公開日: 2025/11/24
更新日: 2025/11/27
2024年、BMWモトラッドは同社初となる国内販売台数6208台を達成した。好調要因は「体験を売ってライフスタイルブランドへとシフト」したことが大きなポイント。そのため、ディーラーでは展示ルームを「ショールーム」ではなく「フィールルーム」という呼称に統一するなど、イズムの浸透は加速度を増している。
汐留(東京都港区)に本社を構えるビー・エム・ダブリュー株式会社。ドイツのBMWAGの100%子会社として1981年に設立された。当時、日本では四輪を中心にBMWの販売シェアはどんどん高まっていた。いまでは就職難易度の高いグローバル企業として高い人気を誇る。
――― かつてリー・ニコルス氏が日本のトップを務めていた頃、取材させていただきましたが、今回は2度目となります。大隅GMは今年1月に着任され8か月以上が経過しますが、現在までの経歴について教えて下さい。
大隅 大学を卒業後、入社しました。いわゆる生え抜きです。学生時代からバイクに乗っていましたが、すべて国産でこれまで何台も乗り継いできました。大学4年の頃、北海道にツーリングに行ったのですが、帰宅したその日、何気なくテーブルに置いてあった新聞を手に取ると、求人欄にBMWの社員募集広告が出ていました。「これだ!」と直感し、即座に応募しました。面接では当時の人事担当者に、入社したら二輪の仕事をしたい、という強い思いを伝えたところ、入社後すぐに二輪部門に配属が決まりました。最初は十数年ほどマーケティングを担当し、その後10年間、営業にも携わりました。四輪もやってみないか、という話もありましたが、結果的には二輪ひと筋で現在に至ります。
――― もしその時、新聞を見なければ、BMWへの入社はなかったかもしれませんね。
大隅 そうかもしれません。当時、本社は幕張にあったのですが、クルマやバイク通勤が認められているので、これはいい、と。私、電車があまり好きではなかったので(笑)。
――― BMW Motorrad(以下、BMW) は2024年に販売台数が6208台と6000台の大台を超えたことで話題になりました。
大隅 BMW初の6000台超えです。2021年には5886台にまで伸ばしたのですが、その後は横ばい推移でした。昨年、達成できたのには2つの理由があります。1つは新機種の導入によるラインアップの拡充です。プロダクトによる下支え効果は非常に大きいと思います。今年も1月から8月まで好調に推移しています。もう一つは、“体験”を売り、ライフスタイルブランドへとさらにシフトしていったこと。これは、ここ何年もディーラーと一緒に取り組んできました。一例を挙げると、メーカー主導によるイベント開催もありますが、それ以外にも地域のディーラー同士が集まり共同開催したり、あるいはディーラー単独での開催もあります。こうしたイベントを通じ、まずは見込み客を発掘しショップに足を運んでいただき試乗してもらう。ここにかなり力を入れています。販売台数が伸びているのは、こうした努力が背景にあるからだと思います。
――― ライフスタイルブランドとは、“BMW のある生活”を提案するブランドということ。
大隅 いまは、その色をさらに濃くし始めた感じです。だから、ディーラーのショールームのことも、「Show」ではなく「Feel」、つまり体感していただく空間という意味で「フィールルーム」と呼んでいます。CIそのものを変更したのです。
――― 言葉と意識の双方の変革ですね。では実際に「感じて」もらった結果、全体をけん引するようになったモデルは。
大隅 今年について言うと、R1300GS Adventureです。昨年末から日本でも発売を開始しました。R1300GS AdventureとスタンダードモデルのR1300GS、そしてスーパースポーツのS1000RR。こうしたモデルを中心に、今年はR12nineTのメタリックペイントのR12Sという限定車を200台リリースし、それがかなり伸びています。2025年は特別な年で、スペシャルモデルを合わせると15モデルあります。台数をけん引している大きな理由といえるでしょう。二輪業界全体で見ると、以前に比べニューモデル効果は短くなっているように感じます。けれどもBMWの場合、ライフサイクルが長いんです。必ずしもリリースされた年にドカンと売れるわけではなく、ジワジワと効果が持続します。つまり息が長い。これが特徴といえるでしょう。R1300GSのようなマルチパーパスモデルの人気は世界的な傾向で、徐々にアドベンチャーバイクでツーリングを楽しむという方向にシフトしています。20年前はビッグオフロードバイクのセグメント自体がさほど大きくなかった。でもそこから、GSに力を入れるようになった。国内メーカーもアフリカツインとかテネレとかVストロームだとか色々とリリースしているので、やはり伸びるセグメントであると実感しています。今年は8月に2車種リリースしたため、1~8月累計では前年同期比108.2%となりました。今年はさらに上を狙っていきます。あと約4か月(取材時)あるので何があるか分かりませんが、狙っていきます。
――― BMWユーザーの平均像はどんな感じ。
大隅 平均年齢で言うと50代オーバーです。自工会のデータを見ると、二輪全体でも50代を超えていますが、そう大きくは変わらないと思います。かつてはいわゆる「上がりのバイク」といったイメージを持たれていた時期もありましたが、いまはガラッと変わり、初めてのバイクがBMWという20代の方も増えています。また、50代で初めて免許を取得した方もいます。お客様の層はだいぶ広がりましたね。自営業が多く、イベントとかでお会いする方たちも、ゆとりのある方が多い。BMWはプレミアムブランドと言われてますが、その価値と価格の関係をいかに理解していただくかがポイント。我々が重要視しているのは、ディーラーのスタッフが自らBMWを“体験”し、その良さをお客様にどう伝えるか、というところ。新製品が出ると、販売店向けトレーニングとして、セールススタッフがタイに行き、GSに乗ったり、それ以前では、サルデーニャ島でツーリングを行ったり、あるいはサーキットを走ったり・・・。そこでの体験談をお客様にお伝えするんです。
――― ただ売るだけではなく、売る側の“体験”そのものを伝えることで、リアリティが伝わるし説得力も生まれます。
大隅 そう思います。ディーラーの方々とお話ししても、「あの時、ドイツでバイクに乗った時はああだった」という話が引きも切らない。BMWには報奨プログラムがあるのですが、二輪関連で去年、優秀な成績を納めたディーラーは、今年7月にドイツ本社が開催した『モトラッドデイズ』という大規模イベントに参加しました。アウトバーンを走行し、ベルリンの工場を見学するというプログラムでした。一昨年はマン島TTレースを見学コースに加えました。バイク関連の体験ができるプログラムを組んでいます。
――― 日本のマーケットは世界で見てどれくらいの位置づけなのでしょうか。
大隅 残念ながらベスト10圏外なんです。ドイツをはじめフランス、イタリア、スペイン、アメリカあたりがランキング上位です。メキシコでも人気が高く日本よりも売っています。アジア圏では中国、インドが上位。いつの間にか大きな市場になっていますが、アジア圏は排気量の少ないバイクが主体です。日本はこれらの国よりも台数的には少ないけど、ドイツ本社では日本市場を重要視しています。国内4メーカーのホームグランドなので、ここでどれだけ伸ばせるかがポイントだからです。日本のお客様が製品に求める水準は相当高い。だから、日本市場で認められることは、高いクォリティを維持している証であると考えています。
――― 現在、日本国内にはどれくらいの正規ディーラーがあるのでしょうか。また、件数目標はありますか。
大隅 64店舗(2025年9月現在)です。店舗の拡大については、難しい問題で、いいパートナーとのめぐり逢いには複合的な要素が関係します。そのため件数目標は設定していません。ただ、まだディーラーのない地域もあるので、拡充は考えています。地域で言うと盤石なのは東名阪。輸入車の中ではBMWが最も台数を取っているエリアです。ただ、そこから西に行くと、少し弱くなるので、そこは今後の店舗政策の課題です。
――― 新規需要の取り込みに向けた施策としていま、力を入れていることは。
大隅 まずはイベント開催です。来場者の属性は、既納のお客様や見込み客が多いと思います。キャンペーンだと、9月8日から開始した電動の『CE02』と『CE04』をプレゼントする、というキャンペーン『BMW MOTORRAD DAYS JAPAN20回記念 FOREVER GREEN with HAKUBA キャンペーン』を展開しています。あとは何年も続けているものですが『100日間モニターキャンペーン』も行っています。当選者には新車を提供し100日間、使っていただく。これはよく開催していますね。申し込まれる方も様々で、初めてBMWに乗る方もいれば、何台かBMWを乗り継いできている方もいます。S1000RRやM1000RRもそうですが、カタログ上の数字には表れない楽しさは必ずあるんです。もし、東京都内で15分ほど試乗しても、残念ながら本来の良さはほとんど分からない。つまり長期間乗っていただくことで、ポテンシャルを理解していただきたいのです。キャンペーンで実際にお乗りいただくのは3名ほどですが、乗った時の感覚を持ち続けているので、直後ではないにしても、最終的には購入に結びついていると感じています。こんな方もいました。R1250RSを昨年購入し、日常の足として使っているそうなのですが、この夏、1週間ほど東北までツーリングに行ったらしいんです。その時、初めて真価がよく分かった、と。
――― BMWユーザーは現金で買う人が多いのでしょうか。それともローン?
大隅 BMWにはファイナンス会社がありまして、そこを利用される方は3割強です。あとはご自身で銀行から借り入れたり、あるいは他の信販会社の利用だったり。全体では半数の方がローンを選択します。私たちとしては、ファイナンス利用を推奨しています。理由はその部分でもお客様との接点が生まれるからです。例えば購入から3年が経過した頃、「そろそろ終わりますが、どうしますか?」とかね。最近は、例えば300万円をポンと現金を出して買うことができても、あえてローンを組む方もいます。その理由は、その300万円を元手に運用するからです。
――― 資産運用と絡めて考える方もいるわけですね。購入にあたっては、ストックロケーターを用いる人が増えていると聞きます。どのような仕組みなのでしょうか。
大隅 これは販売車両をBMWが一元管理するシステムです。日本市場向けに生産されたBMW在庫車の中から、オンラインで即納可能な車両の検索ができます。手順は、お客様が気に入った一台を見つけたら、次に購入を希望する正規ディーラーを選んでいただきます。そのディーラーで契約を締結すれば車両を購入することができるという流れです。つまり、店は在庫を持たない。あるのは試乗車なんです。ユーザーの購入機会は確実に高まっています。
――― 従来の流通形態やディーラーの在り方を変えそうですね。A店、B店、C店と3店のディーラーがあっても、例えばC店の販売機会が奪われるようなことはない。
大隅 そういうことです。ディーラーにとっては、販売機会は全て平等で、売りたいだけ売れるということ。かつては資金力の豊富なディーラーであれば、仕入れ台数も多かったけれどその分、在庫コストはかさみます。いまはデモ車(試乗車)を持つコストはあるけれど、それは以前からあったものですからね。
――― ユーザーが実際に来店した後の流れは。
大隅 お客様が「このバイクに決めます」となったら、ディーラーが発注します。在庫車は「新車整備センター」という場所にあるのですが、箱で届いたバイクが組み立て済みであれば、九州だと稼働で8日ほどかかりますが、首都圏なら稼働4日で店に届きます。届いたら登録し納車、という流れとなります。実は世界中でこの仕組みを導入しているのは、オーストラリアと日本だけなんです。最初に導入したのはオーストラリアで3年前です。なぜドイツ本国で導入していないのかというと、ヨーロッパには、小売店は在庫を持たなければならないという規制があり、そのためにシステムを適用できないのです。今後、欧州を除く国では広がる可能性はあると思います。
――― こうしたエポックメイキングな仕組みは、販売を加速する可能性を秘めているように感じます。現在のBMWの立ち位置を10年前と比べてみて感じることは。
大隅 私が入社した1998年当時の販売台数は2500台ほどでした。あれから20年以上経過しましたが、その間に倍増しています。BMWは販売面においてあまり大きな上下動はないんです。もちろん対前年で台数が下回ることはありますが、長いスパンで見れば、緩やかに右肩上がりで推移している。この事実は非常に特徴的で、他のブランドにはあまり見られないことだと思います。その理由として考えられるのは、先ほども少し触れましたが、20年前にはツアラーくらいしかラインアップされてませんでしたが、そこにスーパースポーツが加わり、スクーターが加わり、さらにはRnineTなどのヘリテージ系バイクも加わるなど、魅力的なプロダクトによる下支えがかなり強化されました。最大のポイントは、そうした環境を背景にディーラーが絶え間なく努力してくれているところが全てと言えるでしょう。
――― BMWの教育体制について教えて下さい。
大隅 教育プログラムとしては、技術的トレーニングや販売スキルに関するトレーニングなどがあります。新しいスタッフが入社したらディーラーにこれを受けていただきます。新製品がリリースされたタイミングで行うプログラムも完備しています。千葉の幕張に「BMWアカデミー」というトレーニングセンターがあるのですが、そこでメカニックも営業もすべて集まりトレーニングを受けます。ブランドトレーニングなど、一部にはオンラインで参加するトレーニングもあります。
――― 販売台数も過去最高を記録し順風満帆に思えますが、直面している課題は。
大隅 ディーラースタッフの拡充です。人材が不足しているところが多いんです。これはどの業界もそうだと思いますが、リタイヤする人もいるので、そこをどう埋めていくか、が喫緊の課題です。人材の確保、育成、維持、この3つが非常に大きなテーマだと思ってます。二輪も四輪もそうですが、日本という国の構造上の問題もあると思います。販売の仕方をストックロケーターに変えるなど、いまは様々な部分で効率化を図り、デジタルコミュニケーションの強化などにも取り組んでいます。でもやはり二輪販売は人と人とのビジネス。プレミアムブランドとして商売しているからこそ、どれだけ良い接客ができるか、お客様に満足してもらえるか。その付加価値の部分を、どこまでしっかりお伝えできるかが一番重要。そこで欠かせないのが人財なのです。
――― 今後、力を入れていくことはありますか。
大隅 メーカーなので結果的に販売台数に直結する施策が最重要課題ですが、まずはディーラーとのコミュニケーション。これが最も大切です。彼らとは地域ナンバーワンの店を目指そうという目標を共有しています。地域ナンバーワンの店とは、「あの店は接客クォリティが高く最高のサービスが受けられる」「買った後もツーリングなどの企画がたくさんあり、いつも楽しませてくれる」など、顧客満足度の高いショップを意味します。お互いこうした話をしながら、一体となって前進する、そんなイメージです。
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