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【販売店取材】有限会社フォーラム 吉松久行 会長(鹿児島県)

公開日: 2023/04/28

更新日: 2023/05/30

鹿児島県でナンバーワンの販売台数を誇るのが、鹿児島市を中心に店舗展開する有限会社フォーラム。創立は1989年9月。そこから30数年で県内に7店舗を構えるにまで成長。これまでの軌跡について、代表取締役会長の吉松久行氏に伺った。

『勝てば官軍、負ければ賊軍』。その覚悟を持って店の経営に取り組んでいます

<center>指定工場を取得しているバイクフォーラム鹿児島店</center>
指定工場を取得しているバイクフォーラム鹿児島店

有限会社フォーラムが創業したのは平成元年(1989年)。これまで多くの販売店を取材してきた中で、「家が二輪販売店だから家業を継いだ」「バイクが好きだから、バイクショップで整備士を経験し独立した」という話は何度となく聞いているが、フォーラムの代表取締役会長である吉松久行氏の経歴は異色だ。

「前職は鹿児島県の公務員です。1989年、ちょうど40歳の頃ですが、ふと『私の人生、このままで終わっていいのか』と思ったのが始まりでした。1968年から21年と6か月間、務めた公務員を思い切って辞めて、その年の9月に二輪販売店を始めました」

16歳で二輪免許を取得した後はモトクロス遊びに熱中し、高校3年生の頃はずっと二輪販売店でアルバイト。その経験があったとはいえ、店の経営に関しては未経験。

「最初はいろいろありました。当時はまだまだ閉鎖的な業界で、他店の皆さんとの関係も薄く、二輪販売店の集まりに参加できなかったり。でも、逆にそれがプラスに働いたという側面はあります。店のオープン時は、私を含めて従業員は3人。その3人がご飯を食べていけるだけの利益があればいいので、安売りに徹しました。1989年はまだバイクが売れている時代で、とにかく売れましたね。多い時には、1日に10台以上を納車したこともあります。すごく忙しかった。私としては『なんでバイク屋ってこんなに儲かるの?』と思っていましたが、そうした販売状況について指摘を受けることもありませんでした。そういったしがらみがなかったから、逆に良かったのかもしれません。やがて、他の店からも『新車ならフォーラムさんが安いよ』と言われるようになり、その言葉を聞いた時、何か、一人前の二輪販売店として認められたような、そんな気がしたのを今でも覚えています」

スタートダッシュに成功したフォーラムは現在、『バイクフォーラム紫原サービスセンター(以下、サービスセンター)』となっている鹿児島市紫原の店に続いて、1992年に『バイクフォーラム加治木店(現バイクフォーラム姶良店)』、1996年に『バイクフォーラム伊敷店』、1999年に『バイクフォーラム鹿児島店(以下、鹿児島店)』、2001年に『バイクフォーラム鹿屋店』、2002年に『バイクフォーラム福岡店』、2007年に『バイクフォーラム宇宿店( 以下、宇宿店/現、カワサキプラザ鹿児島』、2013年には『バイクフォーラム和田店(以下、和田店)』を次々と出店。創業から淀みなく順調に成長してきている。また、新店舗ではないが、2020年には宇宿店を改装して『カワサキプラザ鹿児島( 以下、プラザ鹿児島)』を出店している。

グループ店であるプラザ鹿児島、修理・整備を行うサービスセンターを含めると、鹿児島県に6拠点。取材では鹿児島店のほか、サービスセンター、プラザ鹿児島、和田店、伊敷店の5拠点を訪れたが、とにかくフォーラムが市内の至るところにあるという感じだ。しかも、そのほとんどが好立地。そこには吉松会長の持論が反映されている。

「出店する際の基準は、1に場所、2に広さ。例えば国道沿いや街の中心部など、売れる場所、価値のある場所、つまりは坪単価の高い場所を狙って購入しています。土地の価格にしり込みしてはいけない。お金がないからといって、価値の低い場所を小さく借りてしまうと、店に動きがなく、売れない。結果、何も残らない。それでは、出店する意味がありません。坪単価が高いところっていうのは、もし、何かしらの事情で店を辞める時にも高く売れます」

フォーラムは場所を借りるのではなく、すべて買っているのだ。

「借りると、店を自分の好きなようにできないでしょう? それに、さっき言ったように、買う時に高い土地は売る時も高い。店が10年続けば叩き売ってもとんとん。15年なら、プラスになる。20年なら、余裕で余る。ウチはあと8年したらもう返済がないので、そのあとは今返済している分も利益になります」

中古車ユーザーは「バイクを買う」、新車ユーザーは「お店を買う」、これが新車に力を入れる理由

<center>バイクフォーラム和田店・伊敷店</center>
バイクフォーラム和田店・伊敷店

フォーラムの新車、中古車の販売比率は6対4で新車。新車に力を入れていることには理由がある。

「中古車は一物一価。同じものは1台とありません。それをお客さんは『あった、あった』と買いに来られる。つまり、目的のバイクを買いに来る。でも、新車は、どこの店でも同じ商品。お客さんは何店も見て回るけど、その中の1店がウチの店。実際に来店いただいたら、軽く商談します。その後また来店された時には、さらに深い商談に入り、そこから購入に結びつけます。納車から1か月後には点検が待ってます。何度もお客さんと面と向かって話すので、信頼関係が生まれる。つまり、新車を求めるお客さんには“店を買っていただいて”いるのです。普通、近所で同じモノが買えるなら、わざわざ遠くの店では買いませんよね。新車の場合、お客さんとは店が近いから関係が継続する。でも、中古車は遠くからのお客さんも来る。ウチまで1時間も2時間もかかるようなところに住んでいる方が購入されたとします。購入後、タイヤがパンクした、という連絡が来ても、すぐには対応できないことが多い。そうなると、お客さんとしても『近くで買えば良かった』となりますよね。さらに、アフターが違う店になると、ウチは売って終わりで、関係が長続きせず、固定客となる人もそう簡単には増えない。新車に力を入れる理由はそこにあります」

原付一種からリッタークラスまで幅広い車種を揃えるが、主力は原付クラスだという。

「1台あたりの利益のことだけ考えれば、大排気量車のほうが有利です。でも、そう簡単に売れるものではありません。小排気量車は日常の足としてもご利用いただくので、台数が出る。原付を10台売れば、お客さんは10人。それと同じ利益を出すのに大型は1台売れば済みますが、お客さんは1人。もし、利益が同じでも、年間で考えると、お客さんの数が全然違ってきます。その人たちの口コミで広がる人数も全然違う。私の理想としては、まず50ccを買ってもらい、次に250cc、その次は400cc、最終的には1000ccとつながっていけば、一人の顧客に何台も売れる。バイクの商売というのは、作物を作るのと一緒だと思っています。従業員には『まず種を蒔きなさい』と言っています。それが50ccを売るということ。そこから芽が出て、最終的に実が成る。それが250ccや大型につながるということ。だから、単純に利益を求めるのではなく、顧客が何人増えたのか。それを重視しています」

結果、年間の販売台数は1800台から2000台になるという。驚きの数字だが、当然、次のバイクに乗り換える人の下取車も相当な台数になるだろう。相応のスペースも必要になるものと思われるが、それについて確認したところ、意外な答えが返ってきた。

「ウチは倉庫を持たないようにしています」

どういうことなのだろうか。

「下取車や買取車はサービスセンターに一旦、全部送ります。そこで、ウチが売った車両でなおかつ1週間で仕上がるものだけ残し、BDSオークションに出品しています。ウチが店頭に並べる中古車は、ウチが販売したバイクだけ。理由は、履歴が明確だからです。他店の販売したバイクの履歴は追いきれませんので、例えどんなに状態が良さそうに見えても取り扱いません。そういう、出すのが『もったいない』と思うようなバイクは、オークションで高い値が付くんです。そのまま何もしなくても、出品するだけで利益になる。でも、店に置いておくだけでは利益ゼロ」

つまり、余分な在庫を持たないので倉庫が必要ないのだ。そのような管理体制でも数%はクレームがある。でも、履歴が明確なバイクはすぐに修理対応が可能だという。

手に接着剤をつけてでも工具を離すな。それぐらい整備に特化しているサービスセンター

<center>バイクフォーラム紫原サービスセンター</center>
バイクフォーラム紫原サービスセンター

従業員の教育方針もフォーラムは独特だ。

「ウチは従業員に対して『自分の将来をちゃんと見据えておくように』という方針なので、2級整備士までは取らせます。入社後、概ね1年経ったら3級整備士、その後、2級整備士に挑みます。現在、フォーラムには整備士が約30人いますが、検査員が10名、2級整備士が10数名、3級整備士は3名です。また、『フォーラムはこれからも伸びていくつもりはあるが、この先は分からんぞ』と、事あるごとに言っています。実際、今の情勢がコロッと変われば、どうなるか分からない。でも、2級整備士まで取れば、どこに行ってもご飯が食べられるでしょ。だから、私のことが気に入らないという従業員がいたとしても、『私に文句があっても5年は頑張れ。2級整備士を取った後は好きにすればいい』と伝えています」

この、どんどん資格を取らせる方針は、創業当時にまで遡る。

「当時、メーカーの政策が、認証工場は不可欠、というものでした。それについていくためです」

現在、全ての拠点が認証工場であり、中でも鹿児島店は指定工場となっている。同じ整備工場でも、サービスセンターとは、その役割が全く違う。

「サービスセンターは言わば後方支援部隊。他の拠点から送られてきた車両の修理や整備を行います。基本的にはユーザーさんの依頼は直接受けません。気持ち的には『手に接着剤をつけてでも工具を手から離すな』というぐらい整備に特化している拠点です。それに対してお客さんへの対応がある拠点は、前線部隊。例えば、鹿児島店で重整備とかをしている時にお客さんが来て『パンクを直して』と言われたら、『今、忙しい』となり、顔も険しくなる。それじゃダメ。何かあったら、すぐにポンと工具を放り出して対応できる態勢でいないといけない。『笑顔で待ちの整備をしなさい』と常日頃から言っています」

ユーザー向けのイベントに対する考え方もユニークだ。

「毎月、拠点ごとに持ち回りでイベントを行っています。ボウリング大会はお客さんのほか、その友だちや家族など、バイクに乗らない人にも人気なので、乗らない人にも輪を広げるという意味でも、よく開催します。ツーリングは年間を通してスケジュールを決めなさい、場所は毎年同じところでもいい、と言っています」

これまで、お客さんを飽きさせないようにと、行き先に悩むというお店の話は何度か聞いたことがあるが、その逆なのだ。

「同じところに行けば、途中の休憩所やトイレの場所、食事の店などが分かっているので企画や運営がスムーズになる。そうすると『同じ場所じゃつまらない』というお客さんが出てきますが、スタッフには『そういうお客さんは断っていい』と伝えています。人が入れ替わっていくことで、いろんな人が楽しめるイベントになりますから。同じ人を楽しませても輪は広がらないと考えています」

異業種から転身した時に感じた社会的地位の低さを高めていくのが今後の課題

<center>独特な経営方針で店を伸ばしてきた吉松会長</center>
独特な経営方針で店を伸ばしてきた吉松会長

吉松会長は、次の展開をどのように考えているのだろうか。

「今後は、店舗数の拡大とかよりも内容の充実を考えています。二輪販売店の社会的地位の向上に一層力を入れたい。異業種から来たとき、その差に驚きましたから」

人材募集の際、社会的地位の低さを痛感するのだという。

「従業員を募集しても、なかなか人が来ない。以前は、たくさん応募が来ていたのに、今は正反対。最近はジーパンにスリッパのような恰好で面接に来る人もいる。そんな時はこう聞きます。『あなたは公務員の二次試験の面接に、その格好で行きますか?』と。大体『行きません』と答えが返ってきますので、『ウチを軽く見ているのなら、お帰りください。ウチで働きたいのなら、スーツを着てもう一度お越しください』と伝えます。要するに、こういう格好で充分、と思われているんです。この意識を改革していかなければならない。二輪販売店もひとつの会社、企業なんです。もちろん、店も変わらないといけない。例を挙げると、店頭にバイクを並べる際に、歩道にバイクを並べたり、道路を不正使用したりしない。バイクの積み下ろしも路上では行わない。関係者すべてがそうした意識を持ち改革していくことが大切。そうすれば環境も変わると思うのです」

自分たちの意識改革として、フォーラムでは20年前から福利厚生に力を入れている。それが、鹿児島県日置市の海岸線にある『バイクフォーラム緑風館』。全体が約6000坪もある保養施設だ。

「バイクを整備するのって、汚れるじゃないですか。仕事ではそれでもいいとして、休みの時は別荘で優雅にゆっくりと時間を楽しみ、心と体をリフレッシュ。そういう生活があってもいい。待遇面も3年前から5カ年計画で基本給の昇給5万円を目指していますが、現時点でほぼ達成。他業種と比べても見劣りしない金額になっているかと思います。また、従業員は染髪禁止など、見た目の清潔感も大切にしています」

吉松会長は最後に、次の言葉で締めくくった。

「今の日本の礎は、薩摩藩が作ったと思っています。『勝てば官軍、負ければ賊軍』という言葉がありますが、私もそういう覚悟で経営に取り組んでいます。結果を出しているから、発言に説得力が生まれる。これからも真摯な態度で業界に、従業員に、お客さんに向き合っていきたいと思います」



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