公開日: 2022/10/26
更新日: 2022/10/31
現在、日本企業の海外製造拠点を再び国内に戻す「国内回帰」の動きが徐々に加速し始めている。各企業はどんな理由から、国内回帰の選択に踏み切ったのだろうか。今回はこの動きの背景について見ていく。
日本の企業の多くは1980 年代後半より、円高による製造コスト削減や安い人件費を求め、製造拠点を中国やベトナムなどに移転してきた。その結果、雇用や税収の減少だけでなく、高品質を誇るメイドインジャパンの製造技術が海外に流出。日本の経済力が低下するのではないかと危惧され、“産業の空洞化〟という問題が取り上げられるようになった。
あれから数十年の時を経たいま、状況は一変しつつある。この背景には主に3つの理由がある。1つ目はコロナ禍による影響。中国・上海市のロックダウンにより、現地工場の製造がストップ。その結果、海外からの輸入が滞り、家電量販店では一部商品の入荷目途が立たず、多大な損失を被っている。
2つ目は人件費の高騰。中国では急速な経済成長や労働人口の減少、国内企業の台頭などにより、人件費が著しく上昇。同国で最低賃金が最も高い上海市では、10年前に比べ約2倍もアップしている。
3つ目は長期化する円安。輸送費は海外通貨で支払うため割高になっており、物流コストが上昇している。これらの要因が重なり、海外で製造することのメリットが失われつつあるのだ。
このような状況を受け、大手家電メーカー「アイリスオーヤマ」は、中国で製造している家電の一部商品を国内で製造するべく、約100 億円をかけて岡山県に工場を建設する予定であることを発表した。また、衣装ケースなどのプラスチック製収納用品約50種類の製造拠点を国内に移管することを決定。中国産から国産に切り替えることで、約2割のコスト削減が見込めるとし、今後は他の製品についても国内へシフトしていくことを検討するという。
他にも“TAKEO KIKUCHI”や“UNTITLED”など、複数のブランドを展開する総合ファッションアパレル企業「ワールド」は、3~5年を目途に、百貨店向けブランドの国内製造割合を半分以上に引き上げる方針を打ち出している。経済産業省は現在、国内に製造拠点等の整備を進めることにより、製品や原材料の円滑な供給を確保するなど、サプライチェーンの強化を図ることを目的に、工場の新設や設備の導入を支援している。補助対象企業は、7月1日に公開された3次公募時点で400 社を超えているため、国内回帰の動きが加速していることが分かる。
今日の世界情勢によって、海外依存のリスクが浮き彫りとなった日本産業。けれども、これをキッカケとして国内回帰が進むことで、日本の産業競争力の向上が期待され、高品質であることをアピールできる“メイドインジャパン”が選びやすくなったのも事実。日本のモノづくりはいま、変貌を遂げようとしている。
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