販売店取材注目

【販売店取材】Attractive 後田吾郎 代表(東京都新宿区)<前編>

公開日: 2025/06/17

更新日: 2025/06/19

二輪業界での勤務経験がないまま、バイクショップを開業した後田吾郎社長。心掛けているのは、時間を要する整備でも可能な限り当日中にユーザーへ納車すること、そして、基本的にどんな依頼でも断らないこと。同氏は現在、車両販売や整備、カスタムといった業務に加え、メディアの手伝いや「56RACING」の運営など、多岐にわたる活動を展開。バイク便・デリバリーライダーを中心に、多くのユーザーにとって替えの利かない存在となっている。

創業以来、1日たりともお客さんが来店しなかった日がないことが自慢です

新宿区、大久保通り沿いに店を構えるAttractive
新宿区、大久保通り沿いに店を構えるAttractive

「バイクの事なら何でもやります!」

都営大江戸線「牛込柳町駅」(東京都新宿区)から、徒歩わずか1分の場所に店を構える「Attractive(以下、アトラクティブ)」の看板には、この言葉が記されている。アトラクティブの主、後田吾郎社長はバイクショップでの勤務経験がないまま、自分の店を構えた。同氏のキャリアは少し変わっている。

後田社長は京都出身。15歳からモトクロスをはじめ、熱中する日々を送る中で、ロードレースの世界で活躍することを夢に見るようになったという。その情熱は行動となって現れる。なんと、高校在学中に単身東京へ赴き、エンデューロやダートトラックの世界で活躍した、ウイリー松浦さんに弟子入りを志願したのだ。また、生活するにあたり働かなければならないため、上京後のアルバイト先も決定。高校卒業と同時に京都を後にし、東京で新たな生活をスタートさせた。バイクブームがまだ続いていた1987年のことである。

「松浦さんに認めてもらい、正式に弟子となったのは上京してから約1年後。最初は相手にされませんでしたが、何度も通ううちに熱意が伝わったのだと思います。それからはミニバイクでひたすら特訓の日々。その後、耐久レースでの成績が認められ、ロードレースの世界に挑戦できるようになりました。松浦さんには4年半お世話になり、最終的には国際A級ライダーに昇格することができました」

ただ、活動資金が底を突き、借入額も徐々に大きくなっていった。そのため、後田社長はロードレースの世界で活躍するという夢を断念せざるを得なくなり、友人の多くが働いていたバイク便ライダーとして生計を立てる道を選んだ。

16歳の時に初出場したスクーターレース。一番左が後田社長
16歳の時に初出場したスクーターレース。一番左が後田社長

生活のためにバイク便の仕事を始めた後田社長だが、しばらくして、ロードレースライダーとして活動していた頃から足立区に借りていたガレージで、友人のバイクを整備し始めるようになる。この理由は、下積み時代の経験から、バイクの整備がひと通りできた同氏を頼り、バイク便ライダー達にオイルやベルト交換などを依頼されるようになったためである。次の日働けなくなってしまうと困るなど、バイク便ライダー特有の事情を理解し、迅速に対応してくれる後田社長の噂は同業者の間で瞬く間に広まっていった。その結果、利用客はどんどん増えていき、その数は数年で300人を超えていたという。

このように、多くのバイク便ライダーから頼りにされていた後田社長。そんな同氏に思わぬ転機が訪れる。バイク便ライダーとして契約していた会社の社長から、資金を援助するので、バイクショップを開業し、会社が保有しているバイクの点検や整備を請け負って欲しい、と打診を受けたのだ。

「いつかはバイクショップを経営したいと考えていた私にとって、社長からのオファーは思いがけないものでした。私は二つ返事で引き受け、2000年、31歳の時に、バイク便会社があった高田馬場から比較的距離が近い、文京区関口に店をオープンしました」

開業当初の店名は、「IHR後田(アイ・エイチ・アール後田)」。これは当時、友人達と行っていたレースチーム「いかした走りレーシング」にちなんで名付けたという。オープンすると同時に、バイク便会社が保有していたバイク50台、すべての整備を任されることとなった後田社長。さらに、バイク便ライダー時代に整備を請け負っていた300人のうち約半分が、足立区から文京区へと場所が変わっても通い続けてくれたという。そのため、もう1名のスタッフと毎日夜遅くまで作業を行うなど、オープン直後から多忙な日々を送ることとなった。

ただ、冒頭でも述べたが、後田社長はバイクショップでの勤務経験がない。バイクの整備を行っていたとはいえ、経営に関しては右も左も分からない状態。メーカーとの取引もないため、特に苦労したというのが部品の仕入れ。オープン前、上野にあった部品商に毎日通い、仕入れを行っていた、と当時を振り返る。

都心という立地にも恵まれ、いままで以上に多くのユーザーが訪れるようになったIHR 後田。2009年には心機一転、アトラクティブへと店名を変更。また、立ち退きなどを理由に2度の移転を行い、2017年、現在の場所へと拠点を移した。

デリバリーライダーには4車種のみを販売

店内の待合スペースには、バリバリ伝説の最終回が掲載された少年マガジンなど、懐かしの雑誌も置かれている
店内の待合スペースには、バリバリ伝説の最終回が掲載された少年マガジンなど、懐かしの雑誌も置かれている

アトラクティブの年間販売台数は、毎年200台前後。中古車販売がメインとなっており、排気量では原付一種と二種がやや多いが、軽二輪と小型二輪も同じくらいの割合を占めているという。

このバイクの販売において、後田社長には強いこだわりがある。趣味利用のユーザーには、欲しいと言われたモデルを仕入れて販売するが、バイク便・デリバリーライダーに関しては自身の経験から、特定のモデルのみしか販売しないというのだ。

「私はお客さんのニーズに合わないバイクは絶対に販売しません。そのため、デリバリーで利用する方には、使い勝手が良く、維持費がかかりにくい型式AY01のJOG、タクト、PCX125、リード125、この4車種しか販売していません。NMAXやトリシティ、アドレスを欲しいと言われても断ります。なぜなら、バイク便やデリバリー業務には、車種の向き不向きがあるからです」

また、後田社長はバイク便・デリバリーライダーに車両を販売する時、仕事内容をはじめ、月にどれくらい乗るかを必ず確認している。その情報を踏まえ、毎月2000〜3000km走行する人には新車または新車に近い車両、兼業でフードデリバリーなどを行う人には、多走行でも程度の良い車両を販売。その人の勤務状況に適したバイクを勧めているのだ。

店内にはタイヤやブレーキパットなど大量のストックが所狭しと並ぶ
店内にはタイヤやブレーキパットなど大量のストックが所狭しと並ぶ

上述のように、バイク便ライダーに加え、デリバリーライダーも多く訪れるアトラクティブ。彼らは全体のユーザーの半分を占めている。また同店は、新規ユーザーの来店も多く、年間では約300人に及ぶという。ユーザーの大半は整備を依頼。多い時には1日に約20人も店を訪れる。この整備において後田社長は、可能な限り当日中にユーザーにバイクを納車することを心掛けていると語る。

「ステムベアリングの交換やフロントフォークのオーバーホールなど、比較的時間を要する作業でも、その日のうちにお客さんに返すようにしています。これには、店に来たばかりのスタッフが驚いていました。バイク便・デリバリーライダーは1日働けなくなるだけで、稼ぎが数万円変わってしまう。翌朝から仕事が入っている人も多いので、すぐに直して欲しい、というお客さんの期待に、できる限り応えてあげたいのです」

多くのライダーが来店するアトラクティブでは、迅速な対応が求められるわけだが、それを可能にしているのが豊富なパーツ在庫だ。同店では常にブレーキパットは約150個、タイヤは約120~130個、チェーンは約30本など、とてつもない量をストックしている。

「パーツの仕入れ代は、毎月150~200万円。取引先の担当者からは、個人経営のバイクショップではトップだと言われています。また、タイヤ代は別となるので、毎月の支払総額は200万円を超えることも多々あります。ただ、先ほど話したように、バイク便・デリバリーライダーへの販売モデルを限定することで、ストックパーツの種類を絞ることができるのです」

またアトラクティブでは、他店ではなかなか耳にしないような柔軟な整備対応も行っている。これは実際にあったエピソードだが、VTR250に乗るバイク便ライダーがホイールベアリング破損のために来店したが、その日はストックを切らしていた。そのため後田社長は、在庫のVTR250からホイールを取り外し、そのユーザーのバイクに取り付け、走行可能な状態にして当日中に車両を返したのだ。そして預かったホイールを修理し、後日、改めて来店してもらい、パーツを取り換えたという。

後編はコチラから!!



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