公開日: 2025/09/23
更新日: 2025/09/25
今回はカワサキプラザ船橋さんご協力のもと、バイクジャーナリストの小林ゆきさんがカワサキが開発した世界初のストロングハイブリッドモーターサイクル「Ninja 7 Hybrid」と「Z7 Hybrid」の足つきインプレ、「Ninja 7 Hybrid」の試乗インプレを行いました。試乗では、エコ・スポーツ・EVモードを切り替えながら、ビッグバイク並みのトルクと、クラッチレスの快適性を両立した走りを体験し、その面白さを力説します!
こんにちは。バイクジャーナリストの小林ゆきです。今日は、カワサキが世界初のスポーツタイプのハイブリッドとして発表した、「Ninja 7 Hybrid」と「Z7 Hybrid」をインプレッションします。まずは足つきをチェックして、後ほど試乗も行います。今回はカワサキプラザ船橋店さんから、場所と車両をお借りしました。試乗の様子もたっぷりお届けするので、ぜひ最後までご覧ください。
さて、このバイクは世界初のハイブリッドですが、何のハイブリッドかというと、サイドカウルに『HEV』と書いてある通り、ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドです。エンジンの方は450cc、2気筒のエンジンをベース。そして電気モーターの方も、電気だけでも走れる十分なバッテリーとモーター出力を持っています。このバイクはすでに市販されていて、実は去年(2024年)に発売されているんですよね。
ハイブリッドバイクというと、2000年代に上海モーターサイクルショーに行った際、スクータータイプでガソリンエンジンとモーターを組み合わせたものが、いくつかありました。しかし、この大きさでスポーツバイクとして開発され、しかも日本が世界に誇る4メーカーのカワサキが市販モデルとして発売したというのは、バイクの歴史においても意義があることです。さて、前置きが長くなりましたが、皆さんが気になる足つきをチェックしていきましょう。
●「Z7 Hybrid」シート高795mm/車両重量226kg
今回はZ7とNinja 7、両方が並んでいます。形は違いますが、公称値ではNinja 7の方がわずか2kg重いだけ(228kg)です。Z7の装備重量は226kg。まずはこのZ7からまたがってみます。シート高は795mmですね。この795mmという数字は、私がいつも乗っている1989年式のGPZ900R(乾燥重量220kg、シート高790mm)とほぼ同じ。どれくらいの差があるのか、とても楽しみです。今、本当に初めてまたがります。
目の前にすると、バーハンドルは高すぎず低すぎず、ライダーフレンドリーな感じが致します。シート高795mmという数字の割に、そこまで高く感じません。シート自体は細く見えますが、実はサイドが少し張っています。この理由は試乗の際にお話ししますね。では、後ろの段差に気をつけながら、またがってみましょう。
今、素直に真ん中に座ってまたがってみると、右足はステップをしっかり踏めています。左足は、膝が伸びているものの、母指球は地面にしっかりついていますね。 このまま起こせるか、起こせないか、という感じです。私は少し左側にオフセットして、腕の力を使って起こします。よいしょ! あれ? またがった状態だと、そんなに重さは感じません。重心がかなり低い位置にあるようです。
またがる前は、エンジンが一般的な位置にあり、バッテリーはライダーのお尻の下あたりにあるので、重心バランスがどうなるか気になっていました。でも、実際にまたがってみると何の違和感もありません。では、足を踏み換えます。このバイクは、指でシフト操作を行う6速オートマチックで、シフトレバーもシフトペダルもありません。なので、サイドスタンドを払うために足を踏み替えます。シートは、最近のバイクに多い梨地のような細かい素材で、少し滑りにくいですね。
さっき少し心配していたシート下の広がりですが、意外とスリムになっているので、足の踏み替えの邪魔になりません。サイドスタンドもツノがしっかり出ていて、私の短い足でも楽に払うことができ、つま先でも出すことができます。軽くて操作性が良いですね。バーハンドルなので、かなり起きた姿勢で乗ることができ、停車時の安定感も抜群です。ライダーの姿勢がとても楽に感じます。
●「Ninja 7 Hybrid」シート高795mm/車両重量228kg
続きまして、Ninja7です。ちょっと重いと言いましたが、ご覧の通り、顔つきが違うぐらいで、実際には重さ228kg。Z7とたった2kgしか差はありません。ただ、ライダーから見た目線だと、サイドカウル(フェアリング)が付いているので、少しボリュームがあるように感じますね。あと、ハンドルがですね。こちらはバーハンドルではなく、セパレートハンドルなんですね。ハンドルの位置も少しスポーティーな位置関係で、低すぎないんですが、少し垂れています。では、このまままたがっていきます。
こちらも、後ろのタンデムシートが少し高くなっているので、気をつけながら足を上げていきます。はい、同じですね。シート高は795mmなんですが、私のGPZ900Rが790mmなので、それよりだいぶ低く感じるぐらいです。この股の部分がシュッと細いので、実際の高さより、ライダーが感じる高さはそこまで高くありません。なぜかこちらの方が、足つきが良い感じがします。理由はよく分からないんですが、左ひざも曲がっているし、脚を伸ばせばかかとがつくくらいなんですよね。顔つきが違うだけで、この2台にそんな差があるのは不思議です。
では、これを起こしていきます。このままでいけるかな? せーの、よっ! うわ、なんだろう、ちょっと重さを感じます。ハンドルが少し低いだけで、起こすときに「よっせ」と力が要ります。これはテコの原理なんでしょうか。ここから足を踏み替えますが、やはりハンドルの位置が明らかに前傾姿勢になりますね。不安な方は、バーハンドルのZ7の方が楽かもしれません。
では、足を、踏み替えます。せーの。はい、こちらもシートは同じで、細かい梨地のような表皮なので滑りにくいです。両足はギリギリつくかも、という感じです。両足つくと少し不安定になるので、サイドスタンドもつま先で簡単に払ったり出したりできますね。
ハイブリッドのZ7とNinja 7にまたがってみましたが、どちらも排気量が450ccなので、大型二輪免許が必要です。大型二輪免許を持っている方なら、かなり楽に、不安なく乗れるんじゃないかと思います。むしろ、教習車よりも足つきや、バイクを起こす動作などは、思いのほか楽でしたね。ということで、ハイブリッドのバイクにまたがってみました。
それでは、今からこちらのNinja 7 Hybridを試乗します。このバイクは水冷2気筒の450ccエンジンを搭載しており、ハイブリッドブーストモードも付いています。カワサキプラザ船橋さんから、まずは一般道を、その後は高速道路も走行してみたいと思います。では、行って参ります。
さて、スポーツモードで走り出しましたが、渋滞がすごそうなのでエコモードに切り替えます。すると、いきなりエンジンが止まりました。エコモードにはアイドリングストップ機能があるんですね。おお! 電気モーターだけで進みました。音もなく進むというのは比喩ですが、とても静かです。スピードが乗ると、エンジンがかかるんですね。今ATモードに切り替えたので、スロットル操作だけで加減速ができます。モードは基本的に、スポーツ、エコ、EV(電気のみ)の3つです。電気だけで走れる十分なモーター出力と電池の容量がありますが、電池の充電はどうするのかというと、このバイクは常に回生ブレーキが効いています。回生ブレーキは、排気量やパワーが大きいほど、エンジンブレーキのように働く場合がありますが、時速30km以下で走っている限りでは、まだその感触は分かりません。
ここからは高速道路に乗るので、スポーツモードにしました。スポーツモードではアイドリングストップ機能がオフになり、エンジンの出力が最大になります。途端に、ビッグバイクを運転しているような感覚になりますね。さらに、ALPFというモードにすると、減速時にシフトが自動で下がります。これが地味に、でも本当に運転を楽にしてくれます。高速道路での合流など、加速のタイミングは自分で決めたいものですが、止まる時はブレーキに集中したいので、このALPFは非常に便利です。
ここは60km制限のバイパスなので、ゆっくり走っています。6速で走行中ですが、TFT液晶のメーターが非常に見やすいです。数字の配置も分かりやすく、上の横一列がタコメーターになっています。今、時速60kmで6速、回転数は3000回転少しという感じです。エコモードだと、もっと回転数は下がるでしょうね。さあ、100km区間になったので、「e-boost」ボタンを押してみます。「e-boost」と表示が出ました。おお、マジか! 来た! 急に来るんですね! アクセルを開けていないと発動しないということですが、「e-boost」が来るタイミングがよく分かりません。もう一度試してみます。少し減速した状態で「e-boost」を押しました。表示は出ますが、ブーストがかからない……。うーん、使い方がよく分からないな。後ほど、もう一度やってみます。
ハンドリングを導入路で少しだけ試しましたが、フロントからグイグイ行くのがよく分かりました。サスペンションが私にとっては少し硬めなので、峠を走るようなスポーツライドは、今日はできませんが、今の導入路での走りだけでもスポーツ走行も楽しそうだなというのがよくわかりました。
さて今、帰りの高速道路を走っています。走りながらモード変更ができるか試しましたが、停車時にしか切り替えられないようです。事前にモードを選択しておく必要がありますね。なので、高速でエコモードが試せてないんですが、このままスポーツモードで走っていきます。
エンジンの評価を少しお話しさせてください。ベースとなっているのは、Ninja400やエリミネーター400で使われている水冷並列2気筒です。ボアアップではなくストロークアップで450ccにしたそうで、ドコドコとした感覚が楽しいですね。カワサキの並列2気筒エンジンは長い歴史があり、定評のあるエンジンです。V型と比べると並列はマイルドだと思われがちですが、実はかなりハイパワーな設計も可能です。このハイブリッドのエンジンは60馬力弱と、450ccにしてはかなりパワーが出ていると思いました。昔のキャブレター式エンジンとは違い、今はフューエルインジェクションで電子制御されているため、トルクはかなり太っていますし、パワー感は全然違います。今スポーツモードで乗っていますが、電気の力も加わるので、まるで90・100馬力あるビッグバイクを運転しているような感覚です。
感覚というのは、スロットルに対するエンジンのレスポンス、パワー、そしてトルク感だったりしますが、そこらへんがだいぶ、単なる2気筒450ccのエンジンバイクとは全く違います。もっと余裕があり、ビッグバイクのような、必要な時に『ドカン!』とパワーが出る感覚があります。1000ccクラスで感じる楽しさが、このバイクにはありますね。交差点では大きなバイクを扱うような余裕がありますが、中速コーナーではフロントからグイグイ回り込むような、スポーツライディングも楽しめるハンドリングです。その走りを制しているのは、ハイブリッドならではのパワー感とトルク感、特にトルクですね。電気はトルクを0から作っちゃうので、そこが加わるとなれば面白さひとしおです。
今、面白い現象に気が付きました。加速中に「e-boost」ボタンを押さないとブーストしないと思っていたら、『ブーストかけられますよ』と表示が出たんです。本当だ! スロットルをオフにしても「e-boost」がかかるのか…? おお、来た、来た! なるほど、分かった! そうか、スロットルを加速状態にすると「e-boost」の準備状態になり、その状態で右手の親指で「e-boost」ボタンを押すと、5秒間だけブーストがかかるんですね。ようやく使い方が分かりました。
今日はカワサキのNinja 7 Hybridを試乗して参りました。私、本当にこの日を楽しみにしてたんですよね。こういう初物、大好きなので。カワサキが世界に先駆けて市販までしてしまう……。やっぱり市販するということは、未来永劫とは言わないまでも、しばらくこのバイクに責任を持って製造しますよ、ということですので、ものすごい覚悟を持って、これ設計・製造したというふうに思います。で、じゃあ実際に車両としてどうなの? といったときに、もうこれ私はね、本当に面白かった!!
まずですね、いろんな機構が積まれているのは、ハイブリッドだから当たり前ですよね。スポーツモード、エコモード、EVモードなど色々ありますけど、他のバイクも最近はそういうのがありますよね。でも、どっちかっていうと「普通+スポーツ」みたいなバイクが多いかなって思うんです。でもこのNinja 7は、普段の道で「どう走ろうかな」っていうのを、自分の意思でどんどん変えていける。それに、「今日は楽ちんにしようかな」っていう時には、ミッション車よりはるかに楽ちんなんです。特にオートマモードはそうですね。クラッチがないので、シフトを使ったり使わなかったり、それも楽なんですけど。
そして、カワサキさんのこのハイブリッドのいいところは、やっぱりニュートラルモードです。親指で入れられるというのが、安全面でも素晴らしいなと思いました。とりあえずニュートラルにしておけば、間違ってアクセルを開けてしまっても、バンッて出ることがないですし、EVモードは音がしないので、アクセルを開けているかどうかわかりにくい時でも、ニュートラルモードにしておきさえすれば安心です。
そして、もう一つこのエンジンの面白い点に気づきました。良い意味で、カワサキならではと言えるかもしれませんが、いわゆるレシプロエンジンの乗り味をちゃんと活かしているんです。特にオートマモードでは、自動でシフトアップやダウンが行われますが、その時の挙動が、まるでクラッチ操作をする時のように、一度スロットルを戻してから開ける、という動きに近いです。曲線を描きながら加減速していくような、そんな感覚があります。
シフトチェンジは機械的に動いているので、その『ガショコン!』という手応えや音がライダーに伝わります。それが、『モーターサイクルを動かしているんだな』という強い実感につながっていると感じました。エンジンは450ccですが、非常にパワフルです。スポーツモードでは、モーターのパワー、特にトルクが加わることで、1000ccにも匹敵するような、必要十分以上のトルクとパワーを感じられます。
エコモードでも、パワーがないわけではなく、一般的な400ccクラスの2気筒エンジンらしい走りをします。EVモードやエコモードのオートマモードは、ライダーの感覚に近いアクセル操作で、路面にしっかりと動力を伝えてくれます。ハイブリッドというだけでなく、クラッチレスのセミオートマとしても非常に優れていると感じました。そんなバイクを市販しているなんて、信じられないし、夢のようです。あまり注目されていないようですが、なんとカワサキプラザ船橋店さんではレンタルバイクがあるそうです。世界初の、そしておそらく今のところ世界で唯一のハイブリッドバイクを、ぜひ一度レンタルで体験してほしいです。
私はスーパーチャージャー搭載のH2に乗っていますが、『H2ってどう?』と聞かれても、乗ってみないと分からない面白さがあります。例えるなら、パチンコ玉を引っ張って背中を『ドン!』と押されたような加速感です。このハイブリッドも同じで、乗ってみないと分からない面白さがたくさん詰まっています。スポーツライドも、長距離ツーリングも楽しめそうなパッケージなので、購入を検討している方はもちろん、一度乗ってみたいという方は、ぜひレンタルバイクで体験してみてください。これから先、こういったバイクはなかなか出てこないと思うので、チェックする価値は十分あります。かなり熱が入ってしまいましたが、本当に面白かったカワサキのハイブリッドでした。
●撮影協力:カワサキプラザ船橋様
【小林ゆきさん略歴】
横浜育ちのバイクブーム世代。バイク雑誌の編集者を経て、現在はフリーランスのライダー&ライター。バイクを社会や文化の側面で語ることを得意としている。愛車は総走行距離25万kmを超えるKawasaki GPz900RやNinja H2など10台。普段から移動はバイクの街乗り派だが、自らレースに参戦したり鈴鹿8耐監督を経験するなど、ロードレースもたしなむ。ライフワークとしてマン島TTレースに1996年から通い続け、モータースポーツ文化をアカデミックな側面からも考察する。
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