公開日: 2023/07/11
更新日: 2023/07/13
いわゆるコロナバブルは2021年がピークだったという見方が支配的だが、それはある一定のポイントから過去を振り返ってはじめて分かること。2022年後半、コロナ感染が収束し始めたあたりから軌を一にして二輪需要にも陰りが見え始めた。2023年上期はどのように動いたのか。販売店経営者に話を聞いた。
◆販売店A(新車販売/東京都)
「2023年は前年同期比(1~6月)で台数、売上ともに2~3割ほど伸びています。昨年前半は半導体不足の影響で半年待ちとかが普通にありましたけど、いまは1~2か月待ちでアナウンスできるようになりました。原付や軽二輪クラスについては、コロナ以前の80~90%ほどに回復してきています。昨年までは納期に時間がかかるため、来店しても買わずに帰る人が多かったけれど、いまは高確率で成約となります」
現在のところ、新車に関する購入意欲は衰えてないのではないか、というのが同店の感触。PCX、リード125、レブル、CRF250あたりの需要は変わらず好調で、他店からは業販の問い合わせも多いという。
最近の傾向としてVストローム人気を挙げる。キャンプに行くための手段として選ばれるのだという。コロナ以前は「キャンプの『キャ』の字もなかった」というが、バイクを足としたキャンプ人気は今後も一定の需要があるものと見ている。問題は小型二輪クラスの供給状況。スクーターやビジネスは戻ってきたが、小型二輪クラスは、供給量がコロナ前の6割程度にとどまっているという。
「スズキで言うとSV650やGSX-S1000あたりです。入荷状況がかつての水準に戻るには、あと1年はかかると思います。その後の需要見通しとしては、当面、極端に上がることも下がることもなく横ばい推移が続くものと見ています」
◆販売店B(中古車販売/群馬県)
「今年に入ってから中古車の動きが徐々に弱まってきたという話をよく聞きますが、ウチはあまり影響を受けていません。その理由は、ラインアップの一部を特定車両に特化した販売に切り替えたからです。車種はTWとJOG。TWは常に3~4台はストックしています」
なぜ、この2車種なのか。TWについては、今から二十数年前、キムタクがドラマで乗り人気となったが、最近、TV番組で取り上げられたことから再び注目を集めているのだという。こうした理由から、問い合わせが急増。今では車両を展示したそばから売れるのだという。
「TWは高回転までまわして乗るようなバイクではないので、エンジンの持ちが良く、そう簡単には壊れないんです」
TWを求めるユーザーの中には年配者もいるという。最近、購入を決めたのは、かつて同店でドラッグスター1100を買ったユーザー。再びバイクに乗りたくなり来店した。65歳になったため、もっと軽くて乗り易いバイクにしよう、と考えTWをチョイスしたのだ。ヘッドライトやハンドルを変更し、エンジンは黒に塗装している。
同店ではリターンライダーに対しては、決して大排気量車を薦めない。その理由は、年齢と共に体力も動体視力も低下するからだ。
一方のJOGはどうか。同店が狙うのはSA36J。このモデルに絞る理由は、他の機種に比べエンジンの耐久性が高いと分析しているからだ。通勤や通学に適していて価格的に手ごろなため、ユーザーからの引きも強いという。
TWやJOG以外で人気が高いのは、カブのカスタムモデル。コロナ以前から人気は高いが、最近はYouTubeの影響が顕著だという。
「タレントのヒロミさんがカブを164ccにボアアップしているのですが、それと全く同じに仕上げて欲しい、というオーダーが増えました。カブのベースはカスタム。四角いヘッドライトが人気の要因です。これに乗ってキャンプに行く、という人も増えていますね。下期もこの路線でいきます」
◆販売店C(中古車販売/千葉県)
「例年、メンテナンスのため、年末になると、10件ほど車両の持ち込みがあるのですが、昨年末はゼロ。今年に持ち越しとなりました。1月以降は徐々に依頼が入り始めたのですが、パーツ交換については、例えばタイヤにしても、とりあえずリヤだけ、みたいな感じです。修理も先延ばしだし、代替えにも二の足を踏む。パターンとしては「壊れる前に直す」「壊れたら直す」「壊れたら考える」に分類されますが、3つ目が急増しています」
最近、増えたのがオイル交換の料金確認。方々に電話を掛け、一番安いところに依頼しようという考えのようだ。ユーザーの消費行動がここまでタイトになってしまった理由は、やはり物価の上昇が最大要因だと指摘する。
目下の懸念は、コロナ禍でバイクに乗り始めたユーザーが降りてしまうこと。同店では大型バイクに乗る人に見られる傾向だという。
「こうした方々がいままでバイクに乗らなかったのは、危険、転倒する、雨に濡れる、といったマイナス要素を感じていたからでしょう。でも、コロナ禍で『三密回避』という大義名分があり乗り始めた。そのため、バイクで何をしたいのか、どこに行きたいのか、という思いはあまりなく、単に乗ってみたい、という興味本位な要素が強いのです。こんなケースがありました。そのお客さんは、距離は走っているのですが、技術の上達が遅い。クラッチが疲れるというのですが、見ると全切りしているんです。ツーリングに行っても、自分だけ疲労が激しい。恥ずかしさを感じてか、それ以降、来店しなくなり、結局、バイクを降りてしまいました。こうした状況を防ぐため、コロナ禍で初めて免許を取得した“初心者ライダー”に対しては、ショートツーリングから慣れてもらうようにしています。下期も当面は、販売実績が上向くことは考えにくいので、既存客の離脱を防ぐことに目を向けています」
◆販売店D(中古車販売/埼玉県)
「ウチは中古スクーターが主力ですが、販売台数は昨年末から横ばい状態が続いてます。3月の需要期には上向くだろうと思っていましたけど、一向に変化はありませんでした。コロナ以前の状態に戻り、そのまま横ばいで推移している感じです。間違いなくフェーズは変わりました。最大の理由は物価高騰の大合唱ですね。東電の値上げや少子高齢化に起因する税金アップなどです。完全に節約モードに突入してしまいましたね。これからは、この状態が普通であると考えないとダメなのだと思います。余談ですが、こんな統計があります。買い物をする際、年収700万を境に値札を見る人と見ない人に分かれるそうです。景気は回復に向かっているとはいいますが、所得の増加が物価上昇分の支出を上回らない限りは、景気回復を実感できないでしょうね」
コロナ以前と異なるのは、俗にいう「修理難民」の数。ボロボロの車両をネットで購入し、それを持ち込む人は、一向に跡を絶たない。違法改造ではないが、中途半端なカスタムや派手なペイントなど、ディーラーには持ち込みにくいバイクを持ってくるユーザーが増加したという。生活を見直しているユーザーが確実に増えているのが実態のようだ。
最近のユーザーはバイクを買うにあたり、指名買いは一切なく予算に見合ったバイクを買う、という傾向が強い。
「ウチで最も売れる価格帯は15~16万円なので、その辺りの車両をできるだけ多く揃える。これが下期に向けた対応です」
◆販売店E(新車・中古車併売/東京都)
「コロナが第5類に移行したことで、行動制限がなくなり旅行や飲食が自由に行えるようになったことから、お金の使い道が広がりました。その結果、バイクにまわすお金が減りつつあるように感じています。バイクへの想いが薄れ、何でも先送りにしている、そんな感じです」
4月から5月にかけては3月までの台数から半減。売れる車両は新型のエリミネーターに偏っており、従来モデルにはほとんど声が掛からず、過去最高の在庫台数となったという。これは中古車も同様。一時期、週末に悪天候が続いたことも影響しているのでは、と分析する。
状況が一変したのは6月に入ってから。天気のいい週末にはユーザーが来店を待ちわびていたかのように増えた。また、免許取りたての人がバイクをレンタルするケースも増加している。練習目的なのか、欲しいモデルを試すためなのかは不明だという。
「バイクの楽しみ方が変わった感じはしませんが、天候によって、ここまで状況が変わるのか、とあらためて実感しています」
悪天候が来店の阻害要因であることは間違いないが、そうなると4~5月の落ち込みは説明がつかなくなる。ユーザーもバイクにお金を掛けるべきかどうか、逡巡していることが考えられるだろう。
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