販売店取材注目

【販売店取材】YSP福山 河相義則社長(広島県)

公開日: 2022/12/02

更新日: 2022/12/02

見た目やデザインを重視する女性ユーザーが徐々に増加

「当時、二輪メーカーや信販会社、保険会社の方に、独立について相談したんです。すると、全員が『応援するよ』と言ってくれて。反対する人は、誰もいませんでした。かれこれ40年ほど前の話です」

YSP福山の河相義則社長は、当時を振り返りかみしめるように語る。同店は店名にもあるように、広島県福山市に拠点を構える。河相社長は元々、タイヤの卸売会社に勤務していた。入社当時から独立心、起業意欲が強かったという。そんな同氏が第一に考えていたのは、モノを売る商売。書店や酒店など、比較的参入しやすい商売を考えていたという。

その思いをある人に相談した。その人物はたまたま二輪販売店の経営者だった。結果、その経営者からの回答は、「ウチに来ないか」という誘いであった。河相社長はその申し出を受諾した。その店で学んだ後に独立しても、決して遅くはない、と考えたからだ。その頃には、バイクショップ経営という選択肢も芽生え始めていた。その店は、現在のYSP福山の場所にあった。

河相社長は3年間、その店で二輪販売のノウハウを学び、その後、独立する青写真を描いていた。だが、それは極めて困難であることが分かってきた。同氏は店舗運営には欠かせない存在になっていたからだ。評価そのものは嬉しいことではあったというが、このままいると、どんどん独立は遠のいていく。そこで河相社長は入社から1年半後、大英断を下し、前述経営読本威風堂々たる店舗。YSPのロゴが際立つの知人のサポートを得たうえで、5㎞ほど離れた場所に「モトボックス」の屋号で店を構えた。1984年のことだ。

「私は営業なので、サービスマンが必要でした。知人から整備士資格を持った人を紹介されたので、ウチに来て頂き2名でスタートしました。でも、その彼も販売店の勤務経験はなかった。そこで仕事を終え帰宅しても、家でエンジンをバラしては組むということを繰り返すほどの努力家でした。最初は原付から始めましたが、1年後には4気筒の4サイクルエンジンも完全に組み上げることができるようになりました」

現在はすでに退職しているというが、河相社長は、彼がいてくれたからこそスタートを切ることができた、と感謝の念を忘れない。その後、いくつかの紆余曲折を経て最終的には河相社長が社会人として第二の人生を歩むキッカケとなった、現在の場所で新たなスタートを切った。

ユーザーの中にはホテルやデパート並みの接客を求める人も

ゆとりのある空間がYSP福山の魅力の1つ
ゆとりのある空間がYSP福山の魅力の1つ

現在の店舗は国道2号線沿い。YSP店であるため、黒を基調とした、見慣れたカラーリングの2階建て。YSPのなかでも、かなり大きな部類に入るものと思われる。原付から軽二輪、小型二輪までYSPならではの品揃え。1Fは新車で2Fは中古車と明確に分かれており、その数は約80台におよぶ。新車の展示台数を見ると、およそ納期の遅れを感じさせない水準にあるように思える。

従業員数は9名と平均的な販売店に比べると多い。同店は指定工場の資格も有している。取得したのは十数年前。当時、YSPにおける有資格店は6店舗ほどで、いまは10件以上の店が取得しているという。河相社長は20年以上前から指定工場となるための青写真を描いていた。人材育成と検査員資格の取得には相当な時間を要したが、取得によって得られた効率性は、何物にも代え難いという。

YSP福山が最も力を入れていることの一つに接客がある。これについて河相社長はエピソードを交え、次のように説明する。

「過去によくあったのは、こちらが普通に接客しているつもりでも、それに不満を抱かれるというケース。もちろん、私たちにはそんなつもりは一切ありませんでしたが、お客さんのなかには、ホテルやデパート、四輪の購入ディーラー並みの接客を求める人もいます。実際、あるお客さんが、ウチの接客態度を不満に思い、『外車の四輪・二輪ディーラーはすごく丁寧。なぜ、それができないんですか』と言ってきたこともあったほどです」

こうした状況を踏まえ、YSP福山ではまず、挨拶の根本から見直したのだ。

「一例を挙げると、お客さんが来店されたら、その場にいる社員は全員立ち上がり、『いらっしゃいませ』と挨拶をします。状況によっては、私が直接挨拶をし、ご用件を聞いたうえで商談に入ることもあります」

なかには修理やメンテナンス等の依頼ではなく、すぐに購入したいという意思があるわけでもない人も来店する。その場合はどうするのか。具体的手法について聞いた。

「車両を見たいだけのお客さんであれば、気軽に見て回れるよう、何かあったら『遠慮なく声をかけて下さいね』とだけ伝えます。お客さんから話かけられない時は、5分ないし10分ほど経過した頃を見はかり、声を掛けます。その後、商談に入ったら、とにかく丁寧に話すことを心掛けます。最終的に契約を頂いたら、スタッフ全員で『ありがとうございました』と挨拶し、お見送りをします。これはごく一部ですが、最低限のことだと考えています」

商談でのポイントは、ユーザーが知りたい情報は何か、について聞き出すことだと河相社長。それがハッキリすれば、ニーズに即した車両を提案できる、ということになる。YSPと知って来店するユーザーは、ヤマハ車を探すならこの店、といった感覚で来店するケースが多いので、痒いところに手の届くサービス提供、これを心掛けているのだ。

県内はもちろん、岡山県や山陰、四国からも試乗目的で来店

YSP福山 河相義則 社長
YSP福山 河相義則 社長

ユーザー層について話を聞いて驚いたのは、ここ数年で10代のユーザーが増えている、ということ。大学生かと思いきや、高校生も決して少なくないのだという。友達同士で来る人もいれば、親子で来る人もいるというが、未成年者への販売についてはどうしているのか。

「民法改正により成年年齢が18歳に引き下げられましたが、いままでの慣例があるので、契約の時は必ず親御さんに来て頂いてます」

10代でも、親がスポンサーであるからか、新車を買い求めるユーザーが多いという。MTシリーズが出てからは、情勢が一気に変わり、新車の比率が7~8割を占めるようになった。コロナの影響等もあり、値引き競争には終止符が打たれた。この状態が本来あるべき姿、と河相社長はしみじみと語る。

「昔は『値引きなんぼしてくれるん?』と聞いてくるのが、普通でした。でも、いまは値引きを要請してくる人は、まずいません。ただ、気持ちの問題があるのも事実。オプションパーツも同時に購入する方が多いので、1万円引きの用品キャンペーンを行ったり、原付購入者にはヘルメットをプレゼントしたり、あるいは総額から端数をカットしたり。そうした対応をすることで、喜んで頂いています」

YSP福山では「ヤマハバイクレンタル」を展開しているが、展開車両のレギュレーションが変更となったこともあり、さらに需要が増しているという。かつては試乗車とレンタル用車両は分かれていたが、コロナ禍での供給遅延の問題もあり、いまでは共通利用が可能となった。YSP福山では元々レンタル用に用意していた車両7台、試乗用3台の計10台で対応している。需要が高いのはMT-25、YZF-R25、MT-09、トレーサーあたり。なかには絶版のSR400もある。販売終了となる前から用意していた車両だというが、販売終了となった後からは、レンタル希望者が引きも切らないという。

このSRについては、こんな話もある。同店では生産終了の話がアナウンスされた頃から、SRに乗りたいがために免許を取得した人が一気に増えたのだ。それも、その多くが女性だという。なぜか。

「女性は見た目を重視するので、デザイン的なファクターが大きな理由だと思います。かつてはドラッグスターなどアメリカンを見て、カッコいいと感じ、それに乗るために免許を取る、という女性も多くいました。こうした女性ユーザーは、コロナ前と比べると、倍増しています。実際、女性だけで来店するお客さんも増えている。20代の方が多いのがポイントですね」

興味深いのは、女性ユーザーの特徴。男性に比べ、決断までの時間が総じて長いのだという。失敗したくない、という意識を強く持ち、石橋を叩いて渡るのが女性なのだ。ここで、YSP福山における接客の一連の流れを紹介する。免許のない女性が来店した想定だ。

ユーザー「〇〇に乗りたいのですが、免許がないのでこれから教習所に通おうと思っています」
スタッフ「それでしたら、免許を取った後、試乗をお勧めします。乗ってみると、ご自身に合うかどうかが分かりますので」
ユーザー「最近、〇〇もカッコいいな、と思うようになって・・・」
スタッフ「よくある話です。多くの人の例にあてはめて考えると、最初に乗りたいと思ったバイクを選ぶほうが、後々の満足度は高いと思います。とにかく免許を取ったら遊びに来て下さい。試乗して頂いたうえで、少しずつ絞り込んでいけばいいと思います」
ユーザー「ありがとうございます。免許が取れたら連絡しますね」



このような感じで会話が進むのが一般的だと河相社長。免許を持っているユーザーの場合でも、一度で決めることはなく、何度となく来店し、試乗と商談を繰り返しながら、ようやく購入車両を1台に絞り込む、というパターンだ。 商談の際は、試乗を絡めるのが同店のやり方だが、試乗をしたからといっても、必ずしも成約に結び付かないのは、ごく普通のこと。では試乗体験者に占める、成約率はどうか。聞くと、3割前後だという。

「ウチには広島市内はもちろん、岡山県や山陰、四国からも試乗目的で来店する人がいます。遠方から来店頂く方のなかには、近くに乗れる店がないので試乗しに来た、という方も少なくはありません。でも、そういうお客さんに対しても、分け隔てなく接します。他で購入されるかもしれませんが、バイク人口が増えれば、業界にとってはプラスですからね」

平日の終業時間を18時までとしたことで、オンとオフにメリハリが

サービス工場では、4名の整備スタッフが作業を行う
サービス工場では、4名の整備スタッフが作業を行う

YSPには「オーナーズチケット」というサービスがある。オイル交換無料券や点検割引券など、車両維持に欠かせないモノをチケットにし、購入者全員に提供しているという。その他、「メンテナンスパック」もお得感のあるサービス。快適にバイクライフを楽しんでもらうためのサービスをパッケージ商品としたもの。定期点検やオイル・オイルエレメント交換を1年~3年パックに分けて販売している。

このメリットは、点検をすることにより、事前に消耗パーツのすり減り状況などが分かるところ。現状を確認することで交換時期が分かる。これについてユーザーに事前アナウンスをすることで、危険防止になるうえ、修理工賃も売り上げとして見込める。これが大きいのだ。

イベント関連では、サーキット走行会、林道ツーリング、そして通常ツーリング、主力はこの3つ。しかも毎月実施しているというから驚きだ。イベントサービス工場では、4名の整備スタッフが作業を行う開催にあたっては、担当責任者が決められている。サーキット走行会を担当するのは、女性スタッフ。休みの日には鈴鹿に走りに行ったり、先日は土日を使ってツインリンクもてぎまで走りに行ったのだという。

「彼女、ヤマハのなかでは有名なんです」と河相社長。イベントメニューのなかでも現調が欠かせないのは林道ツーリング。豪雨などの影響で路面が荒れていたり、倒木があったりすることがあるため、事前にスタッフが下見に行くのだ。ユーザーに安全にツーリングを楽しんでもらうためには欠かせない業務だが、これを担当するスタッフは、かつてはこれを休みの日に行っていた。

バイクに乗るという行為自体は楽しいことではあるだろうが、これは遊びではなく仕事。そこで、休日に下見を行った時は、出勤扱いとし、その分、代休を取得して貰っている。さらには最近、手当の支給も決めた。

「下見に行くと、昼も自宅ではなく外食になってしまうので、その分、お金が掛かります。実はまだ社員には話してないんです。その前に取材で話してしまいました(笑)。次回の会議で発表する予定です」

安定経営を実現するために、先々を見据えた策を思案

YZF-R25がカラーリング違いで3台。選択肢の多さがユーザーを刺激
YZF-R25がカラーリング違いで3台。選択肢の多さがユーザーを刺激

労働時間も、時代に合わせ短くしているという。始業は10時。以前は終業時間が20時の時もあったというが、それが18時30分になり、いまは18時。残業は極力やらせない方針だ。日曜、祭日は17時30分が終業となる。オンとオフでメリハリができ、家族やプライベートの時間も充実するようになったため、スタッフからはかなり好評だという。こうした取り組みからか、スタッフの定着率は高い。

「まわりからは、二輪業界のなかでは、待遇はいいほうだね、と言われます。お話ししたように、私はサラリーマンの経験があるから、従業員の気持ちが分かるんです。特に所帯持ちの社員については、年齢相応の生活が送れるようにはしてあげたい。奥さんに『休みもなく、夜遅っそうまで働いて、あんたどれだけもらいよるん?』って言われるような環境じゃ、厳しいですよね」

1人が辞めたら1人募集し育てる。そしてまた辞めたら同じことを繰り返す・・・・。そんな状況では、社員1人を一人前に育て上げるには、かなりの時間を要する。河相社長もかつてはそれで苦労してきたが、給与体系、労働環境を徐々に改善してきたことで、定着率はさらに高まった。いまいる社員の平均勤続年数は17・8年。かつて、定着率がいまほど高くなかった頃に比べると、実に8年も向上しているのだ。

安定経営を実現するための背景には、先々を見据えたいくつかの策があった。その一つは8年前に始めた不動産業。テナント物件を購入し、それを貸し出すことで家賃収入を得ているのだ。これは、あくまでも本業である二輪販売業を支えることを目的としたもの。現在も継続している。他にもレンタカー会社やピザショップを経営していたこともあるというが、現在は閉店している。

「いまはコロナの影響もあり、二輪業界は大きく変わりましたが、それまでは右肩下がりの推移が続いてました。そうした状況を見据えて始めたものです。私自身、投資が好きだと言うこともあり、複数の物件を売買したこともありますが、すべては二輪のためなのです」

色々勉強して様々なことにチャレンジするのが好きだという河相社長。場所の選定や地主との交渉、テナントをどうするか、など、様々なことを考えながらビジネス展開するのが楽しくて仕方がない、と語る。でも、本人も明言するように、それらはすべてYSP福山のため。複数のビジネスをパラレルで展開してきたが、いつも中心には二輪ビジネスがあった。

二輪業界を取り巻く環境は目まぐるしく変化しているが、河相社長には、その状況に適応し、よりベストな方向に進むだけの経験値とアイデア、そしてノウハウが備わっている。言葉にこそ出さないが、そうした状況を、むしろ楽しんでいるようにも感じられた。柔和な眼差しからはおよそ想像できないが、そこが河相社長の凄さなのだ。



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