販売店取材注目

【販売店取材】株式会社ベストオート 三原昇 統括マネージャー(島根県)

公開日: 2023/09/07

更新日: 2023/09/14

「遊び心」。何年経っても変わらぬコンセプトである。遊び心とは、店側が作り出し、それをユーザー側が楽しさとして感じ取ることで、意味を持つ。この考えに基づき旧車をより一層輝かせるための店内装飾にも力を入れる、そしてこの6月、情報発信基地として2号店をオープンさせた。“遊び心”の体現が、さらに加速度を増した。

旧車の魅力は景気に左右されにくい安定感。2号店の出店は“遊び心”のさらなる体現

拠点を構えるのは島根県出雲市
拠点を構えるのは島根県出雲市

よく「あの店は個性的」などと表現することがある。「個性的」の意味を調べると、「人や物が、他と比較して異なる個性をもっているさま」「独特であるさま」とある。小誌のコンテンツ「経営読本」の場合、「人」とは経営者であり、「モノ」は店舗やバイクを指す。今回、取材したベストオート(三原統括マネージャー)は、その双方を兼ね備えた販売店である。

拠点を構えるのは島根県出雲市の出雲大社から西に約13㎞ほど進んだところにある。店舗はチャコールグレーに塗装されたシックな外壁。かなり大きいので一見するとバイクショップには見えないが、店の脇に置いてある数台のバイクと黄色い看板を見て、はじめて二輪販売店であることが分かる。

入口には小さな棟門のような門が設置されており、そこにはプレートが十数枚設置されている。ホンダやブリヂストン、NGKなどの看板のほか、アース製薬の「ハイアース」「アース渦巻」、オロナミンCなどのホーロー看板だ。そして、もう1枚、「時代屋」と書かれたプレートがある。このネーミングこそが同店を言い表した“屋号”である。

入口をくぐると、おびただしい台数の旧車が出迎えてくれる。モトコンポやシルバーピジョン、モンキー(Z50M)、GT38、FZR250R、CL350、ハローB10(ダイハツ)、W3(650RS)、CB350、CB750K(K0)、CB450K0(国内物)、トーハツ、メグロなど、枚挙にいとまがない。

また、NINJA H2 SXSE、Z900RS 50thアニバーサリーモデルなどの現行モデルの姿も確認できる。なかにはリトルカブをチョッパー風にカスタムした車両や、あるルートから比較的安価で譲ってもらったという、1960年まで存在した東昌自動車工業のパンドラも“現状展示”してあった。台数は、店舗と倉庫を合わせると、300台は下らないという。

上記のバイクは広々とした店内に所狭しと並べられているが、そのバイクの生まれた時代に合わせるかのように、様々な装飾が施されている。店内中央に鎮座した囲炉裏に年代モノの給油機。「サトちゃん」の大きなマスコットやブリキのバイク、190mlのコカ・コーラの瓶、琴欧州関(現鳴戸親方)の等身大パネル。そして天井にはシーリングファン。初めて来店した人は、相当驚かされることだろう。

W系に強み。在庫は20台でパーツストックも豊富

“宝探し”的な感覚のある店内。駄菓子も販売している
“宝探し”的な感覚のある店内。駄菓子も販売している

三原統括マネージャーがベストオートを立ち上げたのは、いまから16年前。それ以前は三原商会という店を構えていた。同店も二十数年にわたり経営してきたが、ある人の保証人となったことにより、債務の弁済のため店を手放さなければならなくなった。つまり、ベストオートは徒手空拳でのスタートとなったわけだが、それを見事に軌道に乗せたのである。

ベストオートを立ち上げた頃、旧車に特化した店舗づくりについては構想を練っていたという。当時の旧車比率は現在の5割。いまは9割以上が旧車で締められているので、三原統括マネージャーが描いた青写真に限りなく近づいているのだろう。

ベストオートの商圏は、かなり広い。岡山、広島、山口からもユーザーが多く訪れるのだ。島根県内には旧車に特化した販売を行う店が少ないこと、中国自動車道を使えば2時間ほどで来店が可能であることなどがその理由。距離にすると150kmほどで、これはツーリングに最適な距離でもある。在庫車は300台だが、そのうちの一部は旧車以外のモデル。やや違和感があるが、これは意図的なもの。近隣住民からのバイク需要もあるため、それに配慮したのだ。

「旧車ユーザー以外のお客さんも、ごく普通に来店されます。要望や予算を伺ったうえで、希望在庫がなければBDSで仕入れます。ウチの店長は、かなり親身になって商談を進めているので、成約に至る率は高いですね」

店内には様々なメーカーの旧車が幅広く揃うが、なかでも力を入れているのはW1。レストア待ちの車両を併せると20台はあるという。

「W1に関しては、初期の頃から強みにしていて、いまはパーツのストックもかなり豊富です。先日も福井県のお客さんから車検の依頼がありました。それだけのためにご来店いただけるのは、とてもありがたいことだと思います」

ベストオートには3つの柱がある。「車両部門」「パーツ部門」「オークション部門」の3部門で、それぞれに責任者がいる。パーツ関係を部門分けしているのは、収益の柱としているため。仕入れた車両は、バラしてパーツとして売ることも多いが旧車の場合、中古パーツの引き合いは、かなり強く収益性が高いからだ。「オークション部門」は、オークション出品に向けた“商品化”を担う。下取や買取で仕入れた車両のうち、自店で販売しないものなどをピックアップ。手を掛けずに販売できるクォリティにまで仕上げたうえで出品している。手間とコストを掛けた分、相場を上回る価格で落札される可能性も高まる。

こうした背景には、旧車特有の特性がある。原付スクーターなどと異なり、旧車は並べたそばから売れるものではない。半年、1年、場合によってはそれ以上、在庫として抱えておくことは、ごく普通のこと。基本的に3か月、半年と期間を区切り手放すことはない。つまりキャッシュフローが少ない分、リスクは高まる。それを低減し補完するのがオークション部門なのだ。

2号店のコレクションホールには二輪の他、四輪も展示

2号店のコレクションホール
2号店のコレクションホール

コロナ禍では、どの二輪販売店も、いわゆる“特需”があった。旧車についても、世界規模で相場が爆上がりし、需給バランスが崩れた。ベストオートにおいても、ご多分に漏れず需要が急増した。けれども旧車の場合、基本的に成約直後に即納できる商品ではないため、長期間、待たせてしまったという。

「かなりのお客さんに長期間、お待ちいただきました。1年ほどお待たせしてしまった方もいらっしゃいます。販売だけではなくレストアも同様です。ちょうど昨日もZ1000Rローソンレプリカのレストアを受注しました。地元のお客さんですが、3か月ほどはお時間をいただいています」

仕上げまでに時間を要するのは、ごく普通のことであるため、数か月にわたるコミュニケーションが続く。これが店とユーザーとの距離を縮め信頼感を醸成するのだ。

先にも触れたが、ベストオートが最も得意とするWの平均単価は、型式にもよるが100~150万円の間が最も動く。ZⅡクラスでは、400~500万円あたりを求めるユーザーが多い様子。高額商品であるため、成約に至るまでのやり取りは最も重要だが、ベストオートでは、問い合わせに対するレスポンスはとにかく早いのが特長。場合によっては数分以内に返信している。その中では、どのようなやり取りが行われているのだろうか。

「旧車がどういうモノかを理解されてない方もいるので、まずはその説明から入ります。若い人に多いのですが、見た目のカッコよさだけで選ぶのが最も危険なので、どういう考えで買おうとしているのか、といった踏み込んだ話をします。その回答次第では、『お客様には難しいと思います』とお断りすることもあります。逆にこのお客さんなら大丈夫、と判断できたら、どこまで手を加えるべきか、など最適な状態で乗っていただけるよう様々なアドバイスをしています。ここにはメール等でのやり取りも含め相当時間を掛けます。精神誠意対応しますので、その思いはお客さんには確実に届いていると思います。あと、これは基本的なスタンスですが、転売目的の人には売りません」

仕入れた車両を在庫車として店頭に並べる際の方法だが、エンジンが掛かり乗れる状態にまでは仕上げている。だが、そこであえて作業をストップし、その状態で並べているのだ。なぜか。それは、ユーザーによりニーズが異なるからだ。

「仕上げレベルが上がれば、それだけコストがかかり価格に反映されてしまいます。ピカピカに磨き上げることも、あえてやりません。お客さんの要望は十人十色。エンジンさえ掛かれば、あとは自分でやる、という方もいますし、年代を感じさせるような、退色した色合いがいい、という人もいますから」

要は、自由な選択肢を残しておく、ということ。こうすることで、ユーザーの好みに応じた1台に仕上げることができるのだ。

旧車のレストア・オーバーホールの他、四輪の車検も行う整備工場

旧車のレストア・オーバーホールの他、四輪の車検も行う整備工場
旧車のレストア・オーバーホールの他、四輪の車検も行う整備工場

ベストオートはこの6月、2号店をオープンした。ここは店舗ではあるが、二輪の小売りを主体にしているのではない。1Fには二輪の他、四輪も展示されている。ホンダのスカッシュや迷彩カラーのウラルがあるかと思えば、その隣にはH2が鎮座。不思議なコントラストとなっている。その横にはなんと、滅多にお目にかかることのない空冷2サイクル単気筒の「トヨモーター」がさりげなく展示されている。中央には電飾をほどこしたトゥクトゥクが2台あり、その後方にはホンダのバモスもある。これらの車両は、三原統括マネージャーが本店在庫の中からチョイスしたもの。ここはコレクションホールなのだ。さらにはバイクのレンタルも行っている。

フロアには大きな窓があり、その奥には飲食店らしきスペースが確認できる。「Café Rabbit」だ。オープンから間もないが、早くも地元の人に人気のスポットとなっている。2Fには宿泊施設「ゲストハウス時代屋」がある。シャワー、ランドリーが無料で利用でき、Wi-Fiも使い放題。これで1泊3900円というリーズナブルな設定だ。2号店とは言っても、本店とは全くコンセプトの異なる店だが、オープンした理由について三原統括マネージャーは次のように説明する。

「弊社でのイベント開催やイベントスぺースとしての貸し出しなどを想定しています。バイクレンタルも行っているので、ここを拠点に楽しんでいただくこともできます。まだオープンから1か月(取材時)なので、これからですが、すでに団体予約は入っているんです」

なるほど、2号店を集客手段として位置付け、そこから1号店に誘引するというわけだ。ベストオートでは、コロナ禍を境に管理顧客がさらに増えた。先にも述べたが旧車の場合、納車までには数か月、場合によっては1年以上の時間を要する。つまり作業量が年々増加し追いつかなくなる。そんな状況を改善するため、新たな整備工場を設けた。普通小型自動車特定整備事業の認証を受け、二輪のレストアやオーバーホールのほか、四輪の車検も手掛けている。ここと本店との連携が、全体の作業効率を高めているのだ。

旧車という商品の特殊性から、一般的な販売店とは接客アプローチや応酬話法はやや異なる。だが不変なのは、ユーザーを楽しませる気持ち、と語気を強める。

「お客さんに対する感謝の気持ちと遊び心、この2つは、私の中では不変です」

そこに付け加えるとすれば、「ワクワク感」だろう。そうした考えの証左が個性あふれるラインアップと店内装飾、そして2号店の出店だったのだ。



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