公開日: 2020/12/16
更新日: 2022/09/06
glafit株式会社、株式会社ブレイズなど、電動モビリティのスタートアップ企業6社は9月15日、次世代に向けた電動モビリティの在り方を提言する団体「日本電動モビリティ推進協会」を設立。その約1か月半後の11月2日、同協会の発足会見と勉強会を参議院議員開会で開催した。グラフィットの代表取締役・鳴海禎造氏ら6社の担当者が一堂に会し、設立の目的や活動内容を報告したほか、各社電動モビリティの試乗会も行われた。
今、何かと賑やかなのが〝電動モビリティ界隈〞だ。数年前までは、ポツポツ程度だったのだが、現在では様々なメディアで取り上げられる機会が一気に増えるなど、以前とは明らかに勢いが違う。それに四輪業界の動きなども考え合わせると、今後、電動の世界は伸びていくことは間違いない。
今回また、新たなニュースが飛び込んできた。それは電動モビリティに関わるスタートアップ企業が集った「日本電動モビリティ推進協会(代表:鳴海禎造氏 以下、JEMPA=ジェムパ)」の発足だ。11月2日、同協会の発足会見と勉強会が東京都千代田区にある参議院議員会館の会議室で開催された。
このJEMPAに名を連ねるのは、11月2日の段階で6社。中心となるのは2017年、クラウドファンディングの「Makuake」において「glafitバイクGFR‐01」の応援購入金額が1億2800万円を超え、支援販売額日本記録(当時)を樹立した「glafit株式会社(和歌山市、以下、グラフィット)」。今年もMakuakeで立ち乗りタイプの電動モビリティ「X‐SCOOTER LOM(Xスクーターロム)」のプロジェクトを立ち上げ、こちらも応援購入総額で約1億5500万円を達成し、話題となった。
愛知県名古屋市から参加しているのは、amazonや楽天などのネット通販サイトにおいて、「BLAZE SMART EV(ブレイズスマートEV)」が数々のランキングで1位を獲得し、一般からの注目度が高い電動モビリティメーカーの「株式会社ブレイズ」。
グラフィットと同様に、クラウドファンディングで電動スタンディングスクーター「Free Mile Plus(フリーマイルプラス)」のプロジェクトを立ち上げ、目標額の296%となる296万円を集めた東京都渋谷区の「クリエイティブジャパン株式会社」。
原付一種の電動キックボード「ZERO9(ゼロ9)」、来年1月導入予定である原付二種の電動キックボード「ZERO10X(ゼロ10)」の輸入・販売などを手掛ける神奈川県川崎市の「SWALLOW合同会社(スワロー)」。
免許の必要ない歩行領域の電動モビリティ「LAND BOARD(ランボード)」の開発や販売などを手掛ける和歌山県海南市の「ベルッド株式会社」。そして、500Wのパワフルなモーター定格出力を持つ原付一種の電動キックボード「E‐K O N g ran dePLUS(イーコン・グランデ・プラス)」などの製造・販売を手掛ける兵庫県姫路市の「合同会社E‐KON(イーコン)」。
これらの6社は、すべて電動モビリティ業界では名の知れた企業であり、この6社が集結し組織されたのが「JEMPA」だ。
「JEMPAの設立目的は、日本で乗用の小型電動モビリティを開発・製造、あるいは販売・運用する事業者による、次世代に向けた電動モビリティの在り方を提言することです」
こう語るのは、JEMPA代表の鳴海禎造氏(グラフィット代表取締役)。同氏は、現在の法律は車両の機構・構造を細かく規定しているため、それが原因で新しい技術を取り入れられない問題が起きているという。その一例としてセグウェイを挙げた。
「二輪車は必ず前後にタイヤがなければならないという規定があります。かつては、それ以外の構造は考えられなかったと思うのですが、今では電子制御によって、左右にタイヤが一つずつの構造でも走れる製品もある。セグウェイがそうです」
確かに、セグウェイが登場した時は、大きな話題になった。それは二輪業界だけにとどまらず、一般のニュースでも多く取り上げられたので、乗ったことはなくてもセグウェイの存在を知っている人は多いだろう。
「細かい規定を作れば作るほど、技術革新に法律が追いつかなくなる。私たちは理想的な法律のカタチとして、『速度』と『大きさ』を規定して、それによって区分していくというのが、あるべき姿ではないかと考えています」
JEMPAは今後の活動として『短期的な提言』と『長期的な提言』の2つを掲げているが、「電動モビリティに合う車両区分や道交法の見直し」は、短期的な提言として記されている。
長期的な提言としては、「まちづくりに沿った低速で走行する電動モビリティの区分」が記されている。JEMPAは勉強会の資料として、『2030年、未来の街』のイラストを用意しているが、それを見ると、「歩行者のレーン」「低速モビリティレーン」「自動運転レーン」「自動車レーン」の4つに分けられた道路が描かれている。
このことからも分かるように、電動モビリティ単体でどういう製品を作るかというだけではなく、取り巻く環境も含め、その未来の街に向けた提言を短期的・長期的な視点で行っていく。しかし、それには電動モビリティを安全で安心できる乗り物として広く訴求することも必要なのだ。
「保安基準を知らずに販売したり、シェアリングサービスを行ったりしている例をいくつか確認しています。そういう企業に対して、まず、『現状のルールや保安基準はこう』という情報を発信し、現行法を周知していきたいと思います。また、あまりに小さいサイズのタイヤが増えると事故につながりやすい、といった問題などについても提案していきたいと考えています」
現状の中で電動モビリティをどう活かせるか。電動モビリティを活かすにはどういうルールが好ましいか。電動モビリティの可能性を探り、未来を創る。それがJEMPAの役目だと言えよう。
前述したように、電動モビリティ業界はいま、非常に賑やかだ。ここ1〜2年の主だった動きを見てみると、2018年にホンダが「PCX ELECTRIC(PCXエレクトリック)」の法人向けリース販売を開始。昨年4月に、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4メーカーが電動二輪車の普及を目的に「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」を設立。同コンソーシアムが今年9月より、大阪府内において行われている、交換式バッテリー電動二輪車実証実験「e(ええ)やんOSAKA」に連携。
同じく今年9月、関西電力株式会社、岩谷産業株式会社、日本マクドナルド株式会社、株式会社読売新聞大阪本社、京都市が「脱炭素社会を目指した電動バイクのバッテリーシェアリング推進協議会」を設立。そして今回のJEMPA設立である。
これは来年だが、ハーレーダビッドソンジャパンは、電動バイク「Live Wire(ライブワイヤー)」を日本市場に導入することを発表した。ザックリではあるが、これだけのトピックが電動モビリティ業界には存在するのだ。
これもまた、前述したが、JEMPAに参加している企業の製品には、クラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げて目標金額を大幅に上回った製品、ネット通販サイトのランキングで1位を獲得した製品がある。これらのことからも、今の状態は電動モビリティ業界が独自に盛り上がっているのではなく、消費者からの支持が高いことがうかがえる。つまり、商材としての魅力もあるということなのだ。
さて、今回の勉強会で驚いたことがある。それは試乗会。参議院議員会館のどこで試乗会をやるのだろうかと思っていたら、なんと、会場である会議室内で開催されたのだ。会議室にあらかじめシートが敷かれており、勉強会の質疑応答が終わった後にテーブルとイスをどかし、試乗を行った。つまり、一定のスペースさえあれば、試乗会の場所を選ばないのだ。これは、排気ガスの出るバイクではできないこと。鳴海氏が例に挙げたセグウェイのデザインもそうだが、これからは、これまでの常識は徐々に通じなくなっていくものと考えられる。電動モビリティとは、そういう側面を持つ乗り物なのだ。
和歌山市にあるglafit株式会社(以下、グラフィット)」は10月28日、東京都港区の日本自動車会館内クルマプラザで記者会見を開催。同社の電動モビリティ「glafitバイクGFR-01(以下、glafitバイク)」が原付一種と自転車の切り替え可能なモビリティとして、国内で初めて正式認定されたことを発表した。
これは、生産性向上特別措置法に基づいて創設された「新技術等実証実験(『規制のサンドボックス制度』)」を活用した取り組みで、同制度への申請は和歌山市と共同で行った。「自転車と電動バイクの機構を組み合わせていても、法律上の解釈は常に原付であるという見解が平成17年の段階で警察庁から発表されていました。たとえ電源オフのペダル走行時でも、常に原付として扱われるということです。通行できるのは、車道のみ。この部分の法整備にチャレンジできないかと模索していたところ、サンドボックス制度を知りました」(グラフィット・鳴海禎造社長)
グラフィットと和歌山市は、2019年11月から2020年1月まで実証実験を行い、参加者にアンケートを実施。ユーザーニーズや意見の収集などを行ってきた。その上で、電源オフにした時に普通自転車として取り扱ってもらうための提案をし、それが認められたのである。
ただ、これには電源をオフにすれば良いということではなく、「モーターが駆動しないことを電子的な制御のみではなく、電源をカットする機構により担保すること」「ナンバープレートにカバーをかけ、交通標識デザインに沿ったピクトグラムで自転車であることを明確に示すこと」「ナンバープレートのカバーの切り替えは、電源を切った状態で、停車中にのみ可能なものとすること」という条件がある。
会見でglafitバイクに取り付けられていた機構はプロトタイプで今後、2021年初夏をメドに機構単体の製品開発を行う予定だという。販売前に警察庁が改めて機構を確認した上で、各都道府県に対して通達を発出し、運用が開始される。また、機構単体の完成後は、機構を取り付けたモデルも製造していく予定だ。
ただし、この機構の適用はglafitバイクシリーズのみに限定されている。そのため、他メーカーモデルへの適用は、個々に警察庁に確認する必要がある。しかし、グラフィットが開拓したハイブリッドバイクという『電動モビリティ×自転車』の道。電動モビリティの新しい価値を創造した意義は、決して小さくはないだろう。
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