販売店取材注目

【販売店取材】株式会社レオタニモト 谷本将崇社長(京都府)

公開日: 2022/09/05

更新日: 2022/09/12

朝礼での1分間スピーチと委員会活動。 ここに“レオ流 社員教育”のエキスが凝縮

朝9時30分、筆者はレオタニモト本店( 京都府右京区/ 谷本将崇社長) 1Fフロアにいた。いまから朝礼が始まる、というタイミングだ。筆者も参加させて頂くこととなった。朝礼参加者は10名。進行役のスタッフの挨拶から始まる。身だしなみチェック、挨拶訓練、経営理念唱和に始まり、2グループに分かれての1分間スピーチへと続く。この日のスピーチのテーマは、「バイク用品をご紹介する時に考えていること」。全員がこのテーマに基づき話をする。1分間というのは、思っている以上に長いものだが、どのスタッフもメモを見るわけでもなく、自分の言葉でよどみなく話していた。

「凄いな」

これが素直な感想だった。対面販売は、最初に消費者とのファーストコンタクトがあり、そこから発展していくもの。挨拶とトーク力、これが備わっていることは、対面販売においては非常に大きな力であるのだ。

“期待の120%超え”の手段の一つが、イベント開催

京都の商売は「店から買う」のではなく「○○さんから買う」なのです、と語る谷本将崇社長
京都の商売は「店から買う」のではなく「○○さんから買う」なのです、と語る谷本将崇社長

では、店を大きくする、売れる店にするためには、何が必要なのだろう。

昭和の時代、国内新車出荷台数において最高実績を記録した時には、どの店も販売は好調で、極端に言うと黙っていても売れる、そんな時代だった。けれども、市況に陰りが見え始めると、途端に販売が停滞する店が出てきた。ここで分かるのが、地力の差だ。この差はなぜ生じるのか。考えられるのは、明確な戦略があり、それに基づく戦術が立てられており、それを実行する仕組みが構築されているかどうか、である。レオタニモトは、それらを具現化している企業である。

同社は、「我々レオタニモトは『バイクの愉しさ』を伝え、『オートバイ文化』を創造するために日々努力する会社である」を経営理念として定めている。この理念は、冒頭で紹介した朝礼のなかで唱和される。すべての行動の原点はここにあるのだ。

ここで、同社の歴史を見てみよう。創業は1925年。あと3年で創業100年という老舗中の老舗だ。谷本社長の祖父が酒屋を営み、続けて自転車販売店を開始したのが始まり。その後、2代目の賢司氏が家業を承継し二輪販売に着手。指定工場資格の認証取得やバイク用品店「レオナ」をオープン。二輪販売の基礎を築いた。

2006年、それまで大手総合商社に勤務していた谷本将崇氏が社長に就任すると、ホンダドリーム京都東やカワサキプラザ京都南、「ハーレーダビッドソンレオ」を矢継ぎ早に立ちあげ、さらにはレンタルバイク事業への参入など、事業を多角化し進化発展させた。

現在は京都市内を中心に二輪販売店を11店舗展開する。社員数は実に100名を超える、国内有数の販売店である。この背景には、スタッフの高い能力がある。能力を高めるためには、徹底した社員教育が求められるが、これこそがレオタニモトが最も力を注いでいるところなのである。

総務部広報採用企画課課長 清水剛さん
総務部広報採用企画課課長 清水剛さん

同社の経営戦略について紹介する。まず「全社的視点・店舗視点」について。同社では「お客様へのプラスワンを重ね期待を120%超える」を掲げているが、なぜ120%なのか。これは、100%超えはあたりまえ、との考えに基づくもの。ユーザーの期待を上回る満足を提供することこそが肝要なのだ。

これは同社が提唱する「感動接客シンプルルール」に準拠する。中には120%どころか300%、400%を目指すようなスタッフもいるというが、これは明らかな過剰サービス。満足度は120%でいいのだが、全スタッフがそれを超えることが重要、と説く。

これを体現するための手段の一つがイベント開催である。単にイベントといっても、ジャストアイデア的に実施するものではなく、綿密な企画が根底にある。

いくつか紹介すると、オフシーズンにスキー場を貸し切り、オフロードバイクを楽しむ「オフロードパーティ」や、バイクの技量を高めるための「エンジョイ ライディングスクール」、ライコランドと共同で開催する「合同試乗会」、安全運転実技講習会「目指せ!安全運転ライダー~実技講習編」の他、「ハロウィンツーリング」やサンタの恰好をしてバイクに乗る「サンタツーリング」、女性が喜ぶ「いちご狩りツーリング」や「ブドウ狩りツーリング」もある。他にもまだまだあるが、大別すると展示会、スクール、オフロード走行、パーティー、試乗会、走行会、そしてツーリングとなる。これらを年間100回も開催しているのだ。

これらのイベントは、顧客満足度調査等に基づき、スタッフが企画している。そのための組織が「イベント委員会」。同委員会は、バイクイベントの企画運営を行う組織。いちご狩りやブドウ狩りはレディースツーリングだが、このイベントリーダーは入社3年目の女性スタッフ、俣野さん。体験内容はすべて女性目線。イベントリーダーが女性なので、女性からの共感が得られやすいという構図である。

元顧客の警察OBを雇用。同氏をテーマに動画を制作

巨大なオブジェが印象的なレオタニモト本店
巨大なオブジェが印象的なレオタニモト本店

同社には、この「イベント委員会」をはじめ、「CS委員会」「ES委員会」「理念浸透委員会」「感動物語コンテスト委員会」の計5つの委員会がある。これは谷本社長が考える、社員教育のための組織なのだ。この目的について谷本社長に話を聞いた。

「目的は、会社が抱えている問題点を社員全員で共有し、解決に向けた方向を導き出そうというものです。全社員が必ずどこかの委員会に属さなければいけないという決まりがあります」

各委員会の活動内容について見てみよう。まずは「CS委員会」。CSとは言わずと知れたカスタマーサティスファクション。ユーザーに対し期待を上回るサービスを提供するための研究・活動を行うセクション。具体的取り組みとしては、アンケート調査と分析、行動指針の策定、電話応対改善などである。

次に「ES(エンプロイーサティスファクション)委員会」。従業員満足度向上のため、社員全員が誇りに感じられる会社を目指すもの。ESアンケートや社内間で感謝を言葉にするサンクスカードを通じて、社員全員に働くことを誇りに感じてもらうための仕組みづくりを行っている。理念浸透委員会は、企業理念に基づき、一人ひとりが物事を主体的に考え行動できる組織づくりを目指したもの。朝礼の在り方の改善を行っている。

最後は「感動物語コンテスト委員会」。人の可能性を信じ、真剣に向き合い助け合える社風をつくる、というミッションがあるという。これだけ聞いても、何のことか判然としないだろう。ここで少し、同委員会について説明しよう。「感動物語コンテスト」とは、職場で生まれた感動エピソードを動画で表現するというもの。開催スローガンは「『人を大切にする会社』が日本を元気にする!」。

同委員会では、これに応募するための動画を制作している。応募するキッカケとなったのは、レオタニモトのユーザー歴40年という警察OB(交通機動隊員)・山川直人さん(61歳)の雇用。第二の人生としてレオタニモトを選んだ同氏は、元白バイ隊員というスキルを活かし、ライディングスクールで参加者の指導にあたる、という役割があった。だが、11拠点100名ものスタッフを擁する組織においては、同氏のことをよく知らない社員もいる。そこで、もっと山川さんを知って欲しい、との思いから動画制作に着手したという。これについて、総務部 広報採用企画課課長の清水 剛さんは説明する。「動画には山川さんの第二の人生に掛ける思いやそこに至るまでの苦悩、新たな決意など、人となりが分かる内容に仕上がっています」

この作品、関西地区予選会において、「ゴールデン枠出場作品」に選出されたのである。そして今年、新たに、採用に絡めた動画を制作しエントリー。今度は関西予選を1位で通過したという。もちろん、目指すはグランプリだ。

話は戻るが、レオタニモトの社員は、先に述べた5つの委員会のどこかに属し、通常業務とは別に、月1回行われる委員会活動に従事しなければならない。会議はZOOMで行われ、結果は議事録として記録に残している。また、それとは別に委員長だけの会議や「電子会議室」のなかで、意見交換ができる掲示板を設定するなど、精力的に活動している。委員長は、基本的には役職のない社員が担う。つまり、社会人経験が浅い人が中心となるため、否が応にも責任感が養われる。また統率能力も徐々に備わってくるだろう。

ちなみに人気が高いのは、先に紹介した「イベント委員会」だという。顧客満足を高めユーザー定着を図るためには不可欠な組織だが、ユーザーと一緒になって楽しめることから、社員からの人気は高い。 先にも述べたが、この委員会活動こそが、レオタニモトにおける強力な社員教育手段である。朝礼での1分間スピーチで培われた、自ら思惟し思弁する能力は、委員会の場でさらに磨き上げられるのだ。

ここまで社員教育に力を入れるのには、いくつか理由がある。その最大の理由としては、京都での商売の難しさがある。

「京都での商売は、とにかく信用・信頼なんです。モノを買うにしても、店から買うのではなく、〇〇さんから買いますよ、という意識が強い。京都で商売を成功させるには人をどうやって育てていくかがすごく大切なのです。商社では数十億の伝票を扱うのは、ごく普通の光景ですが、僕らは1台いち台、バイクを買って頂き快適に乗って頂くようアフターサービスを行う。この積み重ねです。これ、信用以外の何ものでもないんです」

このように、京都における商売の核心について谷本社長は語る。そして、二輪販売の価値の重みについても強調する。「二輪販売の価値を感じたからこそ、父の仕事を承継するのは自分の使命だ、そう思ったのです」

とにかく信用が第一。これが京都の商売の難しさ

6メーカーの豊富な在庫が揃う
6メーカーの豊富な在庫が揃う

次に採用活動について。これは委員会とリンクするところもあるが、レオタニモトでは数年前まで大きな問題を抱えていた。離職率の高さである。2012年から毎年5~8名の新卒者を採用してきたが、数年以内に辞めてしまう人が多く、採用を担当している前出の清水さんは、現場から人が足りないと言われることが、よくあったと言う。そんな状況に直面し出した結論は、採用段階からすべてを見直さないと解決しない、というものであった。

「最初の頃は、会社説明会に来てもらうことだけに注力していました。その先のことは、流れに任すような感じでしたけど、それではダメだということにようやく気付きました。いまは、学生に会社のことをより深く知って頂くことに重点を置くようにしました」

学生を迎える際、レオタニモトでは、感情に訴求する面白い取組みを行っている。説明会の際、学生にはペットボトルのお茶を配るのだが、ラベルがオリジナルで、そこには学生の名前が印字されているのだ。取材の際も、筆者の名前の入ったお茶を用意して頂いた。 小さな心配りではあるが、企業姿勢を理解してもらうための効果としては、かなり大きなものが得られるだろう。新入社員からは、あの時のお茶、いまでも家に飾ってますよ、と言われるのだという。

「私たちは、自分らの仕事のことを『温かいおせっかい』と言っています。これは、スタッフの立場に立ったうえで、できることは、可能な限り行動に移すというもの。この考えをすごく大切にしています。これを行動規範としたところ、2019年以降、誰一人欠けることなく、今も元気に働いてくれています」

定着率の好転には、間違いなく理由がある。それは何か。学生とのファーストコンタクトの場である会社説明会での対応もその一つであった。「会社説明会に来た時にも、確実に伝えているのが経営理念です。学生が会社を選ぶ基準としては、給料や休日休暇、勤務地、仕事内容など様々だと思います。けれども、まず理解して頂きたいのは経営理念。これに共感できるかどうかを考え、会社を選んでほしい、ということを必ず伝えています」

レオタニモトでは、もう一つ強調していることがあるという。それは「大家族主義シンプルルール」。同社では、これを「厳愛と慈愛に溢れた絶対的な仲間」と表現する。日常での密なコミュニケーションがないと「ほめる」「叱る」という行為の受け入れは、かなり難しいもの。簡単に言うと、家族と接する時と同様の感情を社員同士が抱き「ほめる」「叱る」という行為をごく自然にできるような関係性を構築する、ということなのだ。

この基盤が確立されているため、委員会活動にしても採用活動にしても、問題なく推進できるのだろう。

取材を通して感じたのは、レオタニモトが制定したことには、すべてにおいて深い意味と目的がある、ということ。「絵に描いた餅」になることなく、キチンと実践に移しているのだ。これを体現した代表事例が委員会活動だが、決して有名無実化することなく、また、いわゆる「やっつけ仕事」になることもなく、主要業務として高い水準で機能している。これこそが、同社における教育活動の基礎要素なのだ。

取材の後、谷本社長より、ある依頼を受けた。アンケートへの記入である。そこには「チェック&アドバイス表」とある。項目は挨拶やおもてなし、モラル、店内・店外環境など多岐にわたっており、それについて5段階で評価をする、というもの。それだけではない。印象に残ったスタッフのことや、いい点、悪い点の指摘など、項目は全部で30以上に及ぶ。

簡単に「〇」「×」で書けるものではないため、回答する側も真剣になる。これを社内で全員が閲覧し、社内改善に活かすのだという。少しでもユーザーのため、そして自分たちのためになるのであれば、というあくなき向上心と探求心、取材を通して強く感じたことだ。



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