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【異業種特集】トーヨーベンディング株式会社

公開日: 2023/07/07

更新日: 2023/07/07

経済に多大な影響を与えたコロナ禍。ミル挽き珈琲の自販機『アドマイヤ』を高速道路や病院などで展開するトーヨーベンディング株式会社も、苦境に立たされた企業の一つ。だが、そのピンチの中、ECやSNSなどのほか、新しい取り組みに次々とチャレンジ。新たなファンやユーザーを獲得し、販売実績を伸ばすことに成功した。

EC、SNS、コラボに新演出… 新しい取り組みでコロナ禍のピンチをチャンスに変えたトーヨーベンディング

この赤いカップ、サービスエリアや病院などで見かけたことがあるだろう
この赤いカップ、サービスエリアや病院などで見かけたことがあるだろう

この曲が何か分かるだろうか。「タララ ララッタッタッタッタッタッタ ララララ~」。当然のことながら、全く分からないだろう。ではヒント。全国の主要なサービスエリアの自販機コーナーで聞こえてくる曲。これでピンとくる人もいるのではないか。そう、『コーヒールンバ』だ。誰の曲かは知らなくても、歌やメロディは誰もが一度は聞いたことがあるだろう。

ここまで読み進めると、もうお分かりだと思うが、この曲が聞こえてくるのは、特定の自販機。愛知県名古屋市に本社を構えるトーヨーベンディング株式会社(以下、トーヨーベンディング)が設置している『アドマイヤ』からである。

アドマイヤは、缶飲料やペットボトル飲料ではなく、ミル挽き珈琲を提供する自販機。お金を投入してボタンを押してからコーヒー豆を挽く。そしてお湯を注ぎ、蒸らしてドリップ。最後にコーヒーの入ったカップにキャップをして提供。これだけのことが自販機内で行われているので、どうしても時間がかかる。その待ち時間を飽きさせない、長く感じさせないための演出の一つが、「コーヒールンバを流すこと」なのだ。

今回はトーヨーベンディングの東京本部事務所(東京都墨田区)に伺い、ミル挽き珈琲を提供するに当たっての工夫やこだわりのほか、コロナ禍における影響や会社の変化について、事業統括本部・統括部長の増子裕次さんと広報室・副室長の神山真美さんに話を聞いた(取材は4月25日に行ったため、現在の新型コロナウイルス感染症への対応と違う場合があります)。

街から人が消えたコロナ禍の中新たなスタートを切ったトーヨーベンディング

左から、広報室・副室長 神山真美さん、事業統括本部・統括部長 増子裕次さん
左から、広報室・副室長 神山真美さん、事業統括本部・統括部長 増子裕次さん

――― まず、トーヨーベンディングという会社について教えてください。

神山
 自社ブランドのミル挽き珈琲自動販売機『アドマイヤ』を軸とした、自動販売機の開発、管理、運営を行っています。

増子 前身企業の創業は1971年。そこからだと50年以上の歴史がありますが、2021年9月に自動販売機部門を新会社に譲渡し現在に至ります。従業員もそのまま新会社へと移りました。

――― 2021年9月と言えば、コロナ禍の真っ只中。

増子
 そうですね。コロナ蔓延後に業績が下降し、2020年もその流れは止まらず、2021年に新しいスタートを切っています。

――― 2020年は、不要不急の外出を控えるなど、自粛モードが高まっていた時期でした。

増子
 当時は東京本部事務所が今の場所に移転する前で、最寄り駅が東京駅。人が途切れるということがなかった場所です。でも、コロナ禍の影響で周辺を歩いても、前にも後ろにも人がいないという時もありました。弊社の主軸製品であるアドマイヤは、高速道路、病院、オフィスビルのエントランスや休憩スペースなどが主な設置場所なので、厳しい状況でした。

――― つまりは、人がいる、人の動きがある場所ですね。

増子
 そうなんです。ところが、高速道路を利用して行楽地に向かう人はほぼいない。高速道路から人が消えたのは、売上の数字からも明らかでした。病院では、お見舞いはもちろん、病院に入ることさえ制限されることもありました。また、オフィスビルで働いていた人たちはリモートワークに切り替わりました。ただ、高速道路については、現在、400台以上、設置していますが、最近は稼働率も上がり、ほぼコロナ禍前の売上に戻っています。一方の病院はまだお見舞いが自由にできる状態にはなっていない(4月末日現在)し、オフィスビルにも人が完全には戻っていません。けれども、以前に比べたら明るい兆しが見えてきている。コロナ禍は弊社にとって大きな転換期になりましたが、それはマイナス面だけではないのです。

コーヒーの提供時間短縮のために味を犠牲にすることは考えられなかった

コロナ禍を機に、SNSに取り組み始め、多くのファンを獲得
コロナ禍を機に、SNSに取り組み始め、多くのファンを獲得

――― プラス面もあったということ。

神山
 コロナ禍でもできることはあるだろう、と考え、社内でアイデアを出し合いました。そしてスタートしたサービスの一つがEC事業です。

増子 以前よりお客様から『ミル挽き珈琲の豆を販売してほしい』というお声はいただいていたのですが、企業秘密ということで販売はしていませんでした。けれどもご自宅でリモートワークをされている方にも弊社のコーヒーを楽しんでいただくためには、小売りが必要です。そこでこれまでは行っていなかったEC事業をスタートしました。自販機内部の情報も、いままではオープンにしていませんでしたが、現在は開示しています。

――― それは、どのような情報なのでしょうか。

神山
 アドマイヤ内にはCCDカメラが5台付いている、という情報です。アドマイヤにはモニター画面がついており、これまでも商品の出来上がりまでを5台のCCDカメラで生中継していましたが、『録画された映像を流しているのでは?』という声をお聞きすることもありました。そこで、ライブ映像であることを明確に打ち出しました。コロナ禍において、しっかりとした管理のもと提供しているというのは、お客様の安心や安全につながりますので。さらに、単に提供までの過程をお見せするだけではなく、私が画面に登場しアナウンスするという演出も付け加えました。

――― その演出というのは、2年前から?

神山
 はい。ただ、アドマイヤを開発したのは今から20年前で、その当時から5台のCCDカメラが内蔵されており、自販機自体の機能を変更したということではありまん。

――― アドマイヤはミル挽き珈琲という性質上、どうしても提供までに時間がかかると思うのですが。

神山
 はい。それを考慮し時間を感じさせないための対策を講じています。アドマイヤの開発コンセプトは「五感で楽しめるエンターテインメント性の追求」です。そこで考えたのが、「コーヒールンバを流すこと」「コーヒーの香りが漂う香り出し機能を設けること」でした。これは、味のクォリティを保つためには欠かせないものなのです。

増子 アドマイヤはコーヒーが出来上がるまでに1分ほどかかります。やろうと思えば5秒や10秒の短縮は可能ですが、そうするとその分、味が落ちます。美味しいコーヒーをお届けしたいというのが弊社の基本軸。それには時間が必要です。時間短縮のために味を犠牲にするのは、私どもからすれば、考えられないことなのです。なので、お待ちいただく時間をいかに短く感じてもらうか、に軸足を置きました。五感の刺激はそのための演出なのです。

――― なるほど、最優先すべきは味で、そのクォリティを保つための間接的手段が五感の刺激というわけですね。

増子
 お客様から『美味しい』と言っていただくのが何よりも嬉しいですし、その言葉によって元気が出てきます。

――― その気持ち、すごく理解できます。話は戻りますが、ECの活用や情報開示以外で新たに取り組んでいることはありますか。

神山
 SNSの活用です。個人的にインスタグラムやツイッターなどのSNSを使用する社員はいましたが、会社としてSNSを活用し始めたのは2021年からです。これは広告宣伝活動というだけではなく、求人活動の一環としても活用しています。最近の若い人は企業のホームページを見て求人に応募してくるというより、公式のSNSがある企業に対しては、そのSNSを通して企業の雰囲気や情報を入手しているという人が多く見受けられます。そのため情報を発信する際には、作り込み過ぎないこと、仕事内容やスタッフのキャラクターが分かるような内容にすることを心がけています。

――― そうすることでトーヨーベンディングに対する親近感が得られる。

神山
 実際、弊社のSNSを見て『明るい会社』という印象を持ったうえで面接に来られる方が増えてきました。SNSの効果の大きさを感じています。

――― お話を伺っていると、ピンチをチャンスに、という姿勢が強く感じられます。

増子
 私は、そうありたいと思っています。ECやSNSへのチャレンジにしても、コロナ禍がなければなかったかもしれません。

高級豆の取り扱いや他社とのコラボなど今後も新しいことを積極的に取り入れていく

「味にこだわる」という共通点があることから、坂口憲二さんのライジングサンコーヒーとのコラボが実現
「味にこだわる」という共通点があることから、坂口憲二さんのライジングサンコーヒーとのコラボが実現

――― 現在、高速道路のサービスエリアに400台以上のアドマイヤを設置されているとのことですが、稼働率の高さを考えると、競争も激化するのでは。

増子
 他社とはお互いに切磋琢磨し良い意味で競争していきたいと考えています。最近は同業他社だけではなく、カフェやコンビニエンスストアがサービスエリアにもどんどん進出してきています。そうしたライバルに対しても、自分たちのオリジナリティを全面的に出していくことで良い競争ができるでしょうし、結果としてカップコーヒーの需要を全体で盛り上げていければと思います。潰し合いをしてしまうと、その先には衰退しかありませんので。

――― 今、オリジナリティという言葉が出ましたが、一例を挙げると、どのようなものがありますか。

増子
 これは今年の3月から取り組み始めたばかりなのですが、初めての挑戦として、ブルーマウンテンブレンド、ゲイシャブレンドという高級コーヒー豆の取り扱いを始めました。正直、手探りですが、3年後や5年後に私どもの企画によって、日本の皆様にゲイシャコーヒーが身近な存在になっていたら嬉しいですね。

――― 昨年は、坂口憲二さんが率いる『ザライジングサンコーヒー』とコラボレーションされたと聞いています。

神山
 コラボによって名前が広がればいいとかそういう狙いではなく、ザライジングサンコーヒーさんと弊社には、コーヒーの味にこだわるという共通点がある。そのことから、何か一緒にできないかとお声がけしました。私どもの味へのこだわりを認めていただけたことで、コラボレーションが実現しました。

――― 今後はさらに設置エリアを拡大していくのでしょうか。

増子
 サービスエリアへの設置については、交通量とのバランスを見ながらになると思います。

神山 弊社では高品質な商品を高鮮度の状態で提供することをセールスポイントとしています。そのため、販売機の清掃や豆の切り替えなど、メンテナンスのすべてを自社スタッフが行うというフルオペレーション体制をとっています。この体制でメンテナンス対応が可能なエリアは、現在のところ福島から岡山までなのです。

――― なるほど。エリア以外のところはどうでしょうか。

神山
 より多くの方に弊社のコーヒーを楽しんでいただけるよう、EC販売も含めて、販路の拡大を目指します。また、他社とのコラボレーションや高級豆の取り扱い以外にも、新しいことに積極的に取り込んでいきたいと思います。

――― ありがとうございました。

トーヨーベンディングのミル挽き珈琲|トーヨーベンディング株式会社
「コーヒールンバ」の曲でおなじみの「ミル挽き珈琲 自動販売機」は、いつでも挽きたての味と香りで“手入れドリップの味を超えた”珈琲をお楽しみいただけます。高速道路のサービスエリアやオフィス、公共施設、病院などに設置しています。





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