公開日: 2026/05/19
更新日: 2026/05/25
バイカーズべーカリーは、デザイナーを本業とするひとりの男の理想を具現化したもの。そこには「世界1のバイク生産国・日本」にあるべきコミュニティが描かれていた。
神奈川県側の高尾山口と山梨県の相模湖を繋ぐ、国道20号線の大垂水峠。1980年から90年代の初頭まで「走り屋の聖地」と呼ばれ、週末ともなれば昼夜問わずバイクのローリング走行が行われていた。多い時には300を超えるほどの台数となった。
日本全国でこのような場所は数多く存在し、警察や地元行政は二輪通行止めや段差舗装で対処した。しかし地域住民とのトラブルや多発した死亡事故の記憶が消えることはなく、かつてのバイクブームに暗い影を落としている。
2000年代初頭にバイクブームが去り、ローリング族も姿を消した。大垂水峠に残されたもの、それは不快な段差舗装とバイクの残骸、廃墟と化したドライブインであった。圏央道が開通したこともあり、この区間をわざわざ通る者は少ない。しかし、最近になって大垂水峠に再びバイクが集まっているという。
圏央道高尾山口を降りて、大垂水峠の区間に入る。日曜ということもあるが、バイクも含めて交通量は多い。廃墟などは相変わらずで、目に見えるもの全てがここを「過去の場所」にしてしまっている。
ところがかつてのギャラリーコーナーに、いきなり綺麗な建物が現れた。「バイカーズベーカリー」。大垂水峠に再びバイクが集まるようになった理由、それがこのライダーズカフェにある。100台は入るであろう広大なスペースに、あらゆるジャンルのバイクと老若男女のライダーがくつろいでいる。ペアやグループ、ソロのライダーもいるようだ。オープンは土日、祝日に限られている。
オーナーの岸さんは、生粋のリアルライダーだ。同店の創設者でありながら、普段は会社員として働いているため、お店の代表は奥さんが務める。営業日である土日祝日は、岸さんも店員として店頭に立ち、家族で店を切り盛りしている。
「ここに辿り着くまでに3年半位かかったんです。都内の会社から1時間圏内で通える物件を探して、最後に出てきたのがココ。バイクの聖地であったことは知っていたので、通ってた人が戻ってきてくれるんじゃないかっていう思いもありました」
子供の頃は福岡の田舎暮らしで、ベトナムに駐在経験がある岸さんは、かねてから東京を出たいと考えていた。娘さんの「パン屋さんになりたい」という夢も叶えたかったという。オープンは2019年7月。奥さんも含めて家族3人でお店を回している。
「日本はあまりにもバイクに冷たい。ベトナムではみんなが日常的にバイクに乗っている感じがすごく楽しかった。バイク生産国である日本に、それがないのが寂しい。バイク乗りもマナーが悪い人が多い。この状況がすごく気に入らないんですよ。そういうこの国の『ねじれ』を直したい」
そんな岸さんは、通りすがりの外国人ドライバーにも親切丁寧に対応する。店舗内には無料の貸し出し工具まで用意され、こだわりのコーヒーや、奥さんと娘さんが作るパンの味も評判となり、SNSのフォロワーは3万人を超えている。
「コンセプトは癒しです。大垂水と言えば、やんちゃなライダーがいた場所って言うイメージを変えたくて。みんながバイクについて、ゆっくり語り合えるコミュニティ。今の大人たちって、人とコミュニケーションする場がないんですよ、ここに来るとみんながすぐ友達になれるんです」
かつてのギャラリーコーナーを、今はツーリングライダーが通り過ぎてゆく。ちなみに、岸さんの住居兼店舗の前に段差舗装はない。国土交通省と交渉して、騒音とライダーの安全の為に撤去してもらったのだ。
「僕が1番大事にしているのは『地元の人に迷惑をかけない』こと。一緒に米を作ったり味噌を作ったり、今はとても関わり合いが深いです。ココを昭和のバイクブームに戻す気は一切ない。地元の人や環境、自然や動物たちを脅かすような走りをしていた過去を捨てて、新しい世代に切り替わって欲しいと言う願いがあります。『大垂水峠からバイク乗りの考え方をひっくり返したい』。それが最終目標です」
あの大垂水峠が地元の賛同を得ながら「ライダーの聖地」として息を吹き返している。バイカーズべーカリーはあらゆる点において、二輪業界が参考にするべき「ライダーのコミュニティ」である。
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