み策定を巡る討論加速。2025年11月以降、原付一種はどうなる?

公開日: 2023/02/03

更新日: 2023/02/03

ホンダなら「CB400SF/SB」、ヤマハであれば「SR400」、そして「SEROW250」・・・。

日本のバイクシーンを彩ってきた名車の生産終了が相次いでいる。これは、”第四次排ガス規制“によるもの。2019年に施行され、新型車については2020年12月、原付一種を除く継続生産車は昨年11月に適用された。そして2025年11月、ついに原付一種もタイムリミットを迎える。

原付一種は現在、保有台数および出荷台数が減少傾向にある。1月に発表された、2022年の保有台数速報値(二輪車新聞調べ)は445万台。ピークである1986年の1495万7923台から、毎年、台数が減少している。

2022年の原付一種国内出荷台数(速報値)は13万3600台。これに対し、近年人気が高まっている原付二種は10万4800台と、前年から約2万台の減少となった。2020~2021年にかけては2万台以上増加し、原付一種との差はわずか2000台にまで接近。だが、2022年は原付二種の車両供給の遅延によりその差は3万台にまで開いた。けれども近々逆転が起こることは、ほぼ確実視されている。

ここで近年、様々なタイプが増えたことで人気が上昇している電動アシスト自転車と原付一種の出荷台数について見てみる。自転車産業振興協会の「経済産業省生産動態統計」によると、すでに2009年には電動アシスト自転車が原付一種の出荷台数を上回る31万7678台を記録。そこから右肩上がりの成長を続け、2021年には79万2985台となった。同年の原付一種の出荷台数は12万7759台(同)だったため、その差は約66万5000台。年を経るごとに拡大している。

原付一種と電動アシスト自転車の出荷台数推移
原付一種と電動アシスト自転車の出荷台数推移

前述のように、保有台数の減少をはじめ、原付二種や電動アシスト自転車との出荷台数の差など、マイナスな面がフォーカスされがちな原付一種だが、日常生活の足として欠かせない乗り物であることは確か。実際に、日本自動車工業会の「2021年度二輪車市場動向調査報告書」によると、原付一種の使用用途は、通勤・通学・買い物・仕事などの利用が78.5%となっている。

原付一種の2022年保有台数は全体の1025万0696台に対し43.4%(445万台)と、減少傾向にあるものの依然高い割合を占めている。さらに、出荷台数は全体の37万3300台に対し35.8%(13万3600台)で、トップとなっている。

原付一種をメイン商材とする、ある二輪販売店は、原付一種の重要性について次のように語る。

「この辺りは公共交通機関が少なく坂が多いため、日常生活の足として原付一種は不可欠です。そのため、サラリーマンやOL、学生、高齢者など幅広い年齢層の方に購入いただいています。特に学生には、安価なだけでなく、付帯免許で乗れるため重宝されています」

125㏄クラス機種の最高出力を50㏄相当(4kW)に制御

HONDA 「TACT」
HONDA 「TACT」

BDSレポートでも掲載したが、昨年11月9日、自民党オートバイ議員連盟は「二輪車車両区分要望に関する勉強会」を開催。そのなかで、自工会二輪車委員会と全国オートバイ協同組合連合会(AJ)は、2025年11月以降も原付一種を存続させるための要望を提出した。

これは、原付二種に相当する125㏄機種の最高出力を50㏄相当(4kW)に制御し、原付一種として生産することを可能とする施策。この実現のために必要となるのが「総排気量または定格出力」で定義されている区分への「最高出力」という定義の導入である。

自工会二輪車委員会とAJが第四次排ガス規制の対策として紹介したのは以下の3つ。

①50㏄の新型エンジンを開発して排ガス規制対応する
②最高速度を50㎞/hに制御し、排ガス規制対応しない
③125㏄クラス機種の最高出力を50㏄相当(4kW程度)に制御して排ガス規制対応する

これらの中で、要望として提出したのが③になるわけだが、この理由についてAJの石井大専務理事は次のように説明する。

「第四次排ガス規制をクリアできる新型エンジンの開発はメーカーへの調査の結果、技術的に難しいことが分かりました。また、性能を抑えて最高速度を50㎞/hにした原付一種をユーザーが喜ぶとは思えません。これらのことから、ハードルが高いことは承知の上ですが、唯一の解決法が125㏄クラス機種の最高出力を制御する方法、という考えに至りました」

総排気量または定格出力の定義が最高出力に変更され、125㏄クラス機種の最高出力を制御した原付一種の生産が認められれば、排ガス規制に対応した上で、現在の原付一種利用ユーザーに受け入れられる車両の継続供給が可能となる。他にも、アジア向けに大量生産している廉価な125㏄クラス機種を活用することができる、といったメリットもある。

この対策についてだが、製造工程などを考えると年内に決定しなければ2025年11月というタイムリミットに間に合わなくなってしまうという。そのため、今年夏頃までには原付一種に関する続報が発表されるだろう。

認知度は高いが購入意欲は低い電動バイク

KAWASAKI 「Ninja EV」
KAWASAKI 「Ninja EV」

では、内燃機以外の選択肢としてはどうか。まず思い浮かぶのは電動バイクだろう。これについては、ホンダやヤマハ、カワサキなどが複数モデル投入することを発表していることもあり注目が集まっている。けれども、航続距離や充電インフラ整備など、課題が山積しているのも事実。

「2021年度二輪車市場動向調査報告書」を見てみると、電動バイクの認知度は72%と高いものの、「購入を検討したいとは思わない」「あまり購入を検討したいとは思わない」と答えた人が62%を占めている。

この理由について見ていくと、懸念事項は「1回の充電での走行距離が短い」が61%、「車両価格が高い」が56%、「バッテリーの耐用年数を考えると維持費面で不安」が52%、「充電施設の場所や数が心配」が49%、となっている。

このように、複数の課題があるのが現状である。けれども、航続距離が伸び、急速充電も可能な全固体電池などが完成すれば、この状況がガラリと変わることは間違いない。

画像提供 : 株式会社Luup
画像提供 : 株式会社Luup

次に、電動キックボードについて見てみよう。これについてはご存じの通り、免許を必要とせず、ヘルメットの着用が努力義務となる「特定小型原動機付自転車」(特定小型原付)という新区分が設定される。施行は2024年春頃。乗るためのハードルがかなり低くなるため、シェアリングサービス利用者数の増加が見込まれる。

ただし、このサービスは諸外国と比べて普及率がかなり低いため、利用ユーザーは一部の都市や観光地に限られるだろう。また、足としてみた場合、購入するユーザーは都市部在住者と限定的になることが予測される。

原付一種以外の選択肢について考察したように、2025年11月以降は主に、125㏄クラス機種の最高出力を50㏄相当に制御した原付一種(1月末日現在は未定)、電動バイク、電動キックボード、電動アシスト自転車の4つが考えられる。けれども、インフラ整備等の課題があるため、電動モビリティへのシフトにはまだ時間を要するだろう。

そのため、タイムリミットを踏まえても、125㏄クラス機種の最高出力を50㏄相当に制御する、という要望が通るのではないかと推測される。これが認められれば、減少の一途を辿っているラインアップも増加に転じるかもしれない。夏頃までに発表されるであろう続報を待ちたい。

※警察庁は1月19日、「特定小型原動機付自転車」についての関連規定を定めた改正道交法を7月1日に施行することを発表しました。記事中では施行日を「2024年春頃までに」と記していますが、編集作業工程の関係から本文への反映は行っておりません。ご了承下さい



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