公開日: 2022/05/02
更新日: 2022/09/21
1999年、北海道富良野市に開業したモーターサイクルショップPLATZ(高松農社長/以下、プラッツ)。今年で23年目を迎える同店は、Z系やCB系などの絶版車をはじめ、Z900RSやハヤブサなどの高年式車を多く扱っている。ただ、これがオフシーズンになると、プラッツの様相は一変する。絶版車系の販売に加え、同店特有の販売活動が繰り広げられるのだ。
取材に伺ったのは3月中旬。首都圏では春の訪れを感じられる時期ではあるが、北海道では「春いまなお遠く」といった感がある。そこで今回は、プラッツの冬期における業務内容に焦点を絞り紹介する。
高松社長にとってバイクは、幼少期の頃から身近な存在であった。上富良野町にある同氏の実家は、東京ドーム約34個分(160ヘクタール)の広大な敷地面積を誇る牧場を経営している。高松社長は小学校低学年の頃から牛を追いかけるため、また、放牧から戻ってこない牛を探すため、牧場内をバイクで走り回っていたという。
幼少期より頻繁にバイクに乗っていた高松社長は、次第に整備にも興味を持つようになっていった。その背景には、航空整備士であった祖父・高雄さんの存在があった。
「祖父は、動かなくなった車両のエンジンを直したりしてくれました。その姿を見て、私も整備に興味を持つようになったのです。中学生の頃には、知り合いのバイクや草刈り機などのメンテナンスをしていました」
高松社長が二輪業界に入ったのは17歳の時。高校に通いながら、旭川市のバイクショップで勤務。同店で2年半ほど働き、その後も別の二輪販売店に勤めた。
同氏が自分のお店を持ちたいと思うようになったのは、3件目の販売店で働いていた23歳の頃のこと。お世話になっていた友人の父親から、人生のアドバイスを受けたことがキッカケだという。
「元々、いつかは自分のお店を開業できたらいいなと考えていました。けれども、『25歳までには自分の生き方を決めて、キチンとした生活を送らないとダメ』と諭され、独立を決心したのです」
以降、資金を貯めるため昼夜を問わず働き、25歳の時に開業した。
今日の二輪業界は、コロナの影響もありバイクブームが再燃しているが、プラッツではどのような変化があったのだろうか。これについて高松社長は、特にユーザー層に変化が見られるようになったという。
「メインは40~50代ですが、最近、若い人が増えています。彼らはツイッターやインスタグラムなどで私のお店を紹介し、新規のお客さんを連れてきてくれるのです。SNSが窓口となっているので、改めて口コミは重要だな、と感じています」
新規ユーザーの増加もあり、昨年は新車・中古車合わせて100台以上を販売。そのうち新車は1割、中古車は9割であった。ただ、バイクブームの再燃によって、新車の比率が高まりつつあるという。
2021年は客単価が100万円を超え、前年比約2倍の売り上げを記録したプラッツだが、北海道ではどのようなバイクの需要が高いのだろうか。これについて高松社長は、次のように分析する。
「原付やスクーターの需要はほとんどありません。北海道は街から街までの距離が遠く、アクセルを開けている時間が長いため、排気量が必要となります。そのため、私のお店のメイン商材は600cc以上のモデルです。この地域でバイクは、移動の足ではなく、嗜好品としての性格が強いと思います」
高松社長は本州の二輪販売店の友人から、「オフシーズンは何をしているのか」とよく聞かれるという。これについて同氏は、次のように説明する。
「北海道では11月から4月までがオフシーズンです。この時期は、普通の状態ではバイクに乗れません。また、バイクを自宅に置いておくと、雪に埋もれてしまう、というお客さんも多いので、車両の預かり業務を行っています。料金は大型車で約2万円。バッテリーのチャージやエンジンの始動確認などの整備を行った上で、春、ユーザーにお渡ししています」
そのため、プラッツは店舗の他に、倉庫を3つ所有。今シーズンは他の業務との兼ね合いから約30台に抑えているが、多い時には50台ほど預かる年もあるという。
また、この預かりと一緒に依頼されることが多いのがエンジンのオーバーホールなどの重整備やカスタム。これは年間を通じて行っているものの、北海道ではバイクに乗れる期間が限られるため、オフシーズンに注文が殺到するという。
「北海道では昔から、オンシーズンに備えてオフシーズンに重整備を依頼する人が多くいます。特にウチは、旧車やサーキット走行車のエンジンのオーバーホールが多いですね。これだけで1000万円以上の売り上げがあります。休む暇がいくらい忙しいです」
さらに、オフシーズンはこれらの業務と平行して、除雪機の販売と整備も実施。これは、言うまでもなく必要不可欠な機器であるため、毎年20~30台ほど売れているという。
他にも、プラッツでは雪国ならではの商材を2つ扱っている。1つ目は、スノーバイク。これは、オフロードモデルのフロントにソリ、リアにキャタピラを装着したバイク。取材時、筆者も体験させて頂いたが、足跡ひとつな広大な雪面を走る開放感、そして、雪が積もっている所ならどこでも走れるのではないか、と思ってしまうほどの高揚感を味わうことができる。
2つ目は、スパイクタイヤ。北海道では、大晦日から元旦にかけてバイクで宗谷岬を目指すツーリングイベントがあり、同タイヤなしには辿り着くことができないため、需要があるのだ。
高松社長は北海道で営業しながら、2010~2016年(2014年を除く)にかけて、鈴鹿8耐にメカニックとして参戦した経験がある。その経緯について、同氏は次のように説明する。
「鈴鹿8耐に出場が決まっていた友人のレーサーから、バイクを作って欲しいとお願いされ、コンストラクターとして参戦することを決めました。鈴鹿8耐を走るレース専用マシンを製造するのは憧れであり、自分がどこまでできるかを試したかったのです」
この参戦をキッカケに、翌年から2013年までは、本州のチームのメンバーとして参戦した。だが、何度も出場するうちに、地元、北海道出身の友人たちだけの力で挑戦したい、という思いが芽生えるようになっていったという。そして2015年、ライダーからメカニックまで、全員が北海道出身のチーム「北海道サベダー」で出場した。
この年はCBR1000RRで参戦。バイクだけでなく、クイックチャージャーやタイヤ交換スタンドなども自分たちで製作した。完走すら難しいと言われる鈴鹿8耐に、リタイヤでは北海道に帰れない、という強い覚悟を持って臨み、総合38位でフィニッシュ。見事、完走を果たしたのだ。
「鈴鹿8耐を完走できるバイクを作れたという経験は、整備士として絶大な自信に繋がりました」
最後に、北海道で商売を続ける上で、重要と考えることについて聞いた。
「北海道はパーツやオイルなどを仕入れる際の送料が高いため、どのように利益を出すかを考える必要があります。そこでポイントとなるのが、仕入れ元に対する価格交渉です。私は消耗品を一括購入し、知り合いの販売店に業販しています。大量に仕入れることにより、単価を引き下げてもらっているのです」
1年を通じて多忙な日々を過ごしている高松社長。同氏は鈴鹿8耐で証明した確かな技術を携え、様々な業務を展開しながら、北の大地に住むライダーのバイクライフを支え続けている。
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