販売店取材ホンダ

【販売店取材】HondaDream大牟田 三井千賀子 社長(福岡県)

公開日: 2022/05/31

更新日: 2022/09/21

先代の逝去が人生の分水嶺に。究極の選択を迫られた三井社長は、自らのキャリアを諦め家業に就いた。「自分の仕事は営業で数字を上げること」と、自分に言い聞かせつつトップの座に就いた。そこから業務改善を断行。そして4年前に出した答えが「Honda Dream」としてのブランディングだった。

MBAでの知識とビジネス経験で得たノウハウで業務改善、15年後の答えは「Honda Dream」

<center>4年前に「ホンダドリーム大牟田」としてスタートした、三井グループの旗艦店</center>
4年前に「ホンダドリーム大牟田」としてスタートした、三井グループの旗艦店

ある統計によると、二輪ユーザー全体に占める女性の割合は、2割弱となっている。だが、この数字はここ数年で少しずつ伸びているという。では、女性の経営者はどうか。人数はさらに少なくなるものと思われるが、その一方で優秀な人材が多いという印象がある。

福岡県大牟田市にあるホンダドリーム大牟田。店名からも分かるように、「ホンダドリーム」である。2018年4月に福岡県大牟田市にオープンした。県内に7店あるホンダドリームのなかの1店だ。同店を運営するのは株式会社三井グループ。代表取締役は三井千賀子氏。女性経営者である。ここで同氏について、少し紹介しよう。

三井社長がトップとなったのは、いまから19年前。先代が逝去されたことにより、当時、会社員だった三井社長が継ぐことになった。三井家では、弟の廉嗣氏が2代目経営者となるのが既定路線だったが、同氏は当時、ホンダ学園の学生だったため、三井社長が承継を決意した。ホンダドリームをオープンする以前の、「バイクショップ三井」の頃のことだ。

三井社長にとっては、並々ならぬ決意があったものと推測される。というのも、同氏はいまから25年前、米国カリフォルニア大学アーバイン校でMBA(経営学修士号)を取得しているのだ。飲食店の経営およびチェーンストア理論に興味があり、ケーススタディ形式でマクドナルドやスターバックスの経営手法について学んだという。MBAは日本のビジネススクールでも取得できるが、海外で取るとなると、かなり高度な英語力が求められる。そのため、難易度はさらに高まるのだ。

「短大卒業後、飲食店のフランチャイズビジネスを展開する株式会社プレナスに入社し、新規事業のエムケイレストランの立ち上げに加わりました。その時、仕事を通じて海外との交渉に興味を持ち、また経営コンサルタントの先生と仕事をする機会も多かったことからMBAに関心を抱き、海外で取得したいという思いが芽生えたのです。3年間の勤務の後、プレナスに身元保証人になって頂き留学しました」

レストランのフランチャイズビジネスと二輪販売店経営とでは、全く共通点はない。不安も多かったものと思うが、実際のところはどうだったのか。

「当時の従業員は結婚をして家族もいました。もし、私が受諾しないと、彼らの生活を守れなくなってしまいます。あとは弟の問題ですね。ホンダ学園への入学直後だったし、彼が“帰ってくる場所”がないと、何のために入学したのか、となってしまいます。整備の資格を持ったスタッフが3名いたので、私は販売で頑張ればいい。店舗運営については、前職での経験があるので、なんとか対応できるだろう、そう自分に言い聞かせました。そして、いかにして利益を上げればいいか、そこをポイントとして考えました」

苦労したのはバイク用語。免許は持っていたというが、それ以上でもそれ以下でもなかったため、本や雑誌を購入し覚えたり、ユーザーとの会話を通じて勉強したという。 

<center>車両、アパレル、休憩スペースがせつ然とした店内</center>
車両、アパレル、休憩スペースがせつ然とした店内

三井社長が最初に着手したのは、プライスカードの変更だった。来店客の多い同店では、ユーザーからの質問に答えるだけでも、かなりの時間を要した。販売を担当していた三井社長だけでは対応しきれなかったのである。質問の多くは価格に関するものであったことから、プライスカードの表示内容を変更した。いまでこそ当たり前だが、かつては車両本体価格と消費税、この2つのみの記載というシンプルなモノだった。これだと自賠責や税金などの諸費用が分からない。そこで、パソコンで乗り出し価格の内訳などが分かるデータを作り、ラミネート加工したうえで掲出した。

「自賠責は原付だと2年付ける方が多いので2年で計算し、初めて買う方はヘルメットも必要なので、平均的なフルフェイスモデルをチョイスしそれも含めた総額を記しました。さらに、プライスカード自体は引き算方式にしました。例えば中町(大牟田市中町)だと納車費用として2000円頂いてます、けれども来店頂ければ、その分をカットする、といったやり方です。その結果、プライスカードを見れば、誰でも費用について答えられるようになったのです。レストランのマニュアルみたいなものですよね。バイトで入ったばかりの高校生に対し、マニュアルに基づき仕事を教えるのと同じ論理です」

メカニックであっても営業であっても事務であっても、誰でも応対できるようになったことで、業務効率は向上した。また、これは社内向けの施策だが、各営業マンの販売台数グラフを用意し、販売が1台増えるごとにインセンティブがどれくらい増えるのか、という様子を可視化した。これにより、営業マンの士気は一気に向上したという。広告宣伝については、当時はDMや折込チラシを定期的に活用することで、休眠需要などを復活させることができるようになった。

翻って現在はこれらのメディアを使うことは一切ない、と三井社長。広告手段は、ほぼすべてがYouTubeやインスタグラムなどのSNSに完全に置き換わっている。

「専任スタッフを6名集め、イベントを中心とした様々な情報をアップしたところ、数字が大幅に伸びました。『Honda GORIDE』などのアプリもフル活用しています。このアプリには、ホンダからの新製品情報やイベント情報を取得するNEWS機能がありますが、この情報は、ウチで購入して頂いたお客様にも配信される仕組みになっています。いままでのようにコストが掛からないのが大きなポイントです」

コストが掛からなくなった分、デジタルサイネージ広告を活用しているという。効果は想定以上に高く、問い合わせ件数が大きく増えた、と三井社長は説明する。

デジタルサイネージ広告の契約は2年。約5分に1回のペースで21時まで表示される。これで月5万円ほど。まだ目新しさもあるので、注目度は決して低くないことが考えられる。

好評メンテナンスパック。追加費用に?そんな懸念も杞憂に

<center>アパレルは現物を展示することで動きが変わった</center>
アパレルは現物を展示することで動きが変わった

ホンダドリームのオープンから4年が経過するが、三井社長はいくつかの変化を実感しているという。その一つはアパレル。それまでは、カタログ通販のみの展開だったが、現物を展示するようになったことで、動きが変わった。売れる、という実感が得られるようになったのだ。車両については、バイクショップ三井時代と比較し徐々に新車のウェイトが高まり、現在は9対1の比率。

ホンダドリームとしての稼働に際し、最初の頃は戸惑いもあったという。店名が変わっても、ユーザーは「三井さんで買う」という認識でいる。そのため、従来と同じサービスに期待するが、異なるところもある。

「『以前は〇〇だったのに』と言われることもありました。でもいまは、多くのお客様が、ウチの良さを理解してくれています。例えばお客さんがホンダドリームのオーナーズカードのメンバーだと、3年間距離無制限のサービスが付くとか、ホンダドリームでの購入者にはメーカー保証が3年まで延長されるといった利点を知って頂くことで、状況は徐々に変わりました。『メリットが多いんだ』ってね。それが完全浸透するには2年掛かりました」

とりわけ評判がいいのはメンテナンスパック。購入者の3人に1人が契約するという。

「メンテナンスパックは、車検などの法定点検をパッケージにしたものですが、最初は不安もありました。バイクを購入頂く時の追加費用になってしまうからです。でも、だんだんとクルマみたいだね、と納得を示して頂けるようになりました。原付でも加入される方がいらっしゃるほど人気なんです。いまは車両代と合わせてローンが組めるのも、プラスに働いています」

このメンテナンスパックの作業は、車両販売などとは別の、ルーティーンワークとなっている。初回点検、6か月点検、12か月点検など、毎日必ず複数の作業が入っているのだ。作業計画を立てやすいところが利点だという。

ホンダドリーム大牟田では、業務量の増大に合わせ、効率を高めるための取組みを行っている。以前はパーツだけのオーダーを受けていたというが、いまはやり方を変えた。

「〇〇の〇〇が欲しい、とパーツだけをオーダーされるお客様もいまして、その場合、ウチで部品番号を探し発注していました。これ、かなり時間が掛かります。ウチに修理を依頼して頂けるならいいのですが、そうではない場合は、必ず部品番号を調べて頂いたうえでお受けするようにしています。こうすることで、発注ミス等のトラブルがあっても責任の所在が明確になりますしね」

2020年度比で販売台数30%増。人気カラーはグレー

<center>幅広い層から人気のGB350。最近はグレー系の動きがいいという</center>
幅広い層から人気のGB350。最近はグレー系の動きがいいという

車両の入荷状況についてはどうか。半年ほど前に比べ、あまり大きな変化はない様子。PCXとフォルツァについては、ベトナムとタイという生産国の違いはあるが、秋頃までに数台入荷されるのではないか、との見通しを立てているという。今年の東京モーターサイクルショーで発表されたダックス125については、発売直後に入荷する可能性はあるが、それ以降については不確定要素が多いため、ユーザーにも明言は避けているのが現状。

「すでに発売されているCBR1000RR-Rもそうです。お客様からの問い合わせは多いのですが、ハッキリとした回答ができない状態です。厳しいですけど、こればっかりはどうしようもできないですからね。カラーリングについては面白い傾向があります。グレー人気が高いんです。ダックスにしてもGB350Sにしてもそう。アウディにあるような、ベタっとした感じのグレーです。ハンターカブについては、赤かと思ったら、ブラウンばかりですね」

販売台数については、2020年比で30%ほど増加しているという。同店においては、カップルでのライディングが増加傾向にある。旅行に行けない状況が継続していたため、バイクに乗っている彼氏に倣い、バイクの免許を取り購入するケースが増えたのだ。阿蘇をはじめとするツーリングスポットには事欠かないところが影響しているものと思われる。

そうした関係から、ツーリングも毎月、欠かさず行っている。参加者は、スタッフも含め25名前後。かなり規模の大きなツーリングと言える。

コロナ禍以降の傾向として、三井社長は夫婦での参加の増加を挙げる。

「ご主人が乗っていて、それに奥さんが影響を受けて大型を取っちゃうというケースが多いです。最近は奥さんの立場が強く、『これ欲しい』と言ったら、ご主人は断れない、そんな家庭が増えているようですね(笑)。親子での参加者も増加しています。お父さんと息子さんという組み合わせはもちろん、そこにお母さんも加わる場合もあります」

さきほどの、カップルでライディングを楽しむユーザーと同様で、コロナ禍以降、多く確認できるようになった傾向だ。

家族ユーザー、カップルに人気が高いバイクの一つにGB350がある。同店では早い段階から足付き性を懸念していたという。そこで、メーカーにパーツ製作を打診し製品化した。それがナイトロンのリアサス。20mmのローダウンが可能だ。三井社長の読みは的中した。評判が評判を呼び、問い合わせが集中。一部のユーザーからは、メーカーのオリジナル製品と勘違いされたりもしたという。

「製品化により、いままではさほど多くはなかった、佐賀や大分からのお客様が、明らかに増えました」

ただバイクを売るだけではなく、このバイクをより楽しんでもらうには何が必要か、について考え実践している。その一例が、リアサスの開発依頼なのだ。

ホンダドリーム大牟田。ドリームという名前は、一つの“ブランディング”である。ブランドである以上、細かなレギュレーションはある。だからこそ、ユーザーに対し均一のサービスを提供できるのだろう。

もちろんそこには、三井社長をはじめとするスタッフの努力があることは、容易に想像できる。

20代で家業を任された三井社長。だが、それに動じることなく、MBAで学んだ知識と過去のビジネス経験から得たノウハウをバイクショップ経営にアジャスト。一つひとつできるところから業務改善に着手した。そして選んだのが、ホンダドリームという”ブランディング“であった。「この選択は間違いではなかった」。こう語る三井社長の表情からは、努力に裏打ちされた矜持の念が感じられた。



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