販売店取材スズキKTMハスクバーナ

【販売店取材】SUZUKI MOTORS 鈴木貴大 社長(山形県)

公開日: 2021/09/30

更新日: 2022/09/21

SUZUKI MOTORS 鈴木 貴大 社長


今年5月の新店舗への移転を機に、それまでの方針を180度転換。中古車中心から新車中心となり、取扱ブランドも、スズキ、KTM、ハスクバーナの3ブランドへ。さらには、デグナー、RSタイチ、オークリーなど、アパレル関連の取り扱いも開始。ユーザーの支持を集め、移転した5月に過去最高売上と過去最高利益を達成した。

新店舗の広さは前店舗の4倍にまで拡大

<center>5月に新店舗に移転したばかりのスズキモータース。広さは前店舗の4倍に</center>
5月に新店舗に移転したばかりのスズキモータース。広さは前店舗の4倍に

山形県酒田市にあるSUZUKI MOTORSは同市内で創業。60年に渡り販売活動を展開してきたが今年5月、およそ4キロ離れた国道7号沿いの酒田市中心部に移転した。

「以前の店舗は狭かった。大きな店に移りたいとずっと思っていて、2年ほど前から物件を探していました」

こう語るのは、SUZUKI MOTORS(株式会社キャリー/以下、スズキモータース)の鈴木貴大社長。物件を探している時に発生したのが、今も続くコロナ禍である。

「こういう言い方をすると語弊があるかもしれませんが、コロナ禍は一つの転機だと感じました。これは私の性格なのですが、みんなが落ち込んでいる時には、逆張りしたくなる。銀行も普段よりも多く貸してくれるし、コロナ禍の関係で、返済開始は3年目まで猶予されるなど、利点は大きかった。いまがチャンスだ、と思い、店舗の移転を決意しました」

店の広さは一気に以前の約4倍となった。この広さには、理由がある。

「KTMを扱える広さなんです。バイクショップ経営における私の師匠の店は、KTMで販売上位の店。師匠からは、『次に扱うのは、KTMがいいぞ』とずっと言われていました。でも、KTMを扱うにはショールームの広さが最低150㎡は必要。そのため以前の店では扱えなかった。新店舗になることで、KTMを扱える箱の大きさになったので、スズキに加え、KTMのディーラーになることを決意しました」

現在、KTM傘下にハスクバーナがある。KTMとディーラーの契約を結ぶ際、「この広さなら、ハスクバーナも一緒に扱えるが、どうか?」と打診されたという。

「もう即答です。やります、やります、絶対やります、と(笑)」

こうしてスズキの他、KTMとハスクバーナを取り扱いブランドとしてラインアップ。KTMについては山形県唯一のディーラーとなった。

「KTMのディーラーは東北では仙台、岩手、青森、そしてウチ(7月末日現在)しかありません。KTMの新車が欲しいという山形のお客さんは、今までは仙台とかに行かなければなりませんでしたが、ウチで購入して頂けるようになったのです」

しかし、いくら師と仰ぐ人に勧められたからと言っても、ディーラーになることを即断できるものなのだろうか。

「私が昔から大事にしているのは『成功している人の意見は素直に聞く』という考え方です。今、私は27歳ですが、年齢もたいしていってないし、経営経験もさほどありません。自分のヘンなプライドやこだわりは捨て、成功している人の意見を素直に聞いて実践し、それを吸収していく。それだけなのです」

移転を応援してもらうために、クラウドファンディングでファンを獲得

<center>167万円以上が集まったクラウドファンディングのプロジェクト</center>
167万円以上が集まったクラウドファンディングのプロジェクト

移転に際して、スズキモータースでは、ユニークな取り組みを行っていた。

「クラウドファンディング『キャンプファイヤー』の活用です。『新店舗移転オープンを応援して欲しい』というプロジェクトを今年2月に立ち上げました。目標金額は100万円。支援者は144人、支援総額も167万円以上となり、プロジェクトは成功しました」

クラウドファンディングは個人が何かを作る時の資金調達を、応援という形で広く一般から募るというもの。だが、店舗移転の応援で、目標金額が100万円というのは、かなり少ないと思うが、スズキモータースの狙いは資金調達だけなのだろうか。

「もちろん、100万円というのは大きな金額です。でも、移転に際し、1億円以上のお金がかかっています。私はクラウドファンディングで資金調達を目的にするのではなく、応援してくれるファンを増やしたいと思ったんです。私がどういうことを考えていて、今後どうしていきたいか。それをしっかりと発信し、こういう思いで移転をするから、応援して欲しいと。応援してくれた人たちには、その思いが伝わったと思っています」

支援者となったスズキモータースのファンは、色々なところで『スズキモータースって、こういうところを目指しているみたいだから、応援しているんだよね』と、鈴木社長の思いや店名を広く喧伝してくれたという。

「その結果、『スズキモータースが移転するみたい』『KTMやハスクバーナを扱い始めるらしい』ということが、どんどん広まっていきました。プロジェクトは2月に始めたので、オープンのはるか前から多くの人に認知され、5月2日にオープンした時には『やっとオープンしたの?』と言われました(笑)。そして、オープンを待っていてくれた人たちが集まってくれ、5月は設定した売上目標の250%を達成し、過去最高売上と過去最高利益となりました。私としては、波に乗れるのは早くて秋くらいからかな、と思っていたのですが、応援してくれた人たちのおかげでロケットスタートが切れました」

新店舗オープンで変わったのは、取り扱いブランドだけではない。店の方針も180度変化した。

「私が祖父から店を承継した時、経営状態は決して健全ではありませんでした。だから、目先の売上、目先の利益、目先の現金が欲しかった。YouTubeを使って、仕入れた中古バイクを紹介し、欲しいと問い合わせてきた人に売り現金にする。それをひたすら繰り返していました」

鈴木社長がYouTubeで紹介した車両の成約率は、なんと99%に達した。

「成約率は高かったのですが、逆にいうと、YouTubeの投稿本数イコール年間の販売台数だったんです。また、YouTubeは全国どこからでも見ることができるので、販売エリアは北海道から沖縄まで広がりました。ただ、県外に販売すると、それっきりなんです。売って終わりの、超がつくほどのフロービジネス。近隣のお客さん以外は、点検・車検やメンテナンスはもちろん、カスタムや乗り換えの相談も入ってこない。それを、ふとした時に『もったいないな』と感じ、移転を機に、YouTubeでの中古車販売を少なくし、店舗での新車販売を中心としたビジネスに切り替えました。同時に、マーケットも狭め、県内及び隣県を対象とし、それ以外のお客さんから欲しいと言われても断るようにしています」

スタッフに『2年後のお客さんを今、作っているんだよ』と伝える

<center>広々した店内にKTM、ハスクバーナ、スズキのバイクを展示</center>
広々した店内にKTM、ハスクバーナ、スズキのバイクを展示

成功を収めていた売り方や広い商圏を手放すのは怖くなかったのだろうか。

「めちゃくちゃ怖かったです。でも、経営を安定させるには、短期的な数字よりも継続の見込める長期的な数字を作っていかなければならない。売って終わりだと、私に何かあると続かない。バイクって、大きな周期で考えると、2年で回っています。2年前にバイクを購入したお客さんが、今、お客さんとして戻ってきています。同様に、今、購入したお客さんは、2年後にお客さんとしてまた戻ってくる。スタッフには『2年後のお客さんを今、作っているんだよ』という話をしています」

さらに、その2年の周期を縮めるために、「ユーザーへのバイクライフの提供」をとても大事にしているという。

「私たちにとっては100台のうちの1台の納車だとしても、お客さんにとっては1台中の1台。200万、300万もするオートバイを買うのって、大きなライフイベントなんですよね。そのお客さんに対して何ができるかと考えた時に、バイクを買った後の楽しみやアドバイスなど、バイクライフに彩りを与えられるようなサービスや接客の提供だと思うんです」

その一環として行われているうちの一つが、ツーリングや試乗会のイベント。

「イベントはツーリングや芋煮会など年に17回ほど開催しています」

そのうちの7回を占めるのが4月から11月まで毎月行っている試乗会。これまで、KTMに興味がある人がいたとしても、スズキモータースが取り扱うまでは、なかなか乗る機会そのものがなかった。

「県内にKTMとハスクバーナのディーラーがウチしかない。乗ってみると楽しさを実感できるバイクなので、多くの人に乗ってもらいたい。それで、乗る機会、触れる機会の提供ということで、新店舗になってからはKTMとハスクバーナの試乗会を開催しています。どうせならお祭りっぽくしたいなと思って、試乗会の時は毎回、キッチンカーを呼んだりして、乗るだけじゃなく、ここにくること自体が楽しい、そんな雰囲気にしています」

スズキモータースのミッションは『バイク業界の次代を作っていく』こと

<center>アパレルは見やすくオシャレにレイアウト</center>
アパレルは見やすくオシャレにレイアウト

最後に、今度の展開について聞いた。

「バイク業界って、社長の平均年齢が65歳以上と言われています。そして、8~9割のお店が、後継者問題を抱えています。10年後、20年後を考えた時、バイク屋さんがかなり減っているのではないかと感じています。いくらメーカーが頑張っても、販売店がなければどうにもならない。私は、祖父の興したスズキモータース(当時の店名は、鈴木モータース)をなくしたくないという思いで、この店を承継しました。同じように、全国にはなくなって欲しくないと思う素晴らしいバイク屋さんがいくつもあります。もし、誰も承継する人がいないのであれば、やがては私が承継していけたらと考えています。でも、そのためには、『力なき正義は無力なり』という言葉があるように、まずはこの店舗がモデルケースにならなければならないと感じています。しっかりとした基盤を作り、私になら任せても大丈夫、そう思ってもらえる人になりたいですね。ウチのミッションは『バイク業界の次代を作っていく』なのですが、私の中では今、『バイク業界がこのままだと終わってしまうという危機感』と『私が次代を担っていくんだというワクワク感』が共存している感じですね」

過去最高の売上と利益を出したことに浮かれることなく、鈴木社長の目は、すでに先を見据えていた。



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