公開日: 2022/05/02
更新日: 2022/09/06
――― 昨年10月にカワサキモータースジャパンの社長に就任されてから5か月が経過します。川崎重工業時代とは見える景色が違うのでは。
桐野 印象として大きいのは、川重時代、私は隣の敷地の中におりまして、そこから見ていたKMJと、内側から見るKMJとでは、大きな違いを感じます。
――― その違いはどのようなものでしょうか。
桐野 カワサキモータースジャパンは良くできた会社だと感じています。成熟した二輪市場のなかで、多くの社員が明確なビジネスマインドを持ち仕事に取り組んでいることがハッキリと分かりました。
――― いままで以上にプラスのイメージが強くなったということですね。早速ですが、2021年度の販売実績と2022年度の計画を教えて下さい。
桐野 販売は順調に推移しており、プラス成長となっています。販売台数としては、3万台を超える見通しで、バブル崩壊後の最高実績となります。排気量で見ると、401㏄以上が全体の半分弱を占めています。
――― やはり車両の供給問題が大きな懸念事項だと思いますが、コロナの影響をはじめ半導体や樹脂不足などは、ほとんど解消されていません。そんななか、ついにロシアがウクライナに侵攻しました。
桐野 我々が取り得る対応については、すべて着手していますが、どうすることもできないのが物流問題です。特に、海外の港における遅延の原因は、船の運航ではなく、港での荷揚げ作業などです。なかには鉄道を使って船に積載するものもあります。そうなると、同じ物流であっても、すべてソースの異なる問題が起こるのです。それが上手くかみ合わないと滞る。この対応策がないのです。すでに着手しているのは製品変更です。これは予定していたパーツとは別のパーツを組むというもの。あまりにも入手が難しい場合は、入手可能な別のパーツに変更します。もちろん、キッチリとテストを行い、合格後、生産に着手します。ロシアのウクライナ侵攻については現在、カワサキモータースが情報収集し分析しているところです。
――― それは生産国が異なる場合でしょうか。
桐野 そのあたりはとても複雑で、あるパーツを構成している複数の部品の一つだけが生産国が異なる、というケースもあります。つまり複数の仕入れ先が存在している。そのなかの一つが滞ると、そのパーツは完成しません。そういう問題が起きているのです。
――― 構成部品の生産国を一本化するとか。
桐野 メーカーはどこも一緒だと思うのですが、危機管理のために、複数パーツを採用しているケースが多いのです。分かりやすいのがタイヤ。95年の阪神淡路大震災の時の経験を踏まえて、仕向地によって、タイヤを2社3社に分けています。他メーカーさんは分母が大きいので、以前から対応されていると思いますが、弊社でも複数採用したことで、納品が滞っても、新たにテストをせずに済む体制が整っています。
――― コロナ禍でカワサキ全体をけん引したバイクは何でしょうか。
桐野 日本国内では、やはりZ900RSですね。コロナになってアウトドアブームとなりお金の使い方や遊び方が変わりましたが、その変化の波に乗れたのかな、と思います。実際のところ、リターンライダーがコロナをキッカケに、またバイクに乗ってみよう、と思い立つケースが増えているのは確かですね。
――― いまZ誕生50周年記念アニバーサリーを展開されてますが、ユーザーの反応はどうでしょうか。
桐野 お客様からの評判はいいですね。弊社では、過去にも節目ごとにNinjaやZなどの周年記念を開催しています。ただ、今回はRSのおかげで、周年記念がさらに盛り上がるものと思っています。また、プラザの専用アパレルでも50周年記念グッズを用意しています。バイクだけではなく、様々なカタチで楽しんで頂ける内容となっています。
――― アパレルも人気のようで、早くもジーンズは売り切れとなっているようですが、人気商品については増産するのでしょうか。
桐野 一度作った商品は、どんなに人気が高くても基本的に増産することはありません。車両については、価値向上のために台数をコントロールしているのでは、という指摘もあります。でも、それは事実ではありません。数量は我々の経験値に基づき算出したものなのです。バイクにしても、アパレルにしても、あまりにも人気の高いモノについては、増産を検討すべきかもしれませんが、その際は納期、増産数を再度算出し、状況に応じて決定いたします。
――― では、それ以外のトピックはありますか?
桐野 昨年のメディア会見の時にお話しした四輪の発売です。これを本格的に開始します。また、オフロードモデルにも力を入れていきます。日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、カワサキはモトクロス、わりと強いんです。スーパーバイクは好調ですが、長い歴史で見ると「いま」なのです。でも、モトクロスは、かなり以前から着実に勝利を積み重ねています。ただ、残念なことに、サーキットに行っても、モトクロス場に行っても、来場者は出場ライダーの家族や知人ばかり。加えて台数も減っています。アウトドアであっても、ハードなモトクロスには抵抗がある。ただ、オフロードモデルで林道や未舗装道路を走るのも楽しいので、そうした遊び方をご提案しようと考えています。
――― どのようなカタチで販売するのでしょうか。
桐野 KLXなどオフロード全般を扱うのですが、施策として展開するのがコンペティションショップの販売網の構築です。プラザとは別の位置付けの販売店となります。なぜそうした制度を導入するのかと言うと、モトクロスとかコンペティションモデルはどうしても販売店の得意・不得意がハッキリと出てしまうからです。これは海外でも同様。KXを売るのが得意なお店と、全然売れないというお店に二分されてしまうのです。
――― あまりにも極端だと、ユーザーに影響が出てしまいますね。
桐野 お店がどれだけお客様の面倒を見てあげられるかにかかっているのです。レースに出たいと思っても、誰でもすぐに出場できるわけではないですしね。店が主導し、こんなスクールあるから参加してみて、などと導いて頂かなければならない。トランポの問題もそう。KXだったら最低でも軽トラは必要なので、そういうことを教えながらユーザーを引っ張っていける販売店さんが理想なのです。そうでないと、お客さんも安心して買えないと思うのです。プラザや正規取扱店でKX450が欲しいと言えば、もちろん買えますが、専門の深い知識を備えた販売店に加わって頂くことで販売をさらに強化することができるのです。
――― コンペティションショップになるための条件は。
桐野 希望されるお店に対しては、審査を実施させて頂きますが、基本は個人あるいはお店今後の二輪業界を占う単位でのレース出場経験の有無やモトクロス全般に関するユーザー対応等に関するヒアリングが中心となります。その後、コンペティションショップとしての販売店契約を結んで頂きます。差別化になるので、ぜひ得意分野を伸ばして頂きたいと思います。
――― オンラインショップもスタートしました。この狙いは。
桐野 遠隔地でもオンラインで欲しいパーツを購入頂けるところにあります。基本的にはブレーキやクラッチレバーなどの、自分でも簡単に装着できるようなものが主体です。その他、タンクパッドなどもそうですね。自分で簡単に貼れるものですが、購入するために一度、お店でオーダーし、納品されたら再度、お店に行かなければなりません。二度手間なので、お客様の視点に立ったうえでの効率化を考えました。ただ、だからといって、販売店の需要が減るわけではありません。なぜなら、そこには専門の知識・経験・設備を備えたプロのメカニックがいます。大切な愛車は、信頼のできるプロにお願いしたいというお客様の気持ちが変わるわけがないからです。
――― 「オンライン商談&カワサキプラザサービス協力店納車」を昨年12月より開始されました。
桐野 近くにカワサキプラザがない場所にお住まいの方でも、オンラインによる購入相談を通じてカワサキプラザをご利用頂くという、一つのコミュニケーションスタイルです。お陰様で、お客様からの評判は上々です。コロナがキッカケとなり始めたサービスですが、Z誕生50周年記念モデルの発表と同時に大騒ぎとなりまして、オンラインショップなら買えますか、など、様々な問い合わせを頂いてます。オンラインで購入相談し成約を頂いた後、サービス協力店に車両を納めて頂くという流れです。401㏄以上のカワサキ車の取引はなくても、取り扱っていないモデルの技術講習を受けて頂いたうえでお願いをしています。現在、サービス協力店だけで27店(2月末日現在)です。
――― 来店については、予約を推奨していますね。
桐野 はい。その理由は2つありまして、一つはコロナ対応、もう一つはプラザ店のコンシェルジュが忙しく、作業が詰まってしまっているからです。そのため、予約なしでお越し頂いても、かなりお待ち頂かなければならないのが現状です。予約の推奨はそれが理由です。
――― プラザネットワークの最終件数目標は。
桐野 当初の計画を修正し現在、103店を最終目標に掲げています。この数字の根拠は、全国に103店あれば、お客様をカバーできるだろうとの試算に基づくものです。現在、プラザ店は全国に80店ありますが、そこにサービス協力店28店とオンライン商談を組み合わせると、想定した商圏はすべてカバーできる状態となるのは確認できています。
――― レンタルバイク事業についてはどうでしょうか。1年前はコロナの影響により稼働店は一部のプラザ店に限られていたと伺っています。
桐野 2021年度内には大半のプラザでレンタル車を含めたすべての準備が整う予定です。台数は店に任せているので、2台の店もあれば10台用意している店もあります。レンタルビジネスについては、すべてのお店ではないのですが、リクエストは多かったですね。例えば札幌とか雪深い地域でも、ぜひレンタルを手掛けたいという積極的な要望もありました。
――― 利用者の年齢層は。
桐野 見ていると、利用者には若い人が多いです。バイクをレンタルする理由としては、購入を決断するための手段として考えている人が多いことが分かりました。実際に乗ってみた感触を、購入するかどうかの判断材料にしようということなのです。プラザでも普通に試乗はできますが、試乗コースはどうしても近隣に限定されるし、時間も限られている。それだけだと、判断も難しい場合がありますからね。一方、レンタルだと自分の好きなところで好きなだけ乗れるわけですから、自分に合うかどうかを十分に見極められるのです。
――― 今後の展開については。
桐野 基本的には、楽しみ方のスタイルのご提案、これをどんどん進めていきます。例えばワンメイクレース。日本には立派なインターナショナルコースがあるにも関わらず、競技人口が少なく多くの人は走行経験がない。私は川重時代の2015年にH2の商品企画を担当していたのですが、H2ユーザーですら、「サーキットなんて走ったことがない」と言う人がほとんどでした。H2はサーキットじゃないと全開にできませんからね。サーキットであれば、走り方を学べるし、安全に走れるところなのですが、敷居が高い。全く走ったことがない人がパッと行って楽しめるところではないですよね。そこで、ワンメイクレースを開催することで、誰でも気軽に参加できますよ、とアピールできる。遊びの幅を広げていきたい、という提案です。今度のサービス協力店も同様の考えで、「オフロード乗ってみたい、林道走ってみたいんだけど、どのクルマでどうやって行ったらいいの?」という時に、遊び方を提案する。これが最も大事なことだと考えています。
――― カワサキモータースでは、2030年までに売上高1兆円、という目標を掲げています。実現のためにはハイブリッドは欠かせない技術?
桐野 大型バイクを電動化するという目途は立っておりません。実際、大型バイクならガソリン満タン状態で、100数十キロの速度で300キロ走ることができますが、電動化でこの条件を満たすことは、現状では難しいのです。バイクをガレージに置いておく人もいるわけですから、CO2排出量の少ないバイクを電動化する意味やメリットがどこまであるのか、ということだと思います。一方で、カーボンニュートラルは企業としても一人の人間としても、対応していかななければならないこと。解決策は多種多様です。一つはハイブリッド。四輪では一般的な技術ですが、二輪車では実現していない技術。これに挑戦するのも、一つの方法だと思います。また、水素エンジンも、内燃機関でありながらカーボンフリーであるため、水素を燃料とする技術も解決策の一つでしょう。今後、世の中の技術の進歩に伴って、他の選択肢も出てくるかもしれないと思います。
――― 火力発電を抑えれば、温室効果ガスの排出量も大幅に減ります。
桐野 全員で取り組んでいかなければならない課題ではありますが、メーカーとしては、全世界に物を売っているので、国や地域や使い方、モデルに合わせた選択肢を用意するということだろうなと思います。
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