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【販売店取材】関東本田商事株式会社 大野勇次 代表取締役(東京都)

公開日: 2022/02/24

更新日: 2022/09/21

関東本田商事株式会社 大野 勇次 代表取締役


東京都新宿区に店を構える、1968年創業の関東本田商事。父と兄の跡を継ぎ、2000年に社長に就任した大野勇次氏は昨年、200人以上の新規ユーザーの修理・整備にあたった。彼らの多くは他店で断られた、あるいはどこの店も予約がビッシリで予約が取れない、というユーザー。この背景には、困っている人は助ける、という思いやりがあった。

いまは、80年代のバイクブームの頃のように忙しい。けれども、当時とは異なる忙しさなのです

<center>本田宗一郎氏と藤沢武夫氏のサイン入り写真</center>
本田宗一郎氏と藤沢武夫氏のサイン入り写真

都内の喧噪の中に店を構える関東本田商事(大野勇次社長・東京都新宿区/以下、関東ホンダ)。同店の歴史は古く、現会長の大野一郎氏が1968年に創業。同氏は、本田技研工業の草創期に営業マンとして活躍していたのだという。

店内には営業成績で1位を獲得した際に授与されたという額に入った、本田宗一郎氏と藤沢武夫氏のサイン入り写真が飾られている。この写真を指しながら、ご子息の大野勇次社長は本田宗一郎氏に関するあるエピソードを語った。

本田宗一郎氏は晩年、絵を描くのを趣味にしていた。その関係から、関東ホンダの近所にあった画材屋を70~80年代にかけて頻繁に訪れていた。そうしたことから、自然と関東ホンダにも顔を出すようになり、大野会長との話に花が咲くことが何度もあったという。そして今日、今年で創業54年目を迎える関東ホンダの歴史を受け継いでいるのが、大野社長だ。

同氏が二輪業界で働き始めたのは1983年。16歳の頃のことだ。夜間高校に通い、日中は「中村商会」という部品商にアルバイトとして勤務していたが、当時はバイクブームの真っ只中。家業が忙しくなったことから、会長より仕事を手伝って欲しいと乞われ、その後、家業に就いた。大野社長には、8歳上のホンダSFに勤務する兄の孝治さんがいた。同氏も大野社長が店に入った5年後に経営に加わり、その3年後には、当時、社長だった会長よりバトンタッチを受け社長に就任した。

「兄は先輩達から凄腕の整備士と評されるくらい、高い技術を持っていました。そのため私は、兄の働く姿から、整備の技術やバイクに対する向き合い方など、多くのことを学びました」

このように語る大野社長だが、一方で接客のノウハウについては、先にも述べたように営業マンとして優秀な成績を収めてきた会長から教わることが多かったという。

「父はお客さんとコミュニケーションを取るのがとても上手でした。ホンダ時代には全国を回っていたため、出身地を聞いて『あそこのラーメン美味しいよね』など、何気ない会話をしながら、いつの間にか打ち解けている。私もお客さんと積極的に話すようにしていますが、これは父の影響だと思います」

何度も店を辞めようと考えたこともある

<center>ホンダ時代に営業マンとして全国を回っていた大野一郎会長</center>
ホンダ時代に営業マンとして全国を回っていた大野一郎会長

90年代後半の関東ホンダは大野社長、会長、母親の好子さん、孝治さん夫婦に加えアルバイト3人が勤務。さらに、全日本ライダーの東浦正周選手のサポートも行うなど、順風満帆な日々を送っていた。けれども2000年、孝治さんが病気で他界。その後、好子さんが体調を崩し、同店の経営は大きく傾くこととなる。当時の状況について、大野社長は次のように回顧する。

「みんながいてこその関東ホンダだったので、以前の運営体制を維持するのが難しく、またお店の雰囲気もどんどん暗くなってしまいました。兄の跡を継ぎ2000年に社長となりましたが、父と2人で店を回すほかなかったので、最低限の仕事を行うよう路線変更せざるを得ませんでした」

それでも関東ホンダには多くのユーザーが訪れた。寸暇を惜しみ働いていた大野社長だが、2010年、42歳の時には自身も体調を崩してしまう。

「当時、20時に店を閉めてから柏の杜会場へ向かい出品車両を搬入。深夜3時頃に帰宅して仮眠を取り、朝6時から登録書類の作成を始め、10時には店を開ける。そんな3時間睡眠の生活が3ヶ月ほど続いていたため、ダウンしてしまったのです」

自分の体が言うことを聞かなくなったこともあり、大野社長は何度も店を辞めようと考えたという。それでも、今日も何事もなかったかのように営業を続けている。

「様々なことを教えてくれた両親や兄、そして父の代からウチを支えてくれているお客さんに顔向けできないからです。やはり、彼らが一生懸命守ってきた店をなくすことはできませんでした」

デリバリーライダー達が1人またひとりと来店

<center>目白通りに店を構える関東本田商事</center>
目白通りに店を構える関東本田商事

コロナ禍により、ユーザー需要も大きく変化した。これについて大野社長はこう評する。

「いまは、80年代のバイクブームの頃のように忙しい。けれども、当時とは異なる忙しさなのです」

これはどういう意味なのだろうか。昨年は、200人以上の新規ユーザーが来店した。これは全体の約半分に当たり、大半が他の店で修理を断られた、あるいは予約が全く取れないといった理由で同店を訪れた人。このようなユーザーに対し、大野社長はできる限り依頼を断らないようにしているという。これはお母様の「困っている人がいたら率先して助けなさい」という教えによるもの。特に、東京は都心に行けば行くほどバイクショップが少なくなるため、ライダーを放っておくわけにはいかない、と熱を込める。

新規ユーザーの来店目的として最も多いのが、オイルやバッテリー交換などのいわゆるクイック整備。これには、コロナ禍をキッカケに一気に拡大したデリバリー需要が関係していると大野社長は言う。

「以前は販売の他に、地域のバイクの整備をメインに行っていました。けれども、2020年以降は配達で使用している車両が増え、いまでは1日平均で6~7台、多い時には約20台クイック整備をしています。すぐに対応するのがウチの強みですが、これだけで営業時間が終わってしまう日もあるほどです」

取材を行っていた14時頃、大野社長は「そろそろデリバリーライダー達が来ますよ」と言っていたが、実際に15時を過ぎたあたりから、1人またひとりと来店。この光景は、関東ホンダの忙しさを物語っていた。

「80年代は、NSRやVFRといったレーサーレプリカが主流でした。けれども、いまはバイクの利用シーンが変わり、原付一種や二種など小排気量の整備がほとんど。しかも、次から次へと来るので時間との勝負となります。まるで、鈴鹿8耐のピット作業をしているような忙しさです」

こうした状況の中でも、大野社長は整備に関して大切にしていることがある。ただ作業を行うのではなく、ひと手間加えているのだ。例えばウインカーが割れていた場合、ユーザーに確認しテープで補強するなど、現状でできるサービスを実施。その結果、このような思いやりが信頼へと変わり、新車購入につながることも多いという。

クイック整備専門の店を作ってみたい

1996年に撮影された思い出の一枚(中央に兄の孝治さん、その右に母親の好子さん)
1996年に撮影された思い出の一枚(中央に兄の孝治さん、その右に母親の好子さん)

昨年の販売台数は約250台。そのうち新車が7割、中古車が3割を占める。この数字については、

「クイック整備が1日の大半を占めているので、重整備を行う時間があまりありません。中古車はなかなか仕上げられないため、3割という数字になっています」と説明する。

このような状況を踏まえ大野社長は、今後オイルやバッテリー交換といったクイック整備専門の店を作ってみたいと語る。

「これは兄が考えていた構想ですが、軽整備だけを行うので、凄腕のメカニックや広いスペースは必要としません。このような店が広がっていけば、整備待ちで混雑している二輪販売店の状況を緩和できるかもしれないですよね」

この考えを形にするため、また、自店の負担軽減のためにも、いま不可欠なのは人手の確保だという。

多い日には、1日で約20台ものクイック整備を行っている大野社長。多忙の日々を過ごす同氏を突き動かす根底には、両親と兄からの教えと、困っているライダーを思いやる気持ちがあった。

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