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【トップインタビュー】株式会社キジマ 木嶋孝一 代表取締役社長 <後編>

公開日: 2023/12/07

更新日: 2023/12/25

創業は1958年。その数年後、日本にモータリゼーションの波が押し寄せることを、あたかも予期していたかのような時代に商いを開始したキジマ。ニーズへの即応と圧倒的な開発スピードにより、業界内に確固たる地位を築き、「ブランド」としての認知を加速させた。2011年の東日本大震災以降、着実な成長を続けている。

若い人材を率先活用し発信力を高める

営業技術センター
営業技術センター

――― 商品企画における、昔といまとの違いは。

木嶋
 そうですね。例えばタンデムグリップを改良するとします。従来は8000円だったものが、パイプを太くしたりすると、すぐに1万3000円とか1万5000円にまで跳ね上がってしまうんです。高すぎるという意見も出ますが、デザインが斬新で最先端を行くようなモノであれば、勢いで「よし、行っちゃおう」となり、たいがいヒット商品となりました。TWの時などは、デザイン先行で、『先にスタイルを作った者勝ち』という意識で取り組んでいたのです。常に新しいモノを追いかけていて、一つの山(ブーム)が消える前に次の山が立ち始めていたので、そこには特に力を入れました。でもいまは、難しくなっています。「こんなところにこんなモノがマッチするんだ」といった発想は、そうあるわけではないのです。

――― ほぼ出尽くしているということですね。

木嶋
 そうですね。弊社は「キジマだったら必ずある」「トップブランドは高いけど、キジマなら手頃な価格でハイクォリティな商品が買える」といった期待を背負っています。それは昔も今も変わりません。可能な限りそうした期待に応えることを常に意識しています。

――― コロナの影響で大きく変わったことはありますか。

木嶋
 物量的には増えたけど、大きな変化があったのは、むしろ東日本大震災ですね。2011年は売上ベースで見ても、過去十数年で最も低い年でした。当時は団塊の世代からの“リターンライダー需要”もひと段落した頃。この先どうするか、と思案していた時に発生したのが東日本大震災でした。二輪需要も減少しましたが、弊社は先ほどお話ししたように、ちょうど商品ラインアップの見直しを図り効率化を進めていたので、内容的には安定していました。ニーズに即した商品も開発できたことで、確実性が高まったのです。

――― では、2011年からは右肩上がりの成長。

木嶋
 お陰様で11年連続成長できています。この頃から消費者のキジマに対するイメージが変わったのかな、と思うようになりました。かつてのミニバイクのキジマ、というイメージが払拭され、「しっかりとした商品づくり」「使いやすく安心感のある商品ラインアップ」といった信頼のイメージが醸成されました。これにより「ブランド」としての認知が進んだように感じています。

――― V字回復ですね。

木嶋
 いい商品だな、と思って購入したら、キジマだった、という、そんなイメージを持っていただければと思っています。大きなチャレンジはないのですが、小さな取り組みの積み重ねでここまできました。削る(廃盤にする)商品もかなりありましたね。レース活動も止めたのですが、パーツ販売の定着化が進むと、今度はレース部門の穴が目立つようになった。そこで2016年からレース活動を再始動しました。レースでキジマの名前がもう少し飛び交うようになれば、との思いからです。多くの企業がレースから撤退していくなか、「なぜキジマは今更レースをやるの?」と言われることもありました。でも、ウチとしては話題をとるには十分なので、あえてそこに広告費を投入しています。レース部門でいくら売上を立てるか、などとは考えていないんです。

――― ある意味、キジマさんの独壇場ですね。

木嶋
 弊社と同じようなパーツメーカーは、全社撤退しています。かつて女子高生を走らせたことがあるのですが、「JP250で活動している」と発信すると、「凄い。そんな若い子がレースやっているんですね」という反応がすぐに表れる。これが話題として業界に広がるので、キジマの情報が刷り込まれるのです。その後、バイクに乗るようになり、どこかの店で弊社の商品を見た時、「あ、キジマって知ってる」となり、手に取って貰える可能性が高まる。そんな風に期待してます。

営業技術センターエントランス内。キジマのカスタム車両(Z650RS・ハンターカブ・クロスカブ・YZF-R25・ドラッグスター125等)が並ぶ
営業技術センターエントランス内。キジマのカスタム車両(Z650RS・ハンターカブ・クロスカブ・YZF-R25・ドラッグスター125等)が並ぶ

――― いまの20代のユーザーと50代以上のユーザーとでは、キジマに対する印象は違うように思います。

木嶋
 そうなんです。その辺りは企画担当の若いスタッフがバランスを取っています。私ももう53歳で“老害側”(笑)なので、どうしても昔の話をしてしまいます。こっちが共通認識だと思い込み、「〇〇知ってるでしょ」というと、「いや、知らないし」と。こうじゃないとダメ、と考えるのが私以上の世代。若者にしてみれば、面倒くさいんですよね。昔はこうだった、と言ったところで、何も生まれないんです。だから、若い人材を率先して活用し、彼らの発信力を高めました。これが奏功したのだと思います。

――― 人材を採用するにあたっての基準は。

木嶋
 新卒の定期採用は行ってないので、中途採用となりますが、過去の経験は絶対ではありません。ただ、現役ライダーであってほしい、という思いはあります。商品企画にあたっては、ユーザー目線で見れないと本質が分からないことがあるからです。何よりも必要なのは発想力です。面白い発想が次から次へと思い浮かぶ人。いいアイデアがあれば、それを具現化できるブレーンはいます。つまりいい企画さえあれば、商品化できる人間がフォローできる体制は整っているのです。

――― なるほど。肝はやはり企画開発力ということですね。

木嶋
 はい。商品化したら当然、売り切らなくてはなりません。でも、いくら良い商品であっても、それを広く知ってもらうための手段は必要。何よりも大切なのは、売るためのストーリーなのです。これに関しては誰にでもできるわけではないし、私もできません。簡単にできる時代が来れば苦労しないのですが(笑)。

バイクに乗り続けてもらうために必要なのは、「レジャーとの融合」

ECサイトも展開
ECサイトも展開

――― カスタムハーレーのパーツも作っていますが、生産は海外なのでしょうか。

木嶋
 6対4で国内です。すべて輸入品だと思われることが多いですね。海外はスピードとロットが大きいので回しづらさがあります。四輪や家電であれば共通パーツは多いけど、二輪はある意味ニッチ。年間販売台数が1000台のバイクで何個作りますか? という話なんです。そうなると100個単位での商品は普通。なかには50個しか作らないモノもある。基本的に海外は大量生産工場なので、小ロットの商品だと全く合わないんです。

――― そういうことなのですね。では、国内に提携工場はどれくらいあるのでしょうか。

木嶋
 100以上ありますが、主力は20ほどです。中心は東京、埼玉、千葉、神奈川です。基本は1時間以内でアクセス可能なところですね。でも、クラウドファンディングの出現でかなり変わりました。資金がなくても企画賛同者に対し個数を先行して商品提供を確約し、その後、商品生産できるところに投げて作り上げる。結局、アイデア次第で誰でも挑戦できてしまうでしょ。売れ筋の新商品があっけなく持っていかれてしまうのでは、という懸念もあります。お金がない、どこで作ろう、をクリアしているからです。

――― クラウドファンディングの影響は大きいわけですね。

木嶋
 クラウドファンディングだと、「作れる人いませんか?」「作れますよ」。こんなやり取りがすぐに成立します。そういう意味では脅威ですね。

バイクと遊びを提案する「K3」
バイクと遊びを提案する「K3」

――― キジマさんはECサイトも展開されてます。

木嶋
 弊社は昔からユーザーさんからも直接、注文を受けていました。1969年頃から通販を開始したのですが、当時は現金書留の時代。毎日、山のような郵便が届くんです。ECサイトでの販売は、その頃からの流れですね。当時から要望があったのは、定価でもいいのでメーカーから直接買いたい、というものでした。その流れでもあるのですが、別段、ECで売り上げを伸ばそう、という考えはありません。ただ、ユーザーからの反応をダイレクトに感じとろう、といったリサーチの意味合いはあります。

――― ここ数年でバイクに乗る人が増えました。この先も長く乗ってもらうためには、どのような方策が必要だと思いますか。

木嶋
 どういう楽しみでバイクに乗るか、だと思います。走ることの楽しみもありますが、これだけだと限界がある。例えばオートバイで山に行き、最高の景色を撮影する。あるいはバイクに乗ってキャンプに行き、1日楽しむ。やっぱり「走り」だけを考えるのではなく、他の目的も一緒に達成できるのが重要。移動中も楽しく、行った先でも楽しめる。つまりレジャーとの融合。これがポイントです。今回、「K3」(キャンプ用品などバイクと親和性の高い商品をラインアップ)を立ち上げたのも、キャンプツーリングを日本の文化に、という思いに絡め、そのイメージを強調したかったためのものなのです。

――― 今後、どのような展開を考えていますか。

木嶋
 キジマユーザーとの接触機会を増やすことです。イベントなどを通じてバイクで一緒に楽しむ場を作り、バイクの出動回数を増やしていく。まずは「空中戦の充実」ですね。SNSなどを中心とした情報発信をさらに強固にしていきます。これは必須です。




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