公開日: 2021/10/27
更新日: 2022/09/21
東京都足立区にあるBPower's(株式会社にいほエージェンシー/以下、ビーパワーズ)の新保幸夫社長のキャリアは少し変わっている。バイクショップを経営するにあたり、親がオーナーで店を継ぐ、あるいはバイクショップで経験を積んでから独立というのが一般的な経緯だと思うが、新保社長は家業を継いだわけでもなく、またバイクショップで働いた経験もない状態で、2001年にバイクの買取・販売業を21歳という若さでスタートしたのだ。
「人に雇われるのが嫌で、自分で商売を始めました。都内に小さな倉庫を借りて、そこでバイクを買取り、修理するところは修理し、販売していました。その頃は、現在では大手と呼ばれる買取業者さんがビジネスを展開し始めた頃でしたので、商材としてのバイクに、大きな魅力を感じていました」
当時は買取業者が多くなかったこともあり、ホームページを作って宣伝したところ、予想以上の反響があったという。
「スタートした時は個人でしたが、2009年に法人化し、にいほエージェンシーを設立。小売店のビーパワーズもオープンさせました。先ほどもお話ししたように、買取業者さんの数が今より少なく、ネットで『バイク買取』などで検索するとウチが上位でヒットしていたので、買取や処分の依頼が次々と舞い込みました。スタートして間もなく、年間1500〜1600台は買い取っていたと思います。でも、すべて販売にまわしていたわけではありません。オークション利用はもちろん、貿易会社とも取引しているので、そちらに販売することも多々ありました」
にいほエージェンシーを法人化した2009年というと、リーマンショックで世界的な金融危機が起きた頃。また、その2年後の2011年には、東日本大震災が発生。日本が大混乱に陥った時代だったがその影響はなかったのだろうか。
「ウチは規模が小さかったからか、大きな影響はなかったですね。むしろ2011年は、買取のピークという感じで、年間1800台ほど買い取っていました。そこから徐々に買取台数は減少傾向にあり、今は年間500〜600台ほどになっています」
買取の減少に伴い増えたのがオークションからの仕入れ。
「ウチは今、ここの店と埼玉県にある川口店の2店舗ありますが、2店舗合わせて年間800台以上は、オークションから仕入れていると思います」
ビーパワーズはオープン当初、原付一種や原付二種のスクーターを主力として扱っていた。
「スクーターや二種を専門的に扱っている店が、そんなに多くなかったんです。他社と同じ土俵で戦っていても差別化はできませんから、ほかではやっていないサービスを提供したいと考え、それらを主力商品として扱っていました」
今年、店舗を現在の場所に移転したが、その際に扱う排気量を拡大したという。
「店舗面積が以前の4倍になったんです。以前は置きたくても置けないこともあった。でも、今は置けるようになったので、軽二輪以上のバイクも取り揃えています」
店舗面積とは別の要因もある。それは、コロナ禍だ。
「コロナ禍でバイクに注目が集まっているというのは、報道などでよく見聞きしますよね。今までは『通勤通学の足として利用する人』が多かったのですが、今は『通勤通学だけではなく趣味としても楽しみたい人』が増えています。そのような需要が増加していることから、原付二種以上のバイクも在庫し始めました。趣味としてバイクを楽しみたいというお客さんからよく聞くのは『キャンプツーリングがしたい』という声ですね。『キャンプに行きたいからバイクが欲しい』というお客さんの来店が、本当に増えました」
現在、ビーパワーズの在庫車は70台ほど。新保社長はもっと増やしたいと考えているというのだが、なかなか増やせないのもコロナ禍の影響だ。
「整備して置いたそばから売れていくという感じなので、整備が間に合わないんです。本来であれば、150台ぐらいは置いておきたいんですけど、ビーパワーズの強みは、即納できるバイクを置いていること。買取やオークションで仕入れた車両は、すぐに在庫として店に並べるわけではありません。いつでもお客さんにお渡しできる状態に整備してから展示します。だから、仕入れてから店に並ぶまでに時間がかかるのです。コロナ禍でバイクを求める人は確かに増えました。販売台数もコロナ前と比べて1・3〜1・4倍ほどになっているので、並べても、すぐに売れていく。商品の回転が速く、売り上げも上がっているのは嬉しいのですが、なかなか展示車両が増えないのが悩みの種です」
原付一種や原付二種を探している足立区在住のお客さんであれば、平日の午前中に成約した場合、早ければ夕方には納車できる。その『即納』がビーパワーズの大きな訴求ポイントなのだが、意外にも新保社長の本音としては、そこに強いこだわりはないという。それでもなお、即納できる車両を在庫し続けるには、理由があった。
「私は会社全体を見る立場。店の方針は各店舗の店長に任せているんです。そこには、口を挟みません」
そこで、ビーパワーズ店長の中川龍之介さんに『即納』へのこだわりを聞いた。
「ビーパワーズは移転をしているものの、10年以上続いている店。当店で購入されたお客さんは、『ここでバイクを買えばすぐに乗れるから買いに来た』という人が少なくありません。また、そういうお客さんからの口コミで買いに来られる方もいます。『即納』だから集客できている部分はそれなりに大きいと感じていますので、そのこだわりは持ち続けたいですね」
これと正反対なのが川口の店舗。同店では車両を仕入れたらただちに写真を撮影し、ネットや雑誌等に掲載。撮影後には、店にも在庫車両として並べる。その違いについて、新保社長は以下のように話す。
「仕入れてすぐに並べられるので、ボリューム感が出る。お客さんは数ある車両の中から選ぶことができます。その反面、納車までには時間を頂いています。二輪販売店を何店舗も持つような大きな会社でしたら、システム作りをして、マニュアルに落とし込むと思います。その方法だと誰がやっても成功しやすいでしょうけど、各店舗の特徴が同じになってしまう。良い時はすごく良いんでしょうけど、悪くなった時に全部がダメになる。それが嫌なので、ウチではそれぞれの店長の考えで店舗を運営しています」
新保社長に今後の展開について聞いた。
「店舗を増やしていきたいですね。ただ、いつまでに何店舗増やすなど、具体的には決めていません。まずは、人を育てることが先決。ウチでは、求人の際、バイクショップでの経験の有無は問いません。私もそうですが、ビーパワーズ店長の中川もバイク業界未経験でした。『やったことがないから、分からない』は、どこの業界でも通用しないと思うんです。中川を面接した時にも、そう伝えました。分からなければ、まずは自分で調べてみる。そういうことのできない人間には進歩はないと感じています」
この話を聞いていた中川店長が自身の失敗談を話してくれた。
「私自身、バイクショップで働いた経験がなかったので、右も左も分からない状態で入社しました。初めてお客さんのバイクの車検を通した時も、手続きをどうやればいいかも全然分からない。でも、お客さんの都合上、その日のうちに手続きを済ませなければならない。そこで、社長に『どうすればいいんでしょうか?』と電話したところ、『今、目の前にいる人が一番詳しいのだろうから、その人に聞きながら進めなさい』と言われ、電話を切られました。その時の私は、初めてのことで舞い上がっていましたので、何度も社長にかけ直していたのですが、最終的には電源を切られました(笑)。その瞬間、これは自分で解決するしかないんだ、と逆に冷静になれたんです。『自力で何とかする』というスイッチが入ったのだと思います。あの時、社長に手順を教えられていたら、誰かにすぐ頼るような人間になっていたかもしれません。社長にはいまでも感謝しています」
これを横で聞いていた新保社長は苦笑いしながら、こう話す。
「実は私も分からなかったから、こっちも必死(笑)。でも、こうやってお互いに成長していければと思っています。今後は海外留学生も採用してみたいですね。今は認証工場になっていますので、そういう人を入れてもいいのかな、と。店舗を増やそうにも、まずは人を育てないとどうにもなりませんから」
さらにレンタルバイク事業にも興味を示す。
「レンタルバイクを始めるにあたって、用意しなければいけないものなどは調べてあり、やろうと思った時にいつでもスタートが切れるようにしています」
ビーパワーズではSNSに力を入れているが、それもアフターコロナやウィズコロナを見据えていろいろと計画中だという。
「SNSは、YouTubeやTikTok、インスタやツイッターなど一通りやっています。今、TikTokのフォロワー数は約4万人いるので、若い人などは、『ティックトックを見て来ました』という人も増えてきています。来店されるお客さんの1〜2割は、SNS経由で来られる人ですね。YouTubeでは中川がBDSの『オートバイ神社』に行った時の動画など、また、TikTokをメインに他のSNSでも「レストア倶楽部」と題して1円販売企画を行うなど、見ている人に楽しんでいただけるようにしています。そのほか、コロナが落ち着いたら、こんなことをしたい、これもやりたいなど、企画をあたためています」
これらは単に、バイクを売る、という視点だけでやっているのではない。
「お客さんの来るバイクショップであること、それが全ての原点だと思っています。人が来れば、販売、修理、メンテナンス、車検につながりますし、そういう活気のある店で働きたいという人も出てくるでしょう。そして、お客さんが来て売れているからこそ、人も雇える。どうやったら『お客さんの呼べる店づくり』ができるのか、それをこれからも追求し、思いついたことは実践していきたいですね」
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