公開日: 2026/08/27
更新日: 2026/08/31
800台という圧倒的な在庫台数を強みに、バイクショップRを熊本県トップクラスの販売実績を誇る一大拠点へと発展させた山野和明社長。同氏は新車販売の納車整備手数料カットや、6名の女性スタッフ雇用による機動力強化など、独自の取り組みを次々とカタチにしてきた。現在、5年前から現場運営を牽引する次世代への確実な事業承継に向け、そのロードマップを着々と進めている。
熊本県トップクラスの販売実績を誇るバイクショップRでは昨年6月より、新車を販売するにあたり、ある取り組みを始めている。それは、納車整備手数料をカットすること。それまでは、原付一種と二種は1万3200円、軽二輪は3万3000円、小型二輪は3万8500円を、車両本体価格に上乗せしていた。けれども、この納整手数料をゼロにしたのだ。
「そもそも納整手数料は、かつて新車の激しい安売り合戦が始まった時、お店が利益を確保するためにいただくようになった歴史があります。けれども現在は、メーカーの計画生産などによって、定価で新車を販売する時代へと回帰している。であれば、メーカー希望小売価格で販売する代わりに、納整手数料は受け取るべきではないと考えたのです。当然、この手数料をゼロにすることは、自社の利益に多大な影響を与えるため、悩みに悩みました。それでも私は、いくらでこのバイクを買えるのか、というお客さんの分かりやすさを優先させたかった。また、総支払額を安くすることで、とにかくお客さんに喜んで欲しかったのです」
実際にバイクショップRの店頭に並ぶ新車のプライスカードを見ると、メーカー希望小売価格に、登録申請代行費と自賠責保険料1年分が上乗せされた、支払総額が分かりやすく明記されている。この納整手数料をカットする大胆な取り組みは功を奏し、販売台数は右肩上がりを記録しているという。
さらに、バイクショップRの大きな特長として、多くの女性スタッフが活躍していることが挙げられる。同店では山野社長を含め、営業事務12名、整備士10名の計22名が勤務しているが、そのうち6名が女性なのだ。積極的な雇用の背景について、同氏は女性ならではの強みが欠かせないからと話す。
「接客において、女性はきめ細やかで丁寧な説明ができるだけでなく、お客さんのちょっとした不安も敏感に察知する。そのため、お客さんは相談がしやすくなり、初めてバイクを購入する方のハードルを下げることもできる。昨今、二輪業界でも女性スタッフが増えてきていますが、私は昔から雇用し続けています」
また驚くべきは、4名の女性スタッフは接客や事務作業がメインとなるが、残りの2名はタッグを組み、BDS九州会場への車両出品、さらには、ユーザーからの買取業務も担当していることだ。
「買取に出向いた時、お客さんにはものすごく驚かれます。ハイエースへのバイクの積み込み作業は、確かに男性なら1人でできるかもしれませんが、女性2人で協力して行えば何の問題もありません。それに、買取も接客と同じ。女性スタッフが伺うことで、お客さんはこのお店なら任せても大丈夫と、安心してくれるのです」
事務職という枠に収まらず、買取営業まで担当する彼女たちの存在は、バイクショップRの強力な機動力となっている。女性スタッフが活躍する同店に、多くの女性ユーザーが訪れるのは、当然の流れと言えるだろう。
ユーザー目線に立ち、分かりやすい価格表記の設定や親身な接客などを通じて、顧客満足度を高め続けてきた山野社長。同氏はそれと同じくらい、スタッフの満足度向上にも力を注いでいる。
その一環として2024年より導入しているのが、商工中金グループが提供する組織診断ツール「幸せデザインサーベイ」。これはスタッフに幸せに関する様々な質問を回答してもらい、会社全体の幸福度を可視化するアンケート調査。この結果について、「平均よりも高い数値だったので、本当に嬉しかったです」と、表情を綻ばせて語る山野社長の姿が印象的であった。
バイクショップRでは10年以上前から、家族や自分の時間を大切にして欲しいという方針のもと、残業ゼロと完全週休2日制を原則とした労働環境を実現。ところが、山野社長が意図しない現象が、自然発生的に起きているという。営業開始時間は10時からであるにもかかわらず、一部のスタッフは自発的に8時に出社し、それぞれの業務を始めているのだ。
もちろんこれは強制ではなく、自主的な動きである。早出分に対しては、キチンと残業代を支給。これはスタッフ一人ひとりが主体性を持って行動している証拠であり、職場への信頼と愛着があるからこそ、できることなのだろう。
このように、スタッフの満足度向上にも力を注ぐ背景には、山野社長自身の経験が関係しているという。
「実は39歳の時に、鬱病を患っているのです。完全に復帰するまでに、10年もかかりました。その間、必死にお店を切り盛りしてくれたのは妻(明子さん)でした。家内には感謝してもしきれません。また私が病気になったと聞いて、わざわざ他の会社から戻って来てくれたスタッフもいました。当時は何もできず、何もかも頼むしかなかった。この経験を通じて、人の支えがいかに大切であるかを身に染みて感じたのです。いまは、誰かのために何かをしたい、という気持ちが、私の原動力になっています」
現在、山野社長が自ら行う業務は、銀行との交渉や財務管理、車両仕入れの最終承認、SNSの企画案出しなど、一部の重要案件に留めている。これは、事業承継を見据えてのこと。バイクショップRの現場運営は、5年前からご子息の宏専務が中心となり、実質的な舵取りを担っているという。
「仕入れ計画の策定やメーカーとの交渉、車両の売り出し方など、息子と工場長には自分たちで考え、責任を持って主導して欲しいという思いがあります。そのため、あえて指示は出さず、ヒントを提示する程度に留めているのです。また、私の社長としての権限を一部残しつつも、9月の決算までに持ち株をすべて息子に移します。9月以降は税理士などの専門家を交えて、さらに経営の勉強を重ねてもらう。そして、5年以内にはすべての権限を委ね、完全にバトンタッチする計画です」
奥様をはじめとする家族、そして多くのスタッフに支えられながら一歩一歩着実に歩みを進め、バイクショップRを熊本県トップクラスの販売実績を誇る一大拠点へと築き上げた山野社長。顧客満足度だけでなく、スタッフの幸福度も高め続けてきた同氏の人間味溢れる利他の心は、次世代の宏専務やスタッフが担う同店のさらなる発展を、これからも力強く支えていくだろう。
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