公開日: 2025/11/06
更新日: 2025/11/07
新搭載の電子制御システム 「スズキインテリジェントライドシステム」、「スズキトラクションコントロールシステム」など先進のシステムを採用し、ライダーのスキルや路面コンディションに応じた多様なライディングが可能なスズキのニューモデル「DR-Z4S」&「DR-Z4SM」。バイクジャーナリストの小林ゆきさんが、DR-Z4Sをダートコースで、DR-Z4SMをサーキットコースで試乗インプレを行いました!
スズキのDR-Z4S/SMを試乗します。今回の試乗会では、SとSMの両方に乗りました。SMはターマック、アスファルトのコースを走り、Sはダート、具体的にはフラットダートと呼ばれる砂利のコースを走りました。悪天候のため、Sの試乗は参考程度になりましたが、モタードやオンロードのコースは得意なので、このSMの電子制御を存分に試していきたいと思います。
早速試乗しますが、シート高が高く、私は乗車した姿勢からサイドスタンドを払えないので、まずまたがります。右足の太ももしかシートに乗せられず、左足は母趾球しか地面についていません。あらかじめギアを入れて、右足はブラブラさせたままスタートします。走り出したら、改めてまたがり直します。このSMですが、Sとポジション、特にシートが違うように見えます。SMの方がホイール径が小さく、タイヤも小さいのでポジションが変わるはずですが、実はシートの厚みを変えることで、SもSMもなんと同じシート高に調整されています。
このSMは、スーパーモタードまたはスーパーモトの略で、フランス発祥のオン・オフロードレースです。80年代頃から始まり、2000年前後にはヨーロッパや日本でブームがありました。SMは、オフロードベースの車体にオンロードタイヤを履かせたものです。そのため、コースではオンロードスタイルでハングオンスタイルで走る人もいれば、オフロードスタイルでハングオフ、足を出す人もいます。私はロードレースをするので、ハングオンのスタイルで走ります。
今回のDR-Zの電子制御は非常に進化しています。トラクションコントロールやABS、そしてスリッパークラッチなど、電子制御だけでなく、エンジンの中身も刷新されています。トラコンが非常に効いており、リアが滑ってもきれいに回復しました。フロント周りがクイックで、今のようなタイトな場所もキビキビ走れるはずですが、今日は雨なので慎重に走っています。右側には砂利が出ていて走るのが恐ろしいコースです。
先ほどは一番優しい「モードC」を試しましたが、今回はもう少し出力が上がっている「モードB」に設定しています。トラコンを試したいので、意識して走ります。 今の立ち上がりで少しトラコンが効いていました。とにかく介入がどこからなのか分からないぐらい自然で、今も少しずつ介入しているのが分かります。この雨の路面では、本当に強い味方です。雨天のツーリング先の峠道など、滑りやすい路面でもかなり力になってくれるはずです。
先ほどABSも試しましたが、今はモードを変えたので改めて確認してみましょう。リアのABSは効き始めると少しつま先に「ビビッ」と伝わってきますが、動作は大きくありません。切り返した先のトラコンが上手く作動しているようで、転びそうな気がせず、グリップ感を非常に強く感じます。
もう一つ、SMとSの違いとして、SはIRCのタイヤ、SMはダンロップタイヤを使っています。このDR-Z4SM専用設計のタイヤだそうです。もしこのバイクを手に入れてタイヤ交換の時期が来たら、市販品とは中身が違うそうなので、同じタイヤを買った方がいいでしょう。
モタードといえば、Dトラッカーというバイクでレースに出たこともありますが、それよりも明らかにロード寄りの設定がされています。例えば、フロントフォークはオフロードそのままではなく、掛け始めにコシがあります。リアも同じく、始めは柔らかく奥でコシがあるという、ガーッと開けた時のコシのある感じがとても楽しいです。
この短い直線でしっかりと時速100何kmまで加速できました。高速道路の120km制限の道路が増えていますが、オフロード車でも十分巡航速度に余裕があると思います。今、2速で立ち上がろうとしたらトラコンが効いて前に進まないという現象が起きました。
足元のステップの位置は、SもSMもそんなに低いところにはありません。私の足だと少し低いかなという感じですが、身長170cmくらいの方ならちょうどいいと思います。このステップですが、スズキはオフロードスポーツタイプに見えるバイクにも関わらず、普段使いや街乗り、ツーリングにも配慮しており、わざわざゴムが埋め込まれていて、ネジ一本で簡単に外せるようになっています。
先に試乗したDR-Z4Sについて話します。試乗開始時はまだ雨が降っており、状況は非常に悪かったです。今回のDR-Zシリーズは、電子制御が盛りだくさんです。ロードスポーツバイクなどにも搭載されている、スロットル・バイ・ワイヤや、最も効果が大きいトラクションコントロール、もちろんABSもあります。エンジン周りでは、スリッパークラッチなどの機構も盛り込まれています。モード切り替えがあり、出力特性やトラクションコントロールの効き具合、オフにするか、またABSのオンオフも設定できるそうです。
Sに試乗した際、本来ならオフロード用の「グラベルモード」にすべきだったのですが、通常のモードで走り始めました。しかも、トラクションコントロールもオフになっていました。私はダート走行が得意ではないのですが、砂利のダートを走りました。その時、私は「トラコンが効いていて楽だ」と感じながら帰ってきたのですが、結果としては、それはトラコンではなく、バイクのバランスが非常に良いことによるものでした。車体が軽いということもありますが、今回サスペンションもだいぶ現代的になったと思います。非常に高級感のあるサスペンションで、細かい追従性があり、奥でしっかりコシがあるという、2段階、3段階上ぐらいの高級感があります。
ブレーキとのバランスも非常に良いです。オフロードではブレーキをガツガツ効かせられませんが、特にリアブレーキのコントローラブルさがとても感じられました。
その後の試乗で、トラコンを効かせてグラベルモードで走ったところ、自分が急に上手くなったかと思うぐらい、めちゃくちゃ乗りやすいバイクだというのを実感しました。上級者の方も電子制御を活かしてバリバリ走れるでしょうし、オフロードに自信がない方もご安心ください。この電子制御やバイクのパッケージが皆さんのライディングを手助けしてくれると思います。
SMの方に話を戻します。タイヤはオンロードタイヤで、ホイール径も違い、特にフロントは17インチのラジアルタイヤですがチューブ入りです。SMのダンロップタイヤはSMのために専用開発されているそうです。もしこのバイクを購入してタイヤのフィーリングが気に入ったら、部品番号で注文することをおすすめします。これは一般のタイヤ販売店で売られているものとは違うとのことでした。
この雨の中でSMをコースで走らせたわけですが、ここでもグリップ感の良さに感動しました。
SもSMもトラクションコントロールが搭載されています。トラクションコントロールは、タイヤがグリップとスリップの境目にある状況で、それ以上トラクションが滑らないように制御する機構です。サーキットや峠道のような場所で、コーナリングでアクセルを開け始めの滑りを制御してくれます。トラコンの介入がいつなのか、いついなくなるのか分からないぐらい自然で、これを私は高級感と呼びたいです。
ABSは、リアははっきりとわかります。踏んでいくと「ガガガ」となりますが、それで前に進まなくなるような感じではなく、しっかり制御してくれます。
このSM、タイヤが違うだけでなく、シートハイト、シート高がなんとDR-Z4S/SMの両方同じです。ホイールサイズが小さくなっているのに、SMの方が低いわけではないのです。よく見ると、シートの厚さがわざわざ高くしてあるのです。なぜ下げないのかと思いましたが、実際に乗ってみると、この方が良いというのが私の結論です。
このハンドル、シートのシッティングポジション、ヒップポジション、そして足元のバランスが、まさに黄金比なのでしょう。ワインディングやS字コーナーでも体重移動がしやすく、ポジションがコンパクトに感じます。
サイドスタンドのまま軽くまたがってみます。足が全くつかないからです。ハンドル位置は近く、またがっているだけでは足元もしっかり踏み込めている感覚になりますが、実際にはスポーティーな位置にあります。165cmぐらいで標準的な足の長さの方なら、低いとは思わないと思います。
非常にコンパクトなので、街中でもキビキビ走れるでしょうし、ハンドルが遠いということもありません。SもSMも、シートの厚みは違えど、この黄金比は変わらない設計になっているわけです。乗った感覚は、サスペンションやエンジンの出力特性に大きな違いはありませんが、二次減速比、リアのスプロケット丁数が2丁違うことで、SMはアスファルトで、Sはダートで乗りやすくなっています。
そして何と言っても、今回新設計されたエンジンです。フレームも新設計ですが、エンジンはなんと5速ミッションを選んだそうです。スポーツバイク、オフロードバイクでさえも6速が主流ですが、5速にすることでトランスミッションを狭くでき、エンジンがスリムになる上、軽量化も図れます。
また、5速にすることで、特に3速あたりがワイドになり、中速域までのコントロールが非常に楽になるのです。その結果、Sをダートで走らせた時、オフロードが得意ではない私が、エンストしないようにアイドリング近くまで回転を落として走っても、全くエンストしませんでした。それは400というエンジンの余裕もありますし、5速ミッションが効いていると思います。
久しぶりに、デュアルパーパスとはいえ、シンプルな形のオフロードのレーシングなタイプのバイクが登場しました。2000年代にかつて環境規制が厳しくなり、オフロード車やカウルのないモデル、単気筒は作れないと言われた時代がありましたが、20年経って技術は進化しました。スズキさんがエンジンをゼロから作ったに等しいエンジンを作り上げたというのは、ガソリンエンジンにまだまだ未来を続けさせるという覚悟を感じました。
乗ってみても本当に上品で高級な感じがするバイクでした。ぜひ皆さん一度味わっていただきたいと思います。足つきインプレは別の動画でたっぷりお届けしようと思いますので、ぜひそちらもご覧ください!
【小林ゆきさん略歴】
横浜育ちのバイクブーム世代。バイク雑誌の編集者を経て、現在はフリーランスのライダー&ライター。バイクを社会や文化の側面で語ることを得意としている。愛車は総走行距離25万kmを超えるKawasaki GPz900RやNinja H2など10台。普段から移動はバイクの街乗り派だが、自らレースに参戦したり鈴鹿8耐監督を経験するなど、ロードレースもたしなむ。ライフワークとしてマン島TTレースに1996年から通い続け、モータースポーツ文化をアカデミックな側面からも考察する。
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上品で高級な感じがするバイク。ぜひ皆さんに一度味わっていただきたい!
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