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【トップインタビュー】ヤマハ発動機販売株式会社 松岡 大司 代表取締役

公開日: 2023/05/30

更新日: 2023/06/08

石井前社長からバトンを受け、この4月にヤマハ発動機販売のトップに就任した松岡大司社長。ヤマハ発動機に入社以来、海外勤務が長く、キャリアの半分以上を海外で送った。その経験を、どのようにフィードバックするのか、今後のかじ取りについて話を聞いた。

専門店への志向が、かつてなく高まっていると感じています

<center>トップとして迎える、初めての東京モーターサイクルショー</center>
トップとして迎える、初めての東京モーターサイクルショー

――― 社長就任から約1か月です。何をどのように進めていくか、色々とお考えのことと思います。

松岡
 ヤマハには『感動創造企業』という企業目的があります。ヤマハらしい製品で、お客様の生活を楽しく豊かにすることを標榜しています。では、ヤマハらしさとは何か。その代表格としては、ハンドリング性能が挙げられますが、もう少し大きく捉えると、休日を楽しく過ごすとか、移動においても喜びを感じるとか、そういうところを重視しています。「感動」については、常に新鮮な感動を新たに生み出していきたいので、お客様とのつながりを重視していきます。コロナ禍以降は人とのつながりやリアルの部分がより重視されるようになりました。一方で、デジタル面も非常に進化しています。リアルとデジタルのバランスを取りながら、お客様とのつながりを大切にしたいと思います。

――― リアルとデジタルの具体例を教えて下さい。

松岡
 リアルについてはすごく分かりやすくて、コロナ禍が少しずつ終息に向かい始めたなかで、ヤマハライダースカフェに代表されるイベントの開催回数を増やし、ヤマハライディングアカデミー(初心者向けライディングレッスン)なども、さらにスピード感をもって展開する。ここがリアルの部分です。デジタルについては、My YAMAHA Motor Webというヤマハファン向けのポータルサイトがあるのですが、それをさらに活用して情報発信の強化を図り、お客様との接点を増やしていきます。

――― イベント関連の話は、後ほど詳しくお聞きしたいのですが、その前に松岡社長の経歴について教えて下さい。海外でのキャリアが長かったと伺っています。

松岡
 ベトナムとインド、そしてブラジルです。どの国にも5年ほど滞在しました

――― 印象深かった国はどこでしょうか。

松岡
 どの国にも個性的な二輪文化がありました。大いに勉強になったし刺激的でもありました。特にインドでは、ヤマハブランドの認知度はまだ低く、シェアもひと桁台でした。地場メーカーが強いんです。ちょっと特殊なマーケットなのですが、ヤマハブランドの認知をいかに高めていくか、について考え、草の根的な活動を地道に展開しました。この経験が、いまの私のベースになっています。

約半数が公道デビュー前のサポートを要望

<center>ブラジル赴任時、TTR230でオフロードYRAを行った時の集合写真。左から6人目が松岡社長</center>
ブラジル赴任時、TTR230でオフロードYRAを行った時の集合写真。左から6人目が松岡社長

――― YSPを中核とした、ヤマハの販売チャネルと店舗数、今後の重点施策などについて教えて下さい。

松岡
 まずYSPですが、店舗数は74店舗(2023年4月末日現在)あります。これを100店舗にまで拡大する計画です。具体的な時期については明確にはできませんが、数年以内には達成したいと考えています。現在、バイクを楽しむ若い人達が増えてきていますが、最近の傾向として、彼らを含め全体的に安全志向が高まっています。そうしたことから、サービス品質の向上を重視しています。お客様の、専門店への志向が、かつてなく高まっているのです。ヤマハ車をすべてラインアップし、高水準なサービスでお客様をケアする。そんなヤマハのトップチャネルがYSPです。そこをしっかりと推し進めていきたいと考えています。アドバンスディーラーは併売店ですが、店舗数は49店(2023年4月末日現在)となります。

――― 専門店へのニーズの高まりとともに求められるのは何でしょうか。

松岡
 今年の要件として始めるのが、「YSPライディングサポート」です。これは、「ヤマハライディングアカデミー(YRA)」というライディングレッスンとはまた異なり、YSPでの納車時に乗り方のアドバイスをするというサービスです。これをYSP全店で要件化します。初めて免許を取り、初めてバイクを購入したお客様にとって、公道走行は未知の経験。かなりハードルが高く、大きな不安があると思うのです。YSPライディングサポートは、それを払拭するのが最大の目的です。実際、若いお客様にアンケートを取ったのですが、「どういうサービスがあったら嬉しいですか?」という質問に対して、約半数の方が、「お店から公道に出る前に、ちょっとしたサポートをしてもらえると嬉しい」と回答しています。こうした要望にしっかりと応えよう、ということから開始しました。

――― YSPであれば、どこでも同一のサービスが受けられるというわけですね。スタートはいつ。

松岡
 今年からです。これまでにヤマハがYRAを通じて蓄積してきたノウハウがあるので、それをベースに展開しています。いま、お客様から好評なサービスの一つに「YSPゲット!ライセンス」というものがあります。免許取得前に、サイトからご購入を予定しているYSPを選びエントリーしていただき、免許取得後にヤマハの新車(126cc以上)を購入された方にもれなく、免許取得費用の一部として2万円をサポートするというものですが、その流れの一環として、買っていただいたバイクの納車時に、希望者に対して店頭で乗り方のアドバイスを行います。YSPのスタッフはYRAのノウハウを基にした講習を受け、購入者にアドバイスができる体制を整えています。スタートからまだ間もないですが、すでに数百名の方に受講していただいています。

――― “公道デビュー”のためのハードルを下げるわけですね。

松岡
 はい。高額なオートバイを買っていただいたお客様から、『納車直後に立ちゴケしちゃった』や『バイクは難しいから、もう乗りたくない』と言われることもあります。こういう状況を招くのが我々にとっては一番残念なこと。安全に楽しく、そして少しでも長く乗っていただくための第一歩なのです。

ユーザーの求める“安心”は商品知識とサービス全体の品質

<center>ブラジルで次期商品デザインに関する現調を実施した時のメンバーと</center>
ブラジルで次期商品デザインに関する現調を実施した時のメンバーと

――― 2022の※販売実績および対前年比について教えて下さい。

松岡
 合計では9万9068台です。原付一種は5万8407台、原付二種が1万7329台、軽二輪が1万2813台、小型二輪は1万0519台という内訳です。対前年でいくと、原付一種を除いて全部前年割れをしました。昨年、半導体部品の供給悪化を受けて、生産に大きく影響が出たのが主な要因です。前年比だけで言うと、小型二輪はSR400のファイナルモデルがリリースされましたが、それを売り切った影響が出ています。さらにMT-03とYZF-R3はインドネシアで生産しているのですが、そこでの生産遅延は大きなダメージでした。軽二輪も対前年比では、かなり厳しい数字にはなるのですが、ここはセローのファイナルモデルの反動減に加え、インドネシア製のYZF-R25やMT-25、NMAXの生産遅延が影響しています。原付二種については、台湾生産のスクーターの部品確保が厳しかったことが要因です。

※原付一種・二種=出荷実績 軽二輪・小型二輪=登録実績

――― ロングセラーモデルのディスコンについては、残念がる声が多数ありました。再販の可能性は。

松岡
 再販はさすがにありませんが、SRにしてもセローにしてもヤマハを代表するモデルだったので、それに代わる機種開発は準備しています。

――― 2023年の販売計画は。

松岡
 計画については、数字の公開はしておりませんが、半導体部品の供給そのものは改善傾向にあるので、挽回に努めているところです。ただ、まだ一部において半導体の影響、制約が残っているので、その辺りの状況は常に注視しています。1台でも多く、早くお届けできるよう努力しているところです。

――― コロナは大きな転換期になったと思います。

松岡
 ポジティブな要素としては、やはり二輪車の利便性や、有用性が見直された点ですね。公共交通機関がなかなか使いづらい環境の中で、三密回避や青空需要、巣ごもり需要という言葉が流行しましたが、二輪業界は青空需要ですよね。屋外なので密を回避できるところが大きかった。その結果、50代の免許取得者数が大幅に増えました。若い方については、それ以前から増加傾向にありましたので、ポジティブな傾向といえます。一方、ネガティブな面では、我々が得意とするイベントの開催がままならず、また、先ほどもお話しした供給の不安定さなどもあります。いまは回復局面に入っているので、これからが正念場であり真価が問われると思います。

――― ユーザーの考え方も大きく変わったのでは。

松岡
 そう思います。従来は、あえて素直に言うと、価格重視の考えがお店選びの大きな要素の一つでした。でもいまは、「安心」できる店で買いたい、に変わりつつある。では、その安心って何なの? と考えると、商品に対する知識はもちろん、サービス全体の品質ですよね。そうした理由から、先ほどもお話ししましたが、専門店への志向がさらに強まっていると感じています。お客様から学んだことをいかに高品質なサービスとして提供できるかが重要なのです。

ヤマハバイクレンタルの稼働率は10~20%台数ベースでは1万8000台

<center>東京モーターサイクルショーの特別公開日に行われたプレスカンファレンスで報道陣を前にスピーチ</center>
東京モーターサイクルショーの特別公開日に行われたプレスカンファレンスで報道陣を前にスピーチ

――― バイクレンタルの稼働状況はどうでしょう。

松岡
 サービス開始当初と比べて活用の仕方が随分と変わってきています。いままでは、駐輪スペースを確保できないお客様がレンタルするケースが多かったのですが、最近はバイクを買うなら、事前に乗って確認し、自分に合った1台を選びたいというニーズが増えている。ヤマハの場合、レンタル需要全体の3割は、その目的で活用いただいています。コロナ禍で収入が減少した方もいらっしゃいます。お金に対して、よりシビアになったところもあるのではないでしょうか。

――― どのメーカーでも同様の傾向にあるようですね。

松岡
 お客様に聞くと、試乗を申し込むこと自体、敷居が高いようなのです。買わされるんじゃないか、と思う方も少なくはないようです。さらには、十数分ほど乗っただけでどこまで分かるのか、という難しさもある。なので、お金を払いレンタルして、しっかりと見極めるという判断のお役に立てるようになった。これは大きいと思います。

――― 平均的にどの程度の需要があるのでしょうか。

松岡
 稼働日が240日あったとした場合の稼働率は10%ほどです。車種によって違いがあり、YZF-R7とXSR900は倍の20%ほどになります。稼働率はどんどん高まってきていますね。お客様からは様々な車種に乗りたいとの声をいただいていますが、現在は車両特性を考えたうえでラインアップしています。総台数では、この3月で1万8000件を少し超えた感じですね。レンタルは、地域によって車種に対するニーズが違うので、今後は地域特性を考慮し、料金体系も含め最適化を図っていきたいと考えています。

――― 先ほど「ヤマハライダースカフェ」の話がありましたが、どのようなイベントなのでしょうか。また、今年の開催計画は。

松岡
 バイクに乗るキッカケ作りのために始めたイベントで、ツーリングの途中に立ち寄り、ひと息つけるような場を提供しています。昨年は10回開催しましたが、今年は20回(調整中の三重と沖縄含む)開催する計画です。昨年は想定を大きく上回る方に来ていただいたため大混雑しご迷惑をかけてしまいました。開催回数を20回にしたのは、そのためです。5月13日の淡路島からスタートし、全国各地で開催します。

――― ヤマハファンを対象としたポータルサイト「My YAMAHA Motor Web」も好調のようですね。

松岡
 おかげさまで登録者は約3万人を超えました。今までは、給油やメンテナンス履歴の記録が主な機能でしたが、昨年からはロイヤルティプログラムを導入しました。ライダースカフェや全日本のレースといった各イベントでチェックインし、スタンプを貯めることで、様々な特典が受けられます。このポイントがメンバーのベネフィットになるというわけです。

――― 登録者は約3万人とのことですが、この数字をどう見る。

松岡
 3万人といっても、全員がアクティブかどうかは分かりません。常に鮮度を保たなければならないので、イベントでデータやコンテンツをアップデートする活動を継続していく感じです。常にお客様の求めるモノの1歩先を進んでいかないとダメですからね。

――― EVを始めとする次世代モビリティの展開については、どのようにお考えですか。

松岡
 グローバルで言うと、2035年に販売台数の20%という数字は公表しています。ただ、ヨーロッパでも、EV一本でいくと言っていたのが、急に変わり、eフューエルも含めることになりましたよね。このようにエネルギー政策は流動的なので、EVへのシフトというトレンド自体は変わらなくても、バッテリーEV一択でいいのか、という疑問はあります。水素やFCV(燃料電池自動車)、eフューエルなど当面は多様な選択肢の中で進めるべきではないかと思います。これは二輪業界全体の総意ではないでしょうか。

――― では最後に、今後、市場はどう動くと思いますか。

松岡
 モーターサイクルショーで125ccと155ccのモーターサイクルを市販予定車として展示したのですが、市況トレンドとしては、原付一種はこの先も減少するでしょう。数字にも表れているし、このトレンドは変わらないと思います。一方で、先ほどもお話ししましたが、若いお客様は確実に増えています。弊社のイベントでもそうですが、増加を肌で感じています。原付二種以上は安定推移が期待できるので、若年層にしっかりとアプローチし、その先のステップアップも視野に、ヤマハ車を乗り継いでいただける、長く楽しんでいただけるような政策と製品供給を行っていきます。



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