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【トップインタビュー】ポラリスジャパン株式会社 藤原裕史 セールス・マネージング・ディレクター

公開日: 2023/07/11

更新日: 2023/09/21

アメリカ最古のバイクメーカーであるインディアン。2011年にポラリスインダストリーズ体制へと移行し、ラインアップや生産体制の見直しを行った。日本法人の実質的な稼働は2020年。3年間、フルイヤーでコロナ禍と重なりながらも、毎年、右肩上がりの成長を記録している。

前年同期比145%。2026年までに販売1000台体制めざす

名古屋モーターサイクルショーで名古屋米国領事館首席領事のマシュー・センザー氏と談笑する藤原ディレクター
名古屋モーターサイクルショーで名古屋米国領事館首席領事のマシュー・センザー氏と談笑する藤原ディレクター

――― インディアンほど様々な変遷を経てきたブランドは、そう多くはないと思います。現体制になったのは2011年でしたね。

藤原
 2011年にアメリカのポラリスインダストリーズがインディアンブランドを買収しました。当時のインディアンは、米国でハーレーのカスタムエンジンをベースに車両を生産するブランドでした。オリジナル製品としては2014年モデルからなので、時期でいうと2013年から車台を自社開発し製造販売を開始しています。

――― 開発部門もアメリカ。

藤原
 はい。ミネソタ州のミネアポリスの郊外に本社を構えていて、そこに企画・デザイン部門があります。アジアで最初に進出したのは中国で部品調達の会社を設立しました。現在は中国でも販売・マーケティング活動を行っています。

――― 藤原さんがポラリスに入社されるまでの経歴について教えて下さい。

藤原
 社会人としてのスタートはJTBでした。団体旅行の営業を担当していたのですが、在籍期間の三分の二は海外留学の仕事でした。その仕事の担当者は、社内には私1人しかいなかったため、JTBの社内マニュアルには、海外留学の問い合わせ先として、私の個人名が掲載されていました。そのくらい珍しい仕事でした。8年近くやっていたのですが、縁あってハーレーダビッドソン・ジャパンに転職しました。私自身、学生時代からバイクに乗っていたので、いちユーザーとしての立場から、バイクツアーの仕事なども手掛けていましたが、メーカー側の視点でバイクを見るのも面白いと思い、入社しました。その後、ドゥカティジャパン、フォルクスワーゲンを経てフリーになりました。その頃は、海外ツーリングツアーの請負業務やバイクショップのコンサルティング業務も行ってました。この仕事を2年半続けた後の2017年、当時は上海にあったポラリスのアジア拠点に入社しその後、現在に至ります。

――― 凄い経歴ですね。ポラリスでの最初の職務は。

藤原
 初めに行ったのはディストリビューターの管理業務でした。日本市場での安定基盤づくりですね。もう一つの大きな仕事は、「インディアン」の商標権を持っている企業からの買い取りです。先方とは良い関係性を構築できたので、モーターサイクルのトレードマークを譲っていただくことができました。2018年の秋頃です。それを機に日本法人を立ち上げ、準備が加速度的に進んだのです。

――― 日本法人の設立は。

藤原
 2019年1月にポラリスジャパンを設立し10月からインディアンモーターサイクルの輸入および販売をスタートしました。先ほどもお話ししましたように、設立年には市場の基盤を構築し、既存ディーラーとの関係性構築に向けた取り組みを行いました。

――― ポラリスジャパンとしての販売開始は実質、2020年ですね。

藤原
 はい。私たちが完全に業務を引き継いだ2020年は登録ベースで257台、2021年が384台。対前年149%です。2022年は462台まで台数を伸ばし、前年比120%となりました。今年については、1~4月末日現在で139台。前年同期比145%です。計画比では、ほぼトントンですね。数年以内に1000台体制を目指します。

――― 生産状況はかなり改善されたわけですね。

藤原
 今年は昨年よりも回復していますが、まだ遅れは生じています。インディアンのプラットフォームは5つに分かれていますが、ミッドサイズのセグメントに相当する1200ccクルーザーは、安定的に入ってきます。けれども、アメリカで生産しているチーフをはじめとするヘビーウェイトモデルに若干の遅れがあります。現時点では6月あたりから正常化するのでは、という見通しです。

――― 企画から生産までの体制はどうなっているのでしょうか。

藤原
 デザイン、設計については、アメリカの本社で行っています。生産に関しては、チーフをはじめとするヘビーウェイトモデルは、アイオワ州のスピリットレイクという町にある工場で生産しています。いわばインディアンの故郷ですね。スカウトシリーズとFTRシリーズ各モデルについては、昨年よりベトナム・ハノイの郊外にあるノックダウン組立工場で最終組み立てを行い、日本をはじめアジア各国、オーストラリア、ニュージーランドへの供給を行っています。最終組み立て工場としてはもう一つ、ポーランドのオポーレに工場を持っており、ヨーロッパ向けの製品はこの工場から出荷をしています。

ベースマージン20%。支払サイトは180日で、3か月分の金利負担なし

東京モーターサイクルショーのインディアンブースでのワンショット
東京モーターサイクルショーのインディアンブースでのワンショット

――― インディアンユーザーは、どんなメーカーからの代替えが多いのでしょうか。

藤原
 セグメントによって若干異なりますが、ミッドサイズのスカウトシリーズに関しては、ハーレーからの代替えが3割、新規も同等の3割、国産から3割といった内訳となっています。当初はアメリカンのみをベンチマークしていましたけど、想定以上に「アメリカンは初めて」「大型は初めて」「バイク自体が初めて」という方が多かった。これは嬉しい誤算でしたね。

――― インディアンはデザイン性に優れていると思います。

藤原
 ありがとうございます。スタートは、いわゆるオーセンティックなアメリカンクルーザーで、昔ながらのエスカルゴフェンダーをそのまま現代版に焼き直したようなモデルから始めましたが、2015年にスカウトシリーズを発表して、2019年にはFTR。新しいセグメントにポートフォリオを広げていった事実が評価されているのだと思います。ディーラーの皆さんの話を聞いても、ネットで写真を見てご来店いただき、「コレ、下さい」と言って購入されるお客様が増えているという報告を受けています。

――― 販売台数1000台の達成に向けた施策は。

藤原
 既存のディーラー数では全国をカバーできていないのが実態です。欲しくても近所で買えない、サービス拠点が遠いので不安、といった問題が販売障壁となっています。その意味では、ディーラー開発が大きな課題。現在、全国に20店舗ありますが、これを2026年までに35店舗ほどに増やす計画です。全国マップで見ると、空白地帯が多いんです。東北地方と日本海側ですね。首都圏では北関東が重点開発地域です。インディアンは、世界的な知名度は高いのですが、国内では新参者なので、できるだけ参入障壁を低くし、商売条件はディーラーの皆さんにとって高収益ビジネスとなるように推し進めています。

――― マージン設定はどれくらい。

藤原
 ベースマージンは20%。輸入車ではかなり高いと思います。支払いサイトについては、ジャックスさんと提携し最大180日となっており、最初の3か月間の金利は弊社で負担します。91日目以降の金利はディーラーに負担いていただくというフローです。つまり3か月以内に商品を回せれば、ほぼ無借金で運営できるという流れです。

――― 各ディーラーはどのように販売計画を組むのでしょうか。

藤原
 年間販売計画を立てるのですが、これは弊社ではなく販売店側が行います。これに基づき車両を発注し販売していただきます。決して弊社側から、年間何台、というノルマを課すことはありません。地域によって需要特性も違うので、ディーラーが売りたい車両を売りたいだけ売っていただく、という考えです。車両展示については、エンジンタイプを4種類ラインアップしていますので、最低でも4台は展示するようお願いしています。試乗車についても2台は置いていただいています。

――― 新規ディーラーに対する研修内容は。

藤原
 技術トレーニングはもちろんですが、販売やブランドトレーニング、商品トレーニングといったプログラムをウェブ形式で提供しています。一例を挙げると、インディアンブランドに関するレクチャーや新商品情報などに関するトレーニングですね。

――― ポラリスジャパンが設立される前から活動しているディーラーの比率は。

藤原
 約半数が前体制からの方々です。我々よりもキャリアの長い方ばかりなので、逆にこちらが教えていただくこともあります。小売りの現場で毎日お客様と向き合っているディーラーからのご意見は、とても貴重な情報です。こうした関係性は、今後も大切にしたいと思っています。

パーツは専用倉庫に1200アイテム、2万7000点をストック

昨年初開催された「インディアンモーターサイクルライダーズデイ」。遠くは札幌や沖縄から訪れたユーザーも
昨年初開催された「インディアンモーターサイクルライダーズデイ」。遠くは札幌や沖縄から訪れたユーザーも

――― パーツの供給体制について教えて下さい。

藤原
 国内にパーツの専用倉庫があり、そこから全国に発送しています。発注時間にもよりますが、早ければ翌日にはディーラーに届きます。ただ、コロナの影響などから、日本だけではなく、本国でも欠品するようなケースが発生しております。場合によっては、お待たせしてしまうこともありますが、早急に体制を強化していくことが課題の一つです。現在、1200アイテム2万7000点をストックしています。

――― 既存ユーザーや新規ユーザーに対するアプローチについて注力していることはありますか。

藤原
 我々は単にバイクを売っているだけではありません。製品を通じた“お客様体験”を重視しています。具体的には、モーターサイクルだけではなくアクセサリー類やアパレル品も取り揃え、バイクを中心としたインディアンワールドを楽しんで貰おう、というものです。また、イベントを通じてインディアンの世界を楽しんでいただけるような演出にもポイントをおいています。イベントについては、世界規模で展開しているインディアンモーターサイクルライダーズ(IMR)という組織があるのですが、それを日本でも設立し、オーナーの方には会員になっていただいています。メンバーには弊社からの各種情報の提供をはじめ、IMRメンバーを対象としたイベント開催などが主な内容となります。去年は10月に初めてインディアンモーターサイクルライダーズデイを開催しました。いわゆるオーナーズイベントです。同好の士が集まり楽しむという機会を提供しました。今年は8月と10月の2回開催します。単にバイクを買って乗るというだけではなく、カスタムすることでパーソナライズするといったことに力を入れています。

――― 初開催の大規模イベントはどうでしたか。

藤原
 清里で開催したのですが、150台のバイクが集結しました。遠くは札幌や広島から参加された方もいらっしゃいました。他メーカーの車両もウェルカムなのですが、全体の6割がインディアンユーザーでした。日本にいるインディアンのオーナー数はおおよそ2000名ですが、そうした方のなかからタンデムを含め約300名もの方々が来場されました。すごい参加率だと思います。1デイイベントだったのですが、今年はキャンプイベントも開催しようと考えています。インディアンは最古のバイクブランドなので、そういうカルチャー的な情報も発信していこうと考えています。1デイイベントは10月に、キャンプイベントは8月に実施予定です。

――― カルチャー的な情報とは。

藤原
 ご存知の方も多いと思いますが、いまから16年前、アンソニー・ホプキンス主演の『世界最速のインディアン』という映画が公開されました。当時、私は映画館で観て涙を流した記憶があります。あの映画の制作には日本人が関わっていたことから、実は日本に35mmのフィルムが現存していることが判明したのです。そこで去年、8月のバイクの日に横浜で3日間、トークショーを交えた単館上映を行いました。今年のキャンプイベントでは、夜の出し物の一つとして上映を企画しています。さすがに35mmフィルムは回しませんけどね。

――― 魅力的なトピックですね。

藤原
 インディアンってそもそも立ち上がりの時から先駆的なことで知られているブランドなのです。大胆不敵先駆的なイノベーターを標榜してきたメーカーなので、そこは現在のポラリス体制となっても大切にしていこうと考えています。全世界的に展開しているので、そういう意味でいうと、昨今の例では2017年に60年振りにアメリカのフラットトラック選手権にフル参戦で復帰したのですが、以降、シリーズ6連覇中です。高い技術レベルの証であると言えます。2020年から始まったキングオブバガーズという、超重量級ビッグバイクをカスタムして走行する、アメリカらしいレースがあるのですが、これも昨年、シリーズ優勝を遂げました。こうした、インディアンのDNAを大切にした活動は、今後も続けていきます。

ディーラー間で車両を融通し販売機会の損失を防ぐ

レッドウィングとのコラボモデル。シートやバッグにはブーツと同じ素材を使用
レッドウィングとのコラボモデル。シートやバッグにはブーツと同じ素材を使用

――― 既存の“インディアンユーザー像”について教えて下さい。

藤原
 先ほどもお話ししましたが、大型はインディアンが初めて、という方や、初めて乗るバイクがインディアンという方もいます。ミッドサイズのスカウト系だと平均年齢は低くなります。扱い易いという人が多いですね。指名買いで購入されたお客様の3分の2は全くの新規の方です。あとはチーフ。このモデルについては、様々なメーカーからの流入が多いですね。FTR以上の大型車種に関しては、アメリカンからの流入率が高い。でも総合的に見ると、特定メーカーからというよりは、幅広い志向のお客様に乗っていただいています。参考までに平均単価は250万円ほどです。年齢層も低く、スカウトなどは20代の方に人気なのが特徴です。

――― 若い人が多いと、ステップアップにもつながる。

藤原
 期待できます。売上の半分をスカウト系が占めていますからね。

――― ディーラーとのコミュニケーションツールはあるのでしょうか。

藤原
 共通のツールを使っています。24時間の問い合わせ対応だったり、弊社からの重要連絡を掲示板に記したり。例えば、BDS REPORTに記事が掲載されました、などもお知らせします。最も大きな機能は、車両情報です。すべてのディーラーの在庫状況を確認できるもの。何色のどの車種がどこの店にあるのか、フリー在庫なのか、商談が掛かっているのか、といった情報をディーラーにアップデートしていただいています。こうすることで、必要に応じディーラー同士で車両を融通し、販売機会の損失を防ぐことができるのです。

――― 今後のディーラーとのリレーションやビジネス展開について重視していることは。

藤原
 難しい質問ですね(笑)。一つは、ディーラーにとっての高収益なビジネスの提供です。主には販売条件に関するところになります。ここは最も重要なポイントの一つです。もう一つは、これは私の個人的な思いが強いのですが、金太郎飴のように、どの店も同じ、といった販売ネットワークにはしたくないと考えています。ディーラーにはそれぞれの特長を前面に押し出していただきたい。例えばイベントだったら誰にも負けない、とか、店内スペースにはお客様に楽しんでいただくカフェがある、など、特色のあるディーラーネットワークにしていきたいですね。アメリカに倣え、ではなく日本ならではのインディアン文化を醸成していきたいと思います。

――― 例えばどのようなもの。

藤原
 インディアンでは世界的にカスタムに力を入れているのですが、その流れで去年、ホットロッドカスタムショーにブーツメーカーのレッドウイングとコラボし、ブーツと同じ革でバッグやシートなどを装着した車両を出しました。また、モーターサイクルショーでは、B’zの稲葉浩志さんのFTR1200Sを展示しました。最近人気の大澤君というカスタムビルダーの手によるもので、タンクやフロントフェンダーなどステンレスの質感を強調した仕上がりです。こうしたイメージ戦略に加え、サーキット試乗会も開催しています。インディアンを通じて幅広い意味でのモーターカルチャーを広めていきたいと考えています。

――― なぜ、レッドウイングなのでしょうか。

藤原
 弊社の本社はミネソタ州にあり、100年ほどの歴史があるのですが、レッドウイングも同じくミネソタ州で100年の歴史を持つ企業なのです。以前、インディアンでマーケティングを担当していた私のカウンターパートがレッドウイングに転職したのですが、その関係で「一緒に何かできないかな」という話から実現したものです。販売台数を伸ばし、多くの利益を生みたいという思いは当然ありますが、それだけではなく、我々の製品を軸に、バイクの魅力を広められる存在になりたいというのが我々の願いです。



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