販売店取材注目

【販売店取材】株式会社広島オートバイ販売 小笠原真 社長(広島県) <後編>

公開日: 2024/10/04

更新日: 2024/11/11

年間販売台数、約3000台。複数年にわたり、広島県で販売実績上位を走り続ける株式会社広島オートバイ販売。小笠原真社長は、業績を伸ばしていきながら、スタッフ待遇や労働環境の改善など社内改革を実行。社長就任後、広島県だけでなく、全国でも上位の販売台数を誇るまで、業績を進化発展させてきた。その背景には、スタッフ第一主義の経営があった。

スタッフの自主性を育むため3つの会議を毎月実施

写真は出汐店の様子。同店は4階建となっており、排気量毎に各メーカー車両を展示している
写真は出汐店の様子。同店は4階建となっており、排気量毎に各メーカー車両を展示している

HOHは、国内4メーカーとKTMの正規取扱店。昨年の販売台数は、全店合わせて約2800台。ただ、同店では2021年、コロナ禍の混乱によって新車の供給が滞る中、この時も事前に大量の在庫車両を仕入れていたことが奏功し、過去最高となる3200台以上の販売台数を記録している。

販売比率は新車が約8割となっており、メーカー比率ではホンダが5割以上を占める。また、人気が高いのは、原付二種と軽二輪。これには、地価が関係している。HOHが5店舗を展開する広島市は政令指定都市。中心エリアの月極駐車場は、最低でも3万円だ。車ではなく、バイクを生活の足として使うユーザーが多いことから、昔から原付二種と軽二輪が人気なのだと言う。

同社では新車の仕入れは、小笠原社長が全店分を一括で実施。大量に発注することで、販売価格を抑えている。また、中古車については、各店の店長が交代制でBDS柏の杜会場に直接足を運んでいるという。

「各店長には、自店で販売するバイクのみを仕入れてもらっています。こうすることで、店長は利益を出すために、相場や流行について勉強するなど、必死になります。HOHでは毎日、店舗ごとに何色の新車、そして中古車が売れたかを報告してもらい、全店に共有。努力を怠らない店長は、結果を出し続けてくれています」

広島県、そして全国でも上位の販売実績を誇るHOHだが、小笠原社長はバイクを販売する上で、スタッフに求めていることが2つある。

❶ 長期在庫となったモデルを、セールストークを駆使していかに上手く販売できるか
❷ 保証やセラミックコーティングなどの付加価値を、どれだけ付与できるか


1つ目について、同氏は次のように説明する。

「ホンダであれば、PCX125がよく売れています。ただ、人気車種は誰でも販売できる。重要視しているのは、長期在庫車両をどれだけ売るかです。あとはカラー。モデルによってはなかなか売れないカラーがあったりします。例えば、ホワイトが人気カラーで、グレーが不人気色だとします。その場合は、グレーの方が汚れが目立ちにくいですよ、と言えばお客様の気持ちが変わるかもしれない。お客様の『このバイクのホワイト下さい』という要望に対し、スタッフは『はい分かりました』で接客を終わらせて欲しくないのです」

続いて、2つ目について。HOHでは新車販売時に、メーカーが設定する2年間保証に、同社オリジナルの3年間を加えた、計5年間の保証や、セラミックコーティング「LAVORO」などの付加価値をオプションとして設定している。

「正直、私は誰が何台売ったかは、そこまで重要視していません。なぜなら、来店客を増やすために、店長が需要のある中古車を仕入れ、早く仕上げられる体制を整えるなど、お客様から信頼される店作りをしっかりと行っていれば、ある程度バイクは売れるからです。バイクを売る上で問われるのは、お客様との対話の中で、長期在庫車両をオススメしたり、付加価値を提案するスタッフの接客スキルです」

約150人のライダーが参加した「HOH祭り」。イベントの企画力も同社の強みの1つ
約150人のライダーが参加した「HOH祭り」。イベントの企画力も同社の強みの1つ

会社として利益を上げるため、スタッフのスキルアップを追求し続ける小笠原社長。同氏は、彼らの意見を積極的に取り入れるため毎月、「店長会議」「副店長会議」「SNS会議」、3つの会議を開催している。それぞれ、紹介していく。

店長会議では、HOHの新規事業をメインに話し合う。前述のスタッフ待遇や労働環境の改善なども、小笠原社長が単独で行ったのではなく、どのように進めていけばいいか、各店長の意見を取り入れながら実施。また、今後やってみたいことなど、様々な企画案を提案してもらっていると言う。

続いて、副店長会議では、HOHのイベントをメインに話し合う。同社では店舗ごとに年に2~3回イベントを実施しているが、それとは別に年に1回、全店合同のツーリングイベント「HOH祭り」を開催。昨年は約150人のユーザーが参加した。今年は、タイヤメーカー「IRC」やバイク用品メーカー「RKジャパン」のブース出展、ビンゴ大会を目的地で予定するなど、大規模なイベントとなっている。

そして、2021年より始めたSNS会議には、各店の若手スタッフが参加。Xやインスタグラム、YouTube、TikTokなどの内容や運用について話し合い、投稿や動画編集も行っている。

スタッフの意見を取り入れる理由について、小笠原社長は次のように語る。

「父は創業から店を大きくしていった手腕があり、トップダウンの経営をしていました。ただ、私にはその力がなく、また、スタッフの自立性を大切にしたかったので、彼らの意見を取り入れるボトムアップ型の経営にシフトしたのです。私や店長だけでなく、スタッフ全員がHOHを自分の店のように考えて働いてくれれば、ウチはもっと成長できると思います。私1人では限界がある。スタッフが私の考え方や、やりたいことを理解して付いてきてくれた。そして、彼らが頑張り続けているから、さらには、会長たちが会社の土台を築き上げてくれたからこそ、いまのHOHがあるのです。優秀なスタッフと一緒に働ける私は、運に恵まれています」

年間約3000台を販売し、複数年にわたり広島県で上位の成績を収め続けているHOH。輝かしい実績の背景には、小笠原社長の優れたリーダーシップとスタッフ1人ひとりの努力があるのだ。

営業最終日、スタッフに叱咤激励の“ラブレター”を送る

野球少年であった小笠原社長は昨年、長年の夢であった「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム」への広告掲載を実現した
野球少年であった小笠原社長は昨年、長年の夢であった「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム」への広告掲載を実現した

小笠原社長は平日、事務所で各店の売り上げデータ分析や収支確認といった数字の管理をはじめ、二輪メーカーや保険会社、銀行の営業マンとの折衝を含む接客対応などがメイン業務となる。それに加え同氏は毎週土日の午前中、各店に足を運び、スタッフとコミュニケーションを図りながら、店舗の様子を視察。スタッフの動きを確認している。

この他、13時~13時30分までの間、接客や整備などのサービス業務、そして電話対応も休止した昼休憩を導入したり、勤務時間の1時間短縮、残業時間の削減など、スタッフの働き方改革も行い続けてきた小笠原社長。そんな同氏は、彼らの仕事ぶりを評価する仕組み作りも行っている。HOHでは毎年11月、1人30分の個人面談を実施。同社では現在、約40人が勤務しているが、面談は店長を含めた各店舗のスタッフ25人を対象に行っている。

この個人面談を行うにあたり、小笠原社長は「自己評価表」というものを使用している。取材時拝見させていただいたが、すごいな、というのが素直な感想。この評価表は、自分自身の働きぶりについて、社訓である「笑顔・礼儀・管理・感謝」をはじめ、身だしなみや挨拶、オートバイに関して勉強しているか、自店への貢献度など、全15項目を8段階、120満点で評価する。また、ただ数字を選ぶだけでなく、上司・同僚・会社に対する要望や提案などの自由意見、今後の目標を記入する欄も設けられている。

スタッフは10月に「自己評価表」を配布され、約1ヵ月間の時間が与えられる。すぐに終わらせよう、では済まされない内容だ。小笠原社長はスタッフの自己評価に対し、社長評価の点数を付けていく。

「人によって評価の仕方は変わってしまうので、HOHでは、先ほど述べた5年保証やセラミックコーティングといった付加価値を車両販売時にどれだけ付与できたかなど、業務実績を個人単位で必ず数値化。それをもとに人事評価を行っています。数字には表れない普段の取り組み姿勢については、各店長から話を聞いて判断します」

社員旅行での1枚。小笠原社長はスタッフの労をねぎらうことも惜しまない
社員旅行での1枚。小笠原社長はスタッフの労をねぎらうことも惜しまない

このように、スタッフの頑張りをしっかりと評価するため、1人ひとりと真摯に向き合う小笠原社長。同時に、彼らの労をねぎらうことも惜しまない。同氏は、年に複数の社内イベントを実施している。全店舗のスタッフで飲みに行く「納涼会」と「忘年会」、パートも含めた女性スタッフのみで行う「女子会」、極め付けは、小笠原社長自ら企画する「社員旅行」だ。

「毎月の給料から3000円、年間で3万6000円を積み立て、あとは会社持ちです。また、結婚をしてお小遣い制のスタッフもいるので、現地で楽しめるようお小遣いを1万円、副店長には2万円渡しています。行き先はみんなの投票で決めており、過去には石川や沖縄などに行きました。今年は2泊3日で函館と札幌に行きます」

これらの社内イベント以外にも、小笠原社長がスタッフをどれだけ思っているか、窺えるものがある。同氏は毎年12月の営業最終日、スタッフに対して叱咤激励を綴った、全員共通の“ラブレター”を送っているのだ。

そこには、各店舗における年間の販売実績をはじめ、5年保証やセラミックコーティング受注件数、中古車・オークション・修理粗利など、1年間の総括が記載されている。また、日頃の感謝を綴る一方で、成績が思わしくない店舗のスタッフについては、個人名も明記して発破をかける内容などが、A4用紙2枚にビッシリと書かれている。

その中で、スタッフへの期待の表れ、と取れる内容があったので、一部要約して紹介する。

「成長しているスタッフは個人面談の自由意見欄に、こういうことをやりたいので私にやらせて下さい、と自分発信の意見を書いてくれています。決して、他力本願ではありません。この意味を考えてみて下さい。スタッフ全員がレベルアップし、『笑顔・礼儀・管理・感謝』を忘れず、共に力を合わせて来年成長できることを期待しています」

現状に満足することなく、常に先を見据え、スタッフの成長を促し続ける小笠原社長。同氏はHPの代表メッセージに、「スタッフが一番大切です」と記載している。利益を追求するだけでなく、スタッフが働いて良かったと思える会社作りを行い、雇用を守り続ける。これが“真”の社長の姿なのだろう。そう感じさせられる取材だった。

前編はコチラから!!



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