公開日: 2023/07/31
更新日: 2023/12/14
例えば四輪ディーラー。入店し席に案内されると、必ず飲み物が提供される。日本の場合、商談を必要とする小売店に行くと、たいがい飲み物が出てくる。ごく普通の光景なので、特段、驚くようなことはないが、なかには店の一角にちょっとしたドリンクバー風のカフェスペースを設置している店もある。こうした店は、バイクショップにも見られる。経営者のこだわりが強く感じられるところだが、メリットはあるのだろうか。今回は、「効果はかなり大きい」と言うバイクショップA店に話を聞いた。
A店では店内に「COSTA COFFEE」の専用マシンを設置し、いつでも自由に好きなだけ飲めるようにしている。コーヒーが苦手な人にも配慮し紅茶やペットボトル飲料、瓶入りコカコーラなども用意している。元々は整備待ちの間の休憩スペースとして、あるいは同店が展開するバイクレンタルの出発前と到着後のくつろぎスペースとしての利用を想定し設置したという。中には車両の整備が終わっても、すぐには帰らず暫くカフェスペースでくつろいでいる人も少なくはない。これは居心地が良いからに他ならないだろう。
結果的には想定通りに活用されているようだが、A店にはもう一つ大きな狙いがあった。ユーザーからの情報収集だ。
「週末にカフェスペースでくつろいでいるお客さんと雑談する機会を大幅に増やしたんです。お客さんは既存客、新規客、レンタル利用者の3つに分かれるので、様々な情報が得られる。その結果、想像以上にお客さんのニーズが多岐にわたっていることが分かったのです」(A店経営者)
そこでは意外な発見があったという。店に遊びに行きたいと思っているユーザーは、店側が思っている以上に多い、ということだ。にも拘らず、店に行くことに二の足を踏む人は少なくない。「用事がないと行きづらい」と思っていることが、二の足を踏む理由だ。カフェスペースは、こうした、ユーザーの“来店ハードル”を少しでも下げるための一翼を担っているのだ。フラッと気軽に立ち寄れる雰囲気づくりを重視し、店とユーザーだけではなく、ユーザー同士のコミュニケーション促進の場としても活用されている。
例えば整備待ちの間、パソコンを取り出し作業をしているのは、ごく普通の光景。街カフェと変わらない感じで利用されているのだ。さながら同店のユーザー専用のクラブハウスといったところだろう。
ここで、一般的なユーザーの行動に関する一つの側面を見てみよう。例えば週末の大型用品店。多くのライダーが開店と同時に集まってくる。四輪の大型用品店とは異なり、1人で来店する人よりも仲間同士で集まるケースも多く、数時間、店に滞在する人も決して少なくはない。こうした状況について同氏は、「毎週ツーリングに行く人は少ないけど毎週バイクに乗りたいという人は多い」と分析する。つまりカフェスペースを設置することで、そこを経由地あるいは目的地として考えてもらうことも想定できるのだ。
来店ユーザーに快適な環境を提供することで、ユーザーに喜ばれるのは十分に理解できるが、ポイントはこうした環境を整備することが販売需要、整備需要の増加にどの程度、寄与するのか、ということだ。
「初来店のお客さん、バイクレンタルのお客さんには、まずメーカー自体のファンになってもらうところから始めます。ウチに来店し“コーヒーを飲む”回数が増えるにつれ、ウチの顧客として定着していただけるようになります。実際、他店でのメンテナンスをウチに変更したり、あるいは車両の入れ替えを行うケースなど、数字として表れているのです」
ちなみに、COSTAのランニングコストは季節にもよるが5~10万円。COSTAでなくても、コーヒーメーカーを購入する方法もある。価格は幅広く2万円前後のモノもあれば、数十万円の製品もある。コーヒーの美味しさと手軽さだけなら、ポーションで淹れるコーヒーマシンもある。これなら1万円ほどでも手に入る。
カフェスペース設置はホスピタリティの向上、新規客獲得、定着のためのサービスである。今回はたまたま“飲み物”をテーマとしたが、これ以外にもアイデアはある。問題は、それをどこから仕入れるか、だが、同店では他の様々なサービスを見て回り、取り入れられるモノは取り入れている。いま、最も注目しているのはレクサスのサービス。さすがにハードルが高すぎて、すべてをマネすることはできないようだが、取り入れられるものもある。「やってみないと分からない。トライ&エラーの繰り返しです」とさらり。この姿勢が結果につながるのだろう。
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